土曜日に見てまいりました


ベルサイユのばら フェルゼン編 
鈴木圭の試み
今回はよく頑張ったねと言ってあげたいです。原作を変えるわけにもいかないし、ストーリーをカットするわけにもいかない。
月組で変にオリジナル性を出そうとして「ベルサイユの衛兵隊」になっちゃった分、こちらでは華やかさを残そうと頑張ったんでしょうね。
少々間違っていた部分はあったけど、仕方ないのかな。
原型をとどめない物語を歌舞伎に
多くの人が「眠くなる」と言った気持ち、わかります。ストーリーはぶつ切りだし、全然整合性がないし。
みんな、話を知ってる前提で書かれているからはしょるのも半端なく・・・
しかも歌舞伎調のセリフは随所に。
そこで思いました。もっといっそ「歌舞伎」にしてしまったらよかったのにと。
前半はデコレーションケーキの上をぐるぐる回る華やかなオープニングで、その後はすぱっと
「フェルゼン、オスカルとメルシー伯爵に帰国を促されるの段」
「フェルゼン、王妃と逢い引きの段」
「フェルゼンの告白」
みたいな場割で、余計なシーンを全部省いちゃうの。そうすれば1場がもっと濃厚になる筈です。
何でそう思ったかというと、壮一帆のセリフ回しが完全に歌舞伎調だったからです。
もはや「ベルばら」のセリフを自然にいう事は不可能な時代に来ているんでしょう。
あからさまな4文字熟語に古めかしい言い回し、まわりくどい言い方、使い慣れない敬語のオンパレード。
それを何とか自然に言おうとして失敗しているのが早霧せいな。
彼女は多分セリフを自分のものにしていなかったろうと思います。なぜなら日常と剥離しすぎのセリフだから。
未涼はそこらへんを時代劇調に演じて成功したなあと。
「忠臣蔵」だって通しではやらないでしょう?だったら「ベルばら」も必要な部分をチョイスして「歌舞伎」の1幕芝居として
見ることが出来ればそれはそれで斬新だと思います。
電飾と絵
今回は予算をケチったのか?お金・・・あまりないよね。
「ベルサイユのばら」というと豪華なセットに目が行くものですが、今回は華やかさを表現したのは電飾のみ。
もうこれでもかっというような電飾の数々。それと遠近感のある背景の絵ですか。
その昔を知っているものからすれば「宮殿」や「柱」やジャルジェ家の豪華なセット」が頭に浮かんで・・・あーあって思うけど
とにかく背景の絵を描いた方の努力に免じて許してあげちゃおう。
あれだけ遠近感を持った絵にしてくれると、非常に舞台が広く見えるしね
新曲
今回の新局は「アン・ドゥ・トロワ」作曲は吉田優子。いい曲だったなあ。個人的には「ばらのスーベニール」が好きなんですが
あれは封印かしら?「愛の面影」今回の壮君の歌で、いい曲なんだとやっと思えました。
数々の寺田メロディの中に違和感なく溶け込めるように新曲を作るのは大変な作業だと思うんですが、吉田先生はすごいなあ。
振付が・・・
幕開きの小公子の「ごらんなさい」を見てて、我が姫が「くすっ」と笑っちゃったんですね。小公子たちの踊りがぴょんぴょんうさぎの
ように飛び跳ねて見えて笑っちゃったらしいのですが、今回はちらりと変な振付が多々あるなと思いました。
例えばバスティーユのダンス。あれって見せ場の筈なんですが、揃って踊るシーンがすごく短い為に緊迫感がないんですよね。
ロケットの振付は杜けあき版にそっている筈なんですけど、当時より動きが悪く見えて。
尚すみれだよなあ・・・何でこうなるのかしらなんて思ってしまいました。
初演の花組版ではみんなそろって足を上げていたし、群舞の部分はもう少し長かったけどなあ。
それとオスカルとアンドレのラブシーン。多分榛名由梨指導なんでしょうけど、初演時に比べるとさらに無理無理
態勢を変えている印象で、優雅さがなくなったような気が・・・・カーテンが引かれる寸前のあの姿勢、見ている方は
「美しい」というより「そりゃ無理でしょ」って感じです。
日本語が・・・・変・・・かも。
「貫きとげる」・・・メルシー伯がフェルゼンに帰国を促し、それを聞こうとしないフェルゼンに向かっていうセリフ。
「貫き遂げるおつもりか」普通は「貫き通す」ではないかと思うんですけどね

「お館」・・・オスカルがアントワネットに「お館にお戻りください」というんですが、これは変ですね。宮殿の庭園という事は
ベルサイユ宮殿でしょう?トリアノンじゃないでしょう?「宮殿へお戻りください」の筈。何で何度も「お館」なのか。
鈴木圭はそこらへんの身分制にまつわる物言いを知らないのか?(若いから?)随所にそんな場面がありました。
「女王陛下」・・・・メルシー伯がマリア・テレジアの事を語る時に言うのですが、マリア・テレジアは女王ではなく女帝です。
植田先生はアントワネットの事を「女王」と呼ぶ事が多々ありましたが、「女王」と「王妃」は立場が違います。
フランスは王室、オーストリアは皇室です。国王と皇帝は違うのです。
「ああパリの夜」
これって「ベルばらⅢ」のオープニングのオペラ座の舞踏会で歌われてた名曲。この曲、大好きになって、その後に始まる
アジアンティックなダンスの数々に見惚れたものでした。
(考えてみると何でフランスでアジアだったんだろうと・・・・と思うけど)
朗々と歌う筈のこの曲を、パペット調にぶつ切りで歌う。そして出演者がみな人形のような動きをして状況説明。
これを新しいと思うべきか否か・・・・何だか「仮面の男」を思い出しちゃったよ

過去と現在を表現し、尚且つおおざっぱにさらっと流してしまいたかったのでしょうね。だったらやっぱりここはばっさり切るべきで
フェルゼンとアントワネットの逢い引きのシーンへ持って行けば問題なかったような気がします。
なんせアントワネット様、これだけ回りの人に大事にされているというのに、前半ほとんど出てこないんですものね。
何でメルシー伯は窓から入ってくるの?
フェルゼンの屋敷に窓から入ってきたベルシー伯。これを見た時、ちょっと笑いそうになって。
だってこれってオスカルの部屋に忍び込んでくるロザリーそっくりじゃありませんこと?
みんな正面玄関を通りたくないわけね。
メルシー伯の場合、いくら内密の話だって言っても、使用人に顔を見られて困るという立場じゃない筈でしょう?
セキュリティのあまりフェルゼン邸なのでありました。
メルシー伯爵とフェルゼン伯爵、どっちが上?
メルシー伯爵はオーストリアの貴族でフランス大使。フェルゼン伯爵はスウェーデンの貴族で伯爵。
二人とも外国人で同等の爵位を持っています。という事は会話をする時はメルシー伯の方が
年長者なのですからタメ口でいい筈です。
でもなぜか「フェルゼン様」という。無論、これは大元の脚本を書いた植田先生が間違っているのですけど、鈴木圭にも
もう少し「身分制」のお勉強をしてほしかった。
こういう間違いはアメリカのドラマやミュージカルではよくある事。例えば「ミーマイ」とか「プリティ・プリンセス」とか。最近で
いうと「ゴシップガール」を見ながら「モナコのプリンスに嫁ぐセレブ女が自由に町を歩ける筈ないし、プリンスがSPもつけずに
人の家に入る筈もないっ」とその「軽さ」に怒りを覚えます。
1幕ラストに堂々とアンドレがオスカルの隣にいるのも軽すぎる話だし、アンドレが死ぬシーンの軍服なんて将校クラスか?と
いう程豪華で。
身分には上下あり、それによって扱いが違うし、扱われる人も違うという所がなかなか理解されないんでしょうね。
「君は・・・・僕を・・・・」
このシーンでわが娘はつい声を出して笑ってしまい・・・回りから「しーっ」状態になったのですが。
フェルゼンって自意識過剰なんじゃないの?
そもそも最初の登場シーン。柱の陰から出てくるわけですよ・・・・にやついて出てくるフェルゼンを見て
「これは色好みの業平」だと直感してしまいました
アントワネットの部屋の前。柱の陰にかくれているフェルゼン。そして夜な夜な幽霊が出るぞーと噂される程徘徊・・・って怖い。
それ以上に、「君は・・・僕を・・・」の衝撃は強かった。
オスカルが「へ?何を言ってるんだ?勘違いするな」と言ったらどうなるの?
完璧にオスカルは自分に惚れてたんだー悪かったな、気づかなくて。いやーーモテる僕はつらい。辛いけど今は王妃様が
一番でごめん。みたいな感情が透けて見えて背中がざわざわしましたよ。
しきたりに縛られて・・・・
処刑される時、38歳だったルイ16世。磯野さんが演じるにはあまりに若すぎて。
でもまあ、すごく優しくていい王様である事は確か。
(小雨なのに散歩っていうのは頂けないけど)
彼が「しきたりや伝統に縛られて自由に散歩する事も出来ない」と嘆くシーンが2度程ありますが、
今の私には同情出来ないセリフですね。
だって、その分、衣食住に心配なく贅沢な生活をして錠前作りなんかを優雅にできちゃうんですから。
そりゃ「お茶の時間を変えるのに20回も会議」っていうのは、面倒だなあと思いますよ

でも、王妃様は回りがしきたりに反すると言ってもさっさとプチ・トリアノンに行っちゃったし、好きな人としか接見
しないし・・・要は強さの問題なわけで。
心から「こんなお茶の時間は無駄」と思えば、一喝で廃止し、その茶っ葉を庶民にわけてやれくらいは
言えたかもしれないよね。
オスカルはいつまで近衛隊にいたのか
フェルゼン編は三部会召集から始まっているのです。この時期、原作ではオスカルはすでに衛兵隊の筈。
なのに、ぐだぐだといつまでも近衛隊にいる不思議。
「王宮の飾人形」と言われるのが嫌だーとアンドレに愚痴っては「お前がいくら悩んでも解決しないって」と慰められの連続。
だったらさっさと衛兵隊に変わらんかいっ
と、思ったらあっさり衛兵隊へ。ここらへんの時系列がめちゃくちゃなのは
仕方ないのかしら?
王様の前で告白したフェルゼン
時系列がおかしいと言えば、フェルゼンだってもっと前に帰国していた筈だよね・・・・要するに「三部会」が行われた時期
というのがおかしいわけね。
それにしても「フェルゼンの告白・紅ばら白ばらの段」はすごかったーー
今まで誰が演じても多分、ここまでの気迫は感じなかったでしょうけど、回りにやいのやいのと言われ、王様の抵抗もむなしく
言われっぱなしのフェルゼンが「私は婚約したから帰国するのではありません」と堂々と発表
取り次いだメルシー伯は蒼白。こいつ、何を言いだすんだ?と思ったら、「私が愛した方は紅ばらのような方でした。
私を愛してくれた方は白ばらのような人でした」と朗々と語りだす。
私がアントワネットだったらとても冷静に聞いてはいられませんよ。
「フェルゼン・・・私達の縁はこれまでだったのね・・・・は?王様、何で引き留めるの?私が悲しむってそりゃみんなの前で言っては
まずいでしょう。みんな怒ってるってば。やめて、王様。それ以上。え?フェルゼンは結婚しないの?何だかうれしい。
でもじゃあ私の為に帰国するの?そんな・・・あんまりよ。何で私達を引き裂くの?
フェルゼンを愛した白ばらの女って誰よ。その女とどういう関係があるの?」と心の中はぐちゃぐちゃの動揺しまくり。
一方オスカルだって「え?王妃様の前で自分の事を話すのか?フェルゼン!誤解されたらどうするんだよっ!」的な?
そんな回りの人達の思惑をよそに堂々と王様の前で告白し、歌って去っていくフェルゼン、あっぱれ。雪組屋!と
叫びたくなりました。
本当は背中ざわざわシーンなのに、なぜかすごく感動している自分がいて。
フリントいえども告白するならここまで堂々とやるべきなんだなあ。それが男だよ。と一人納得したのでありました。
歩いて国境まで行ったの?
スウェーデンに助けを求めに来たジェロ―デルと共に国境まで行ったフェルゼン。そこで国境警備隊に捕まってしまうのですが
まさか歩いてフランスまで行こうとしてたのかしら?途中、農民が「フランスの国王が処刑された」と噂しているのを聞くのも
歩きだったしね。
国境警備隊のアントワネットへの悪口はすごい。もしかして某妃へ向けられたものじゃないかと疑う程でした。
剣を封印したわけ
なかなか剣を抜かないフェルゼン。何で?と思っていたら「これ以上迷惑をかけたくない」というので椅子からずりおちそうに。
ちょっと・・・今さら何を言ってるの。あなたが国境を無断で超える時点ですでに迷惑かかってるし。
家にも国にも恥をかかせておいて、これ以上迷惑はかけられないとはどういう事なのか?
私がジェローデルだったら呆れて切り殺されちゃうわよーー
ここはわがままと言われても迷惑と言われても王妃様の為にすんなり剣を抜くべきだったでしょう。
ラスト、フェルゼンのセリフは。
フェルゼンの最後のセリフと言えば「王妃様、あなたはいつまでも私の胸の中に生きています。あのベルサイユに咲く
紅薔薇のように」ですが、これってアントワネットの「さようならフランス」の前だったっけ?後だったような気もするんですが。
何だか前だと間延びするかなと。
フィナーレの順番
銀橋の歌を省いて、いきなりロケット。そして壮と愛加のデュエット・・・ここではやたら懐かしい曲が流れ。ショーちゃーんって感じ。
普通はここでエトワール・・・なのに、もう一個燕尾服があった。
珍しい段取りねーーと思いました。
出演者について
壮一帆・・・フェルゼン。もうね。壮がいなかったら成り立たない芝居でした。どこまでも本気、どこまでもフェルゼン。
口調も大仰さを通り越して型の領域に入っていました。それゆえ、求心力があり、観客も集中出来たでしょう。
苦労人らしい技術の駆使。雪組生は見習うべきですね。
正直、壮にはこういうコスチューム物は似合わないと思ってました。ベルばらなんて対極にあると思ってました。
でも、そうじゃなかったんだなあ・・・・男役の「型」をきちんと踏襲しているという事を再確認できてうれしかったです。
必死で優しいフェルゼンでした。
愛加あゆ・・・アントワネット。最初から最後まで白羽ゆりの真似に見えました。もうちょっと痩せないと。永遠にリフトして貰えないかも。
早霧せいな・・・オスカル。頬のこけっぷりが尋常じゃないし、ダンスの人の筈が疲れ切ってるし。一体どうしちゃったの?という感じです。
化粧も浮いてる?愛加も早霧もセリフを教えられたとおりに言うのが精一杯で内面の感情にまで
意識が向かっていないような気がしました。
未涼亜希・・・・アンドレ。久しぶりに包容力のある余裕綽々のアンドレを見た気が。なんたってオスカルがどんなに悩んでも
「お前がそんなに悩んでもしょうがない」といい、プラス思考に持って行こうとするし。視線も優しくて。まっつは恋をしたの?
尋常じゃない男役っぷりです。
夢乃聖夏・・・ジェローデル。早霧がやせ細っているので太って見えるだけ?一番元気そうでなにより。
この手の役はお手の物でしょう。コスチュームの着こなしも最高ですし。重要な人ですね。
彩風咲奈・・・アラン。声ががらがらで。メイクが変?
彩凪翔・・・ベルナール。役どころが大きくて驚きでしたが、そつなくこなしている印象。
大湖せしる・・・オルタンス。非常に綺麗な若奥様でした。
汝鳥怜・・・メルシー伯爵。伯爵というにはちょっと腰が低すぎるような気もしますが。
磯野千尋・・・ルイ16世。非常に優しくていい王様でした。ラストにふさわしい。
箙かおる・・・ブイエ将軍。久しぶりの箙さんにほっ。でもちょっと滑舌が悪くなったような?体調は大丈夫なんでしょうか。
壮一帆率いる新生雪組は、大空と同じような感じに花開いて行くものと思います。
壮は元は雪にいたわけだし、あの頃の頼りなさが嘘みたいに一瞬にして組子を掴んだという印象です。
ある意味、安心して見ていられますね。
しかし・・・今回、彩風だけじゃなくて組子達のメイクがちょっとおかしく見えたのは私だけかしら?
特に目元が。青のシャドウを使い慣れていないのかしら?