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我ら戦後世代の「坂の上の雲」 寺島実郎

本書では最初に何の説明もなく著者が1970年代に書いた文章が掲載されていてびっくりする。当時の文章を改めて掲載するといった注釈もなく、それを加筆したのかしなかったのかも書かれていない。更にはこうした40年も前の文章をそのまま掲載するに際しての著者の思いであるとか経緯なども一切ない。これはどうしたことかと不審に思わざるを得ないのだが、読んでいるうちに、著者が弁明も釈明もしなかった理由が段々判ってきた。これは著者が「戦後世代」と呼ぶ自分を含めた世代が時代の節目節目に何を考えてきたのかを示すためにその当時の自分の文章を順に検証していくという作業に読者が一緒に立ち会うという作業なのだということである。そう考えると、この本で著者が一切の弁明をしていない理由も納得できるし、むしろその潔さに大いに感銘を受けるのである。著者の最大の思いは、自分の属する「戦後世代」が日本という国において何を成し遂げ、何をやり残し、何を後世につたえていくべきかを考えることにあると思われる。それを考える上で、それを思想面から検証しているのが本書なのだ。若干著者よりも若い世代に属する自分としては、自分達の世代に、著者のような考えを持って、さらに次の世代に何を残すかを真剣に考えているオピニオン・リーダーのような存在が果たしているのかどうかが気になる。「戦後世代」から本書のような形で受け継がれたバトンをどう受け止め、どう次に渡すか、それを真剣に考える必要を強く感じた。(「我ら戦後世代の『坂の上の雲』」寺島実郎、PHP新書)
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