紫陽花
大昔の大映映画に社長シリーズというのがあった。森繁久弥が社長、小林桂樹が実直な社員、そして三木のり平が宴会部長という役回りである。それぞれが達者な役回りをするのだが、その中でのり平の役割が秀逸だった。
仕事が一段落するとすぐにパーッとやりましょう、と切り出す。懸案の仕事途中でも、パーッとやって気分を切り替えましょうと、とにかく宴会好きなのである。そして酒場で盛り上がって酔っ払う。思えば植木等ものり平の後継者だった。
女性が混じっていると余計に高笑いや大声で盛り上がる。これが日本的な飲み会である。コロナも逃げ出すのではと思うほど。
ところが欧米の映画には、日本のように酔ってクダ巻く様子を映したものを見たことがなかった。酒は飲むのだが、日本とは違って陰鬱になるシーンが多かったように思う。外人は酒が強いから酔っ払わないのだとか、言われていたような気がする。
私は外国のことは知らないが、日本にいる外国人と酒を飲むと、ベラベラ止めどなくお喋りだが、酔っ払って大声ではしゃいだり、クダをまくというのには遭遇したことはない。異国だから抑制しているという風でもない。
我が国のそんな酒飲みシーンは、今回のコロナ禍で、相当に抑えられ控えられているのではないか、そしてそれがこれからの酒場の良風をうむのではないか、と期待していたのだが、昨日(金曜日)久方ぶりに行きつけの中華風定食屋に行った折、そこでの情景は以前の騒々しさそのものの、のり平ふうにはしゃいだグループが卓を占拠。変わらないものだなあ、とつくづく思った次第。
そんな店には行かなければ良いのに、と思うかもしれないが、空腹を満たす必要があって、適当な場所はそんなにないのである。
酒は美味しく飲む、そしてお互いお酒に関しての蘊蓄を語りあう。これが私の理想の酒場だが、少し思い上がった望みなのだろうか。【彬】