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頭上運搬を追って 三砂ちづる
行きつけの本屋さんで見つけた一冊。頭の上に荷物を載せて歩く風習が日本や世界の各地にあることは写真などで見たことがあるが、それを研究テーマにした本ということ少し面白そうだったので読んでみた。内容は、そうした頭上運搬という風習の歴史や地理的分布についての研究成果やそこから得られる文化的、身体技術についての知見だが、これらが予想以上に面白かった。まずそうした風習そのものについては、世界中にあること、何故か女性限定であること(男性は肩に担ぐ)、運ぶものは水、薪、海産物など多様であること、頭上運搬のやり方について誰かから教わったとか練習したということでなく自然にできるようになった、それでいて失敗したことはないし失敗した話を聞いたことがないといった証言ばかりであること、小学生くらいでも30kg、大人になると60kgくらいは平気で運べることなど、かなり意外な事実が次から次へと示される。一方、元々は色々な地域に見られたそうした風習が最近まで残っていた地域については、離島や海岸に近いの地域が比較的多く、考えられる要件として、狭い地域で生活が完結している、坂が多い、電車がない、道路の舗装が遅れたといったことが考えられるとのこと。そうした頭上運搬に関する調査から本書では身体技法について色々な考察がなされているが、特に面白かったのは次の2つ。まず一つは、身体技法というものが、周りの人がやっているのを小さい頃から見ていると自然と自分もできてしまいという性質があることで、技術の獲得には「やればできる」という感覚が大きく作用するらしい。もう一つは、かつて当たり前だった身体技法も、使われなくなると急速に(おおよそ2世代くらいで)廃れてしまうということ。道路の舗装や交通機関の発達で頭上運搬が急速に姿を消し、実際に行なっていた人、あるいはそれを目撃していた人も高齢化していて、著者の調査自体、こうした調査が行えるギリギリのタイミングだったようだ。すごくニッチなテーマだが色々な意味で面白い一冊だった。(「頭上運搬を追って」 三砂ちづる、光文社新書)
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