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死に山 ドニー・アイカー

書評誌が選ぶ2023年の文庫ベストテンの第1位の本書。1959年2月にロシアウラル山脈北部で起きた9人の若者の遭難事件、通称「ディアトロフ峠事件」の謎を追ったノンフィクション。遭難現場近くに犠牲者のための立派な追悼碑が建っていたり、事件の記憶を風化させないための財団があったりで、ロシアではかなり有名な事件らしい。この事件、経験豊かなトレッキンググループが突然遭難したこと自体が謎なのだが、発見された彼らのテントに鋭利な刃物で切られた跡があったり、9人の遺体の状況がある者は裸足、ある者は裸同然、ある者は大きな火傷の跡、ある者は舌がなかったりと、とにかく異常。50年以上経っても雪男の仕業ではないか、UFOに襲われたのではないか、更には事件当時の当局の対応が消極的だったことから軍事秘密に関わる事故に巻き込まれたのではないか、事件の数日前に体調を崩してグループを離れて難を免れた生存者の犯行ではないかといった数々の憶測が飛び交っているらしい。ドキュメンタリー映画監督である著者は、本人たちが残した事件当日までの写真、克明な日誌、捜索隊、遺族、生存者の記録や証言、更には現地調査を行なって謎に迫っていく。著者の考察は、時間の経過だけでなく、大事にしたくないロシア当局の消極的態度、スターリンからフルシチョフ、エリツィン、プーチンといった指導者の交代で揺れ動くロシアの政治情勢などとも戦いながら、ある有力な仮説(カルマン渦列、超低周波音)にたどり着く。単なるドキュメンタリーではなくミステリー要素たっぷりのすごい一冊だった。(「死に山」 ドニー・アイカー、河出文庫)
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