今年の春は、どうも心が騒ぐのだ。桜前線がどうのこうのと伝えられると何故か急かれる気持ちになった。夢の中にも、時々桜が出てきて、目の前が、桜色に染まるのだった。
今まではこんなことはあまりなかった。敢えて花見に行こうという趣味の人間ではないのだが。ああそうか、5月に予定している、絵の展示会の為に、季節柄とにかく「満開の桜」を描こうと決めてからどんな絵にしようか悩んでいたな。問題なのは描きたいと思うからでなく、とにかく描いておこうと決めてしまっていたのだった。そして、描きあげた。実際の桜を見て描いたのではない。想像したイメージの中の大樹の満開の桜、そして、花弁がサラサラ散る絵にした。これでようやく安心していた。
ところが、それから、花見をしたいと思うようになり気持ちが抑えられなくなった。桜の名所である、小金井公園や、野川公園にランニングの練習に行っては、桜の咲き具合いを見るようになった。だが、自分として満足する桜の風景にたどり着くことはなかった。
そして、4月7日(日)。いつもの多摩湖往復コースでランニング練習をした。暖かく気持ちがよい。満開の桜トンネルが続く。あまい花の香も鼻をくすぐる。ようやく求めていた素晴らしい景色に会えた。脚は疲れない。呼吸も楽だ。この景色が、つらさを忘れさせてくれたようだ。
その夜は、自分の描いた、「満開の桜」を眺めながら、杯をあおった。久しぶりの花見だ。
世の中に絶えて桜のなかりせば春の心はのどけからまし。在原業平
今年は、久ぶりに、こんな、日本人の桜を想う気持ちを感じた春である。
絵はランニングコースの桜トンネル
2019年4月9日 岩下賢治