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人を襲うクマ 羽根田治
ここ数年全国でクマに襲われて被害者が出る事件が相次いでいるとか、OSO18の死体が見つかったといったニュースを聞いていたので本書を読んでみることにした。内容は①1970年北海道での九州の大学生3名のクマによる死亡事故、②クマの生態などに詳しい秩父の剥製業の人のお話、③平成20年代におきたクマ襲撃事件7件の重傷者の証言、④クマに関する様々な調査を行なっている研究者による解説という4部構成で、それぞれがとても為になった。全体的に山登りやトレッキングを趣味とする人のための解説書なので、クマと出くわさない為にはどうしたら良いか、あるいは運悪く出くわしてしまったらどうすべきかという視点で書かれているが、結論としてはその時の熊の状況や心理状態によって色々なケースがあり「正解はない」ということらしい。第2部では、熊猟には通常の解禁時期(冬)の狩猟と人的被害が出た後の害獣駆除(春〜秋)の2通りがあり、解禁時期のクマの方が毛皮もツヤツヤ、高価で売れる油や胆嚢が大きいという話、秩父の三峯神社の御神木に子グマが登ってしまい駆除された話などが興味深かった。また第3部では、被害者のほぼ全員が重傷を負っていて、クマが顔を狙ってきたとか、覆いかぶさってきてとっさに首を守ったという生々しい証言がすごかった。第4部では、日本は世界的にみて非常にクマの被害が多い国であること、それらの事故の被害者は春から秋に山菜やキノコ採りで山に入った地元の高齢者が多いこと、事故の大半はツキノワグマによるもので生息数あたりの事故件数がヒグマの10倍にのぼること、里山の衰退などで2020年から被害が急増していることなどの解説。クマ被害に遭わないための対策としては、不要な柿や栗の木の除去、残飯の処理、持ち歩く食料を密閉容器にいれる、ペッパースプレーの使用方法研修や装備の徹底、注意看板の設置などがあるそうだ。本書にはOSO18のことは書かれていないが、まさに今問題になっている人と熊の共存のあり方を考える糸口を教えてくれる一冊だと思った(「人を襲うクマ」 羽根田治、ヤマケイ文庫)
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