書評、その他
Future Watch 書評、その他
誰でも書ける1冊の本 荻原浩
本の帯に6人の連作集と書いてあったので、短編集かと思ったらそうではなく、6人の作家が6冊の本を出すという企画のうちの1冊だった。最近、そういう勘違いが多いようだ。それはそれとして、本書は、主人公による一人称の語りと、臨終の床にある父親の残した小説風の自伝が交互に書かれている。主人公はおそらく団塊の世代。彼らは、日本の高度成長期を支えた親の世代から日本社会を受け継ぎ、安定成長期からバブル期を経て現在までを担ってきた世代だ。当然ながら、戦争に翻弄された親の世代とは大きく異なる体験をしてきた。親の世代とこれほど違う社会に生きた世代というのは、人類の歴史のなかでも珍しいだろう。そうした世代が、親の死を契機に、親の世代について考えるとき、ほとんど何も知らなかったことに慄然とする、その心情が描かれている。その感情は、当然、自分達の世代から次の世代に何を伝えるべきかという思いを強く持たせるだろう。それが、団塊の世代による自叙伝ブームに繋がっている。親の生き様を総括すると同時に湧き上がる感情は自分の生き様をどう総括するかである。6人の作家による連作集の共通テーマは「死様」。自分達の世代をどうやって総括するのかという大きな潮流と連作のテーマを結びつけたその感性はさすが。他の作家の捉え方はどうだろうかと考えずにはいられない。(「誰でも書ける1冊の本」 荻原浩、光文社)
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