ぼくらの日記絵・絵心伝心 

日々の出来事や心境を絵日記風に伝えるジャーナリズム。下手な絵を媒介に、落ち着いて、考え、語ることが目的です。

カミュ「異邦人」」から「ペスト」へ

2020年05月26日 | 日記

 4月20日のブログ、アルベール・カミュの「ペスト」の続きになります。

 新型コロナウイルスの影響で、カミュの「ペスト」がヨーロッパやそして日本でよく読まれているということで僕も読書を予定している。その準備として、「異邦人」l’etrangerを再読しこのほど読了した。ずいぶん前になるが、以前読んだときは、名作であり、フランス語の勉強ということであったが、この作品は好きになれなかった。主人公、ムルソーは、ささいな理由で殺人をおかし、神を信じることなく、人の援助にも背を向けるという、無機質な人間。これからこの本を手にすることがないだろうと思っていたが、思わぬことから読み直すことになった。そして、今、印象は逆転し大変感銘をうけている。

 カミュは、世界は神(キリスト教でいうところの)の摂理で守られているわけではなく、現実の世界は不条理にあふれている。人間個人には、「異邦人」のような不条理な因子が宿っている、また、この世界、社会には、は、戦争、災害、疫病など、抗いがたい不条理が起こる。それに対抗していくために人間は何をしなければならないかを追求してきた。と、僕は思う。

 「ペスト」は、先の世界大戦におけるカミュ本人の、ナチス占領下のパリでの体験、そこでの出来事を隠喩したものと考えられる。それらを直接描くのは難しいので中世ヨーロッパで猛威を振るった疫病のペストに主題を変え社会の不条理とそれと戦う人間を描いたようである。

 確かに、この世界は不条理にみちている。新型コロナによる世界の惨状をみるとこれが21世紀の出来事かと疑う。だが、薬が開発されるまで、自分は何とかなるだろうとも思ってもしまう。人間の脳みそに組み込まれた、正常性バイアスという心理状態らしい。

 さて、緊急事態が解除されたら、人込みを避け、東京の丸善に行き「ペスト」la peste,を入手し読もう。

 小説の舞台は、戦後まもなくのアルジェリアの港町オラン。フランスの植民地時代になる。アルジェリアの歴史をみると、今は、公用語がアラビア語のアラブ世界だが、アラブ人がイスラム教を広める前は、ベルベル人の世界であった。その後、オスマントルコの支配、そして、19世紀初めにはフランスが進出した。独立したのは1962年。そうした時代を踏まえて作品を読むと理解が深まる。フランス語で読むと、より、リアリティーを感じられる。

   絵はアルジェリアのオラン。

    2020年5月25日  岩下賢治

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