プロの将棋棋士と高度な計算能力をもったコンピュータが対戦する電王戦というのがある。
今回は5月15日に開催された、プロの中でも最高棋士の三浦弘行八段と「GPS」の対戦が対戦前から注目を集めた。近年のコンピュータ将棋の能力が格段に進んでプロ側が苦戦していたからである。特にこのGPSは666台のiMacと13台のサーバで動作する仕様で、1秒間に最大で約2億8000万手を読める空前のソフトであった。
この将棋の注目された点はもうひとつあって、掲載した局面に対する評価である。後手番のGPSが7五と開戦し、同歩、8四銀と繰り出したところである。この場面はプロの常識としては仕掛けたGPS側の無理筋として看過してきたものらしい。後手側から7四歩と伸ばす手が相手の手を殺しているとされているのである。
実際三浦八段は7四歩と指し、GPSは予定通り7五銀としたのである。その結果はGPSの圧倒する勝利となった。
ショックを受けたのは三浦八段だけではない。プロの検討陣が一様に驚愕したようだ。プロの常識と思われていた着手が覆されたからである。
ゲームのように勝負の結果が明確に分かるものについては、人間よりコンピュータのほうが強いというのは、原理的に判明しているので、チェスでは人間はまったく太刀打ちできなくなっている。将棋や碁はチェスに比べ勝負が複雑なので、まだ解明できていないがいずれ機械が制覇するのであろう。
思い出すのは「2001年宇宙の旅」である。御存知のようにこの宇宙巨艦は艦載しているハルコンピュータに裏切られ、制御不能となって宇宙の彼方に放り出されるのだが、問題なのはハルの警告に聞く耳を持たなかった艦長である。
コンピュータは一定の目的を持つと終末まで突き進む。しかし、その時々に問題提起していて、それを発見し、丁寧に処理=思考することが人間側の役割なのである。7五歩局面はまさにその場面であった。三浦八段の対処の仕方を含め、棋士たちはこの局面の重大性を、今後宿題としてさらに将棋の質を高めていくに違いないのだが、将棋に限らずコンピュータと制御する人間の関係は、ますます微妙になり、制御が楽観できるものではないことを知るのである。【彬】
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