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人間とはどういう生き物か 石田幹人
情報工学の専門家が、「人工知能」開発の最先端の成果をもとに、「生き物とは何か」「人間とはどういう存在なのか」を語る本書。実にスリリングな1冊。人工知能やロボットの開発の歴史は、生物や人という存在の深遠さを思い知る歴史だと言い切る。会議中の「おなかがすいたなぁ」という発言に「もうこの会議終わりにしないか?」という意味を読み取ることはロボットにはできない。そこにロボット開発でどうしても乗り越えられない人間との違いがある、と著者は語る。こうしたロボット開発の限界というものだけでも面白いのに、著者はそれからどんどん先へ進んで、「量子過程」という考え方を持ち出してきて、生物とは何か、心とは何か、意識とは何かを語りだす。その思考の行き着くところが何ともすごい。生物の進化は、突然変異と適者生存と試行錯誤の3つによって起こるという進化論は、すでに破綻してしまっているという。例えばキリンが長い首を獲得するのにはいくつもの突然変異の同時出現が不可欠であり、それを試行錯誤で実現させるにはたかだか150億年程度の宇宙の歴史では全く実現不可能なのだという。それが短期間に実現するためには、いくつもの変化が互いに呼応しあう必要があるという。また、人の意識とは膨大な情報を感知している無意識のなかで、社会性を発揮するために生まれたごく小さな領域に過ぎないという。そうした思考の過程で、著者が提示するのが「量子過程に基づく生命観」だ。驚くようなことばかりだが、実に説得力がある本だ。(「人間とはどういう生き物か」 石田幹人、ちくま新書)
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