恩田 陸 著 集英社。
常野物語の続編。2冊目の本で、いいんですよね?ほかには「常野」で書いていらっしゃいませんよね?恩田さん。。
最初の本、
「光の帝国」の第一話「大きな引き出し」のお話を、今回は大きく膨らませ、時代を変えて描いています。
今よりも少し前の時代。まだ世界が大きな争いをしていた時代の東北の一地方の村。そこのお医者様の家に生まれた峰子が綴った日記。
大きな空襲の末、手元にたった一冊だけ残ったその「蒲公英草紙」と題名をつけた日記から一番光り輝いていた少女時代を思い出すお話。
槇村という村の名家の末娘で、生まれつき心臓が悪くほとんどを家の中ですごしている聡子様に「友達」として峰子が会いに行くようになることから回想が始まります。
非常に聡明な聡子。そして時々とても近寄りがたい雰囲気になる彼女に、「女学校には必ず桜色のおリボンをつけて一緒に参りましょうね」と約束する峰子。それを叶わないことであろうと知りながら、こころから一緒にいきたいと願う聡子。
その二人を中心に、峰子の視点からみた槇村の家の人々と、そこに寄宿している人々の姿を描いて、そしてそこにある日「春田家」の4人家族が尋ねてきます。
そのまま槇村の家に居を置いて、なにやら不思議なことをしだす春田家に、村の人々はいろいろな憶測をするのですが・・・
「大きな引き出し」で語り足りなかったものを、「常野」ではない峰子の視点で描き出す。
それは、生きた人々を『しまう』ことの辛さと覚悟であり、そうしてひっそりと生きていくことを自分の運命として受け容れている春田親子の生き方であり。
大昔、その「常野」から嫁を取り、その嫁が「遠目」(未来を見る力の持ち主)であったことから村が全滅から救われ、以降『村をしっかりと守り、もし常野の者が訪ねてきたら出来うる限りのもてなしをすること』という家訓のある槇村の家。
そこに生まれた聡子は、たぶん「遠目」の力を持ち、あるときから自分の最期を知り、槇村の家のものらしくと小さな子どもたちを台風の鉄砲水と土砂崩れから守り、自らはその鉄砲水のなかに消えていく。
静かに、しずかに。
少し昔の文体で、少し昔の日本は確かにこんな時代だったんだと思い出させてくれつつ、第二次世界大戦が終わった日でお話は終わります。
戦いで夫も娘婿も失った彼女が、疲れ果てて思うのは、「今、光比古さんに会いたい」ということ。彼は春田の下の子で、出会った当時は峰子とおなじ10歳前後の男の子。そして、聡子様を「しまった」人物でもあるのです。彼に今会いたい。そう願う彼女の切なく悲しい気持ちが伝わり、ほんとうに人の思いと心をそのままに「しまって」くれているあの人たちがいるのならば、今のこの時代をどう思うのだろう、と私も考えてしまいます・・・
なんというか、感じたことの半分も表現できていませんが、
とても、とても、大切な物語です。静かに読み進みながら、今の時代になくしてしまった沢山のものを憧れと悲しみをもって思い起こします。
「光の帝国」を読んだ人なら、是非、この作品を!
そうそう。できたらハードカバーで手にとってほしい。装丁もとても素敵ですから。
そしてそして。
切に「続編」を望みます。常野のお話。