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長い長い殺人 宮部みゆき

各章毎に違う人物の持っているお財布がそれぞれ一人称でリレーのように語っていくという、非常に奇妙な設定のミステリー。1つのお財布が落とされたり捨てられたり拾われたりして、持ち主が変わってしまったりもする。しかも、まるでお財布に目があるかのように、ほとんどが音だけを頼りにお財布が知りえたことだけで状況が説明されていくという、なんとも窮屈な設定だ。こうした設定のなかで、各章毎に新しい謎の提示や真相への話の展開といったものも織り込まれているということで、あとがきにもあるように作者の「超絶技巧」が楽しめるのは間違いない。ポケットの中のお財布が音だけを頼りに状況を語るという設定に、何か大きな叙述トリックのようなものがあるのかと思ったが、それは考えすぎだった。あとがきをみると本書が書かれたのは20年ほど前で、作者のかなり初期の作品ということになる。時期的にバブル崩壊の頃ということになるが、仕事人間へのまなざしがいかにもあの頃の雰囲気を残している一方、まだ勝ち組・負け組という言葉が定着する前に書かれたというところには作者の慧眼を感じることができる。(「長い長い殺人」 宮部みゆき、光文社文庫)

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