絵は糸井さんと早野さん
早野龍五さんと糸井重里さんの対談本
「知ろうとすること。」新潮文庫 2014年10月1日発行 430円
が、痛く心にしみたのでご案内します。
早野龍五さんは東大・理学の教授。糸井重里さんは西武百貨店のキャチコピー「おいしい生活」などでおなじみのコピーライター。お二人は、2011年3月11日の福島原発事故とそれ以降の様々な情報の流布を巡って、逡巡と活動の結果、知り合った間柄。現在もそして今後も長く引きずるだろう原発事故による放射能被害を巡るお二人の対談である。サブカルチャーを専門とする糸井さんと理論物理の先端を行く早野さんの組み合せというのが、不釣り合いに見えるが、そうではない。
早野さんは原発の専門家ではないが、事故の翌日セシウムが検出されたというニュースに触れ、「Cs137が出す662keVのガンマ線を確認したという意味か。」とツィッターで発信し、「セシウムが原子炉の外で検出されるっていうことは、とってもまずいことだ」と、科学者意識が触発され、東電や自治体が公表しているデータを探しまくり、グラフ化する。それを見た各地の、同じような習性(科学者?)をもった人たちから、データが次々に送られてくる。それらをまとめ、ツィートすると、そのホロワーが一気に15万人くらいになった。糸井さんはそのホロワーの1人で、早野さんのツィートを広める一役を買うことになる。
早野さん自身は定期的に福島に出向き、学校や病院などスタッフとさらに詳しいデータを蒐集し、ついには自らの費用で乳幼児用の測定器を開発するまでにいたる。
デマ情報に惑わされるのではなく、まるでドラマを見るような活動ぶりである。それが科学者なのだろう。早野さんだけでなく、そういう科学者が日本に相当数おり、いざというときひとつの文化のように活動しあえたという現実が、私たち日本の未来を明るくさせてくれる。
難しいテーマではあるが、話の内容は分りやすく手に汗を握るようだ。皆さん、ぜひご購読を奨めます。
あとがきで糸井さんは今回の事故のように事実の有り様が不分明な時のとる姿勢として次のように書いています。
ぼくは、じぶんが参考にする意見としては、「よりスキャンダラスでないほう」を選びます。「より脅かしていないほう」を選びます。「より正義を語らないほう」を選びます。「より失礼でないほう」を選びます。そして「よりユーモアのあるほう」を選びます。
原発に限らず、いろいろな社会運動や政治的発言に対しても、この糸井さんの判断基準はおおいに参考にしたいものである。【彬】