今回は山岸凉子です
「パイドパイパー」 1990年 メディアファクトリー
道子は2児の母。夫の転勤で故郷に帰ってきた。
道子が小さい頃、妹の藤子がこの町で誘拐されて殺された。
夫は浮気中。しかし道子は子供達の為に頑張ろうと思っている。
長女の千歳が誘拐された。
道子は娘を取り返す為に奮闘する。
犯人は旧家の・・・・
ストーリーだけ見るとどうってことないんですが。何気にすごい話です。
「パイドパイパー」とはハーメルンの笛吹の事。
どういうわけか子供がついていってしまう声音を持っている・・・そして子供は行方不明に。
道子は浮気し、夫としても父親としても責任を果たさない夫に怒りつつも
どこかであきらめて、今の生活をしようとしています。
しかし、娘の誘拐をきっかけに「自立」していくのです。
そして犯人の方も、ある意味気の毒でした。
生まれながらのシリアルキラー・・・それをひた隠しに隠され、さらに犯罪を重ねることになった
青年。ありのままを受け入れる事が出来なかった母親(っていうか、そんなの無理ですけど)
が最後に千歳を救って死ぬのが幸いでした。
もう秋ですが読んでぞぞっとしてみるとか。
同時収録 「蜃気楼」はもっと怖いです。
浮気している夫を家に帰すために火事を起こす妻。
その妻はしっかりと陰で夫の身上調査をしていた・・・・
妻は馬鹿だ馬鹿だと思っていたら、実は非常に賢かったという話で。
そして「負の暗示」
これは「津山100人斬り」と呼ばれた殺人事件を扱った物語です。
昭和初期、津山の村で、ほぼ全員を一人で殺して自決した青年がいました。
だけど真実はどこにでもいる現代的な若者。
甘やかされて育ったばかりに、自己評価ばかり高くなり、ゆえに小さな挫折に弱い。
特に自分の最も弱い所「男の魅力」を否定されたとき、壮絶な殺人事件に
発展してしまうのです。
この事件に関しては、のちにルポを読みましたが、閉鎖的な村社会の中で
大元は少し財産があった祖母と村との軋轢が小さな原因になっていたこと
生き残った姉の子供などから見た彼はふつうに優しい青年であった事が
わかります。
「パイドパイパー」に描かれた犯罪者は生まれつきの「気質」
でもこちらは環境要因が大きかったんだなあと。
ともあれ、この絵を見るとどうしたってあのお妃の笑った顔が浮かんで怖いです。