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ちいさな桃源郷 池内紀編

昭和30年代から50年代にかけて刊行されていた山登りに関する雑誌「アルプ」に収録されていた名文を集めた一冊。雑誌の名前は聞いたことがあるし、独特の表紙も見たことがある気がするが、オンタイムで読んだ記憶はない。各編の内容は、山登りというよりも、山里の風景とか田舎生活の様子とかが主で、本格的な山登りの文章は皆無。また、各編ともいつの時代の話なのか読んだだけでは分からず、その場所がどこなのかも余り重要ではないという感じでよく分からないものが多い。古いものだと60年くらい前に書かれた文章で、しかもかなり前の思い出話のようで明らかに戦前のものもある。書かれている場所がどこなのかも、わずかに記述された地名をネットで検索して意外に都会に近い場所で驚いたりという具合だ。具体的な時間や固有名詞など重要ではないというスタンスで書かれたのか、それともその当時は有名な場所でかつこんな何十年後にも読まれると想定していなかったからなのか。しかも心当たりのある名前の著者も皆無。殆どの著者は作家とか著述家となっていて、こうしたエッセイのような文章や私の知らない作品を書いて生計を立てられた人がこんなに多かったのだという事実にも驚かされた。こういう文章はなかなか読む機会がないので、何か新鮮なものを読んだ気分に浸れた。(「ちいさな桃源郷」 池内紀編、中公文庫)

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