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存在のすべてを 塩田武士

書評誌の2023年ベストテンで満場一致で一位に輝いた作品。著者の本は3冊目だが、既読の2冊とも非常に重厚で密度の高い内容だったので読む前から期待が高まる。物語は、神奈川県内で同時に2件の児童誘拐事件が勃発し、それに対処する警察官たちの奮闘が描かれた長めの序章から始まる。この段階でその緻密な描写とスリリングな展開に驚き、かつ何だかものすごい話だと感じて引き込まてしまった。続く本章では、それから30年後、事件関係者が少しずつ減っていく中で、ある出来事をきっかけにして、事件に関わった新聞記者と警察関係者の生き残りが大きな謎を残したまま未解決に終わった誘拐事件の真相に迫るべく奮闘する姿が描かれていく。一方それと並行して、ある画廊の父親を持つ女性の少女時代からの話が語られるのだが、これらの話がどのように結びついていくのかが読者の興味を引っ張っていく。この辺りの語りも濃厚かつ緻密だ。自分としては、話の舞台が神奈川県という地元であること、日本の洋画画壇のおぞましい因習などが事件の重要な要素になっていることなどもあり、話の細部に至るまで最高に面白いと感じた。(「存在のすべてを」 塩田武士、朝日新聞出版)
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