3月に自分の所属する絵画愛好会が展示会を開くので、僕は作品を3点用意した。その中の1点は、「氷に囲まれた難破船」とした。北極海で遭難した帆船が朽ち果て、氷に囲まれている絵だ。このようなモチーフはアマチュアの作品展ではあまりみない。
何故、難破船の絵にしたのか。廃墟、廃屋、遺跡、などは、眺めていると、活き活きとしていた栄華の時代に思いをはせ、歴史のロマンを感じる、ということもある。なるほど、廃墟を巡る観光ツアーにはロマンを求める参加者が多くあつまるようだ。僕もそう思うが、なにより、捨てられたもの、朽ちたもの、それそのものに「美」があると思う。絵を描く目的の一つは「美」を追求することだろうが、毎回脚を運ぶ、日展にも、遺跡、廃墟、廃船、に「美」を見出しモチーフにした作品をよくみる。
僕はずいぶん前から、難破船を絵にしたいと思っていた。嵐など海難に遭遇し、海底に沈んだ船。大航海時代の交易船、船内には金銀財宝が眠っている。タイタニック号、その姿を想像すると背筋がゾクゾクする。19世紀の、ヨーロッパ、ロシアなどでは難破船の絵画が多く制作されている。今回のぼくの作品はそれらの絵画を参考に、想像して難破し北極の氷に囲まれた帆船を描いたもの。
ところで、難破船の絵などは、暗く、悲劇的で一般にはあまり歓迎されないかもしれない。客間はもちろん、居間にも飾らないだろう。好きな時に取り出し眺めるようなものだ。
少し話を発展させると、ものごとは、上下、左右、があり成立する。富める者と貧しい者、強い者と弱い者、など常に相反するものが存在する。そしてそれぞれに、意味がある。真理というか「美」がある、と思うのだ。難破船には負のイメージがあるが絵には「美」を感じる。
絵は「氷に囲まれた難破船」の概略スケッチ。出展作品ではありません。
2020年2月9日 岩下賢治