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寝ても覚めても本の虫 児玉清
芸能界きっての読書家と言われ、私の好きな「週刊ブックレビュー」の司会者でもあった著者による本にまつわるエッセイ集。追悼ということで本屋さんで平積みになっていたので読んでみた。著者の読書にまつわる思い出は、私の記憶とダブルところが随分多いような気がする。特に、岩波文庫の星の数についての記述は本当に懐かしかった。中学生だった頃の私は、岩波文庫の星の数を数えながら、毎月の読む本を決めていた。星1つだとこれとこれ、星2つだとこれとこれという表を作り、1か月のお小遣いの範囲内で、いろいろ買う本の組み合わせを考えるのが楽しみだった。もちろん、楽しみだったというのは今になって思う感想で、その当時はもっと自由に本が買えたらどんなに楽しいだろうかと考えていたはずだが。その岩波文庫、最初は星1つが50円だったのが、ある日突然70円になり、あっという間に100円になってしまった時の悔しさは今でも記憶に残っている。また本書のなかにでてくる書名も懐かしいものが多かった。本書のなかで「緑のハインリッヒ」について言及されているのには驚いた。確か岩波文庫で3冊か4冊の長編小説で、私の記憶のなかでは学生時代に読んだ本のなかで最も忘れがたい本の1つなのだが、今までこの本を読んだという人に出会ったことがなかった。今では作者の名前すら出てこないほど忘れていたのだが、本書の記述を読んで本当に久しぶりに思い出して懐かしかった。著者の読書の最大の特徴は、海外のミステリーを原書で読むことを喜びとしていたという点だろう。私は、自分の英語読解力のなさを自覚していて、原書で読むよりも訳書で読んだ方が本当の面白さが判ると考える方なのだが、彼の場合は、翻訳本を読みつくしてしまって、新しい本を読むには原書を読むしかなかったのだという。英語力の違いはもちろん脱帽だが、「読みつくした」と言い切れるほどの読書量という方が私には驚きだ。最近読む本のなかで翻訳本はおそらく1割にも満たなくなってしまったが、本書に触発され、何冊か読んで見たい翻訳本が見つかったのは大きな収穫だった。翻訳本が売れなくなっているという昨今、著者の不在は読書好きにとって大きな悲しみだ。(「寝ても覚めても本の虫」 児玉清、新潮文庫)