goo

閉じた本 ギルバート・アデア

本書はジャンルとしてはミステリーなのだが、普通のミステリーとはかなり趣が違う。主人公のモノローグ、主人公がある青年と交わす会話、主人公が電話で話すその内容、全編がその3つだけで成り立っていて、地の文というものが全くないというのが大きな特徴で、いわばラジオドラマの脚本のような感じだ。分量的には95%以上を占める2人の登場人物よる会話を読んでいるうちに、読者は何だか2人の間のただならぬ関係を予感し始める。しかもその会話の内容の中にも、常識的にはおかしいと誰もが思うようなことが混ざってきて、いよいよ変だと思い始めたところで、明らかになるどんでん返し。読み終わってみるとまあ単純な話だが、読んでいる最中のスリルはなかなか他では味わえないレベルのスリルだと思う。本書のよさは、多くの部分、その翻訳の素晴らしさによっているような気がする。大半を占める2人の会話は、会話を文字にした時にありがちな説明的な不自然さがほとんどないにも関わらず、それでいて話し手が言いたいことが過不足なく伝わるようになっているし、その場にいるような臨場感まで伝わってくる。隠れた名訳だと思う。(「閉じた本」 ギルバート・アデア、創元推理文庫)

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )