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彼岸花 宇江佐真理

江戸の市井に暮らす女性を主人公にした短編集。主人公達は、いろいろな制約のある世界で生き、ちょっとした嫉妬心や怒りによってとった行動に後から大いに後悔したりする。そこには極悪人でもなく素朴な善人でもない、ごく普通の欠点を持った人が描かれている。いずれの短編においても、主人公の視点で語られる主人公の内面には、嫉妬もあり、打算もあるのだが、それは悪人だからではなく、「正直に生きている」からだという著者の思いが強く伝わってくる。書評では、本書のことが、大震災の後だからこそ読みたくなる「人情話」として紹介されていた。確かに、そうした面もあるし、震災後にこれまでと違った読まれ方をされている本と言って良いようにも思われる。個人的な感想だが、震災後にこうした作品が読みたくなるのは、そこに描かれているような、心の葛藤とか、少し不幸な出来事によって喜んだり悲しんだりする、そうした日々の営みすら失くしてしまいそうな悲しさに気づかされるからではないかと思う。(「彼岸花」 宇江佐真理、光文社文庫)

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