新型コロナウイルスの武漢肺炎感染拡大で遅れていた、今年(2020年)の中央委員会総会(五中全会)の開催日程が10月26~29日に決定しました。
2021~26年の第14次五カ年計画と「2035年遠景重大目標」提案といった中国の短中期経済政策が決まるとされていることから、国内外で注目を集めているが、もう1つの注目点は人事だと指摘しておられるのは、元産経新聞の中国駐在記者の福島香織さん。
習近平と共産党体制の末路を、我々はただ遠巻きにカウントダウンする段階に入ったということかもしれないと。
今年春の段階では、習近平は新型コロナ肺炎の隠蔽や、米中関係の悪化、中国経済の急減速の責任を党内で強く問われており、五中全会で後継者人事を認め2022年の党大会で引退することを了承した、といった予測が一時流れていたのだそうです。
しかし、五中全会まであと1カ月の段階で、人事情報はほとんど流れていないと福島さん。
それどころか、9月28日の政治局会議で「中国共産党中央委員会工作条例」が審議されたと報じられており、この条例により習近平の党中央においての“核心的地位”が強化される、という見方が濃厚になっているのだと。
9月28日の政治局会議では、この条例について、“党規約と同等の党内法規”としての拘束力をもつことを要求しており、全党員、幹部がこの「条例」精神を強く自覚し、条例をしっかり守って、党と国家の各項目の任務に従事せよ、というもので、早い話が、習近平独裁に根拠を与える党内法規のようであると福島さん。
習近平は2018年3月の全人代(全国人民代表大会)で、だまし討ちのように強引に憲法を修正し、鄧小平が毛沢東の独裁政治が招いた悪弊を防ぐ集団指導体制と定年制の、定年制を廃したことは諸兄がご承知の通りです。
しかし、その後、憲法修正が党内で大反発を引き起こし、体制内知識人や開明派の政治家、官僚たちから強い抵抗を受けていて、更に、香港デモ(自らが一国二制度の廃止で撒いた種によるものですが)、台湾総統選挙での蔡英文再選、世界中への武漢肺炎感染の元凶とされ世界からの責任追及と賠償要求、米中の新冷戦時代への突入状況のさらなる悪化、グローバルサプライチェーンからの中国デカップリングと積み重なり、こうした問題をすべて反映した中国経済の苦境と、習近平の党内における立場は相当厳しいものになっていると福島さん。
こうした習近平責任論に乗じる形で、今年春から夏にかけて首相の李克強に対する待望論が高まったこともあり、その後、習近平と李克強の確執がより深まる形となっていましたが、王滬寧(政治局常務委員、宣伝・イデオロギー担当)が中央メディアに李克強の記事を習近平と同じ面に大きく乗せるなと指示するなど、習近平に忖度し、中国メディア上では、李克強の記事が極端に少なくなっているのだそうです。
習近平にとって、長期独裁政権確立への道の最大の障害は、党中央内のアンチ習近平派の声と、鄧小平が確立させた集団指導制ルールだと福島さん。
憲法を改正しても、中国共産党政治においては憲法よりも党のルールが重視される。
もし中央委員会工作条例が五中全会で可決されれば、“核心”の定義によっては、党規約と矛盾する党内政治文書ができる、という言い方もできると。
はっきりしているのは,条例制定は、習近平の3期目の政権維持に対する強い意欲を打ち出したものといえると福島さん。
習近平は、今後の中国共産党に関する一切を自分が決定する権力を持つために、この条例を制定したいようだ。「個人の指導的地位の強化」を盛り込んでおり、(中略)あらゆる方面の決定権を掌握するつもりだろうと。
習近平に対する批判的な声は、すでに体制内からも隠せないほど出ており、中国内世論の風当たりも厳しくなっているなか、そんなことが党内的に可能なのだろうかとも。
党内のアンチ習近平勢力は想像以上に広がっている。しかし今、習近平の代わりに誰が共産党のトップに立っても、この体制を立て直すことは難しい。
いっそ最後まで習近平に最高責任者のポジションでいてもらい、すべての責任を負ってもらいたい、と考える党中央幹部も多かろうと福島さん。
次世代の共産党指導者として注目株は、鄧小平の流れを継ぐ、共産主義青年団(共青団派)の、胡錦涛や李克強らが大事に育ててきた現副首相の胡春華。(胡春華については当ブログでは何度も触れていますのでここでは触れません)
今度の五中全会の人事で、習近平長期独裁を共産党中央が受け入れるということは、もはや誰も、共産党の未来に期待がもてず、責任を習近平に押し付けようというだけのことかもしれないと福島さん。
それは中国共産党にもはや自力更生の能力がない、ということであり、習近平と共産党体制の末路を、我々はただ遠巻きにカウントダウンする段階に入ったということかもしれないと。
26日からの「五中全会」は要注目ですね。
# 冒頭の画像は、「国慶節」祝賀会(9月30日)に出席した習近平国家主席
この花の名前は、オキナワスズメウリ
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2021~26年の第14次五カ年計画と「2035年遠景重大目標」提案といった中国の短中期経済政策が決まるとされていることから、国内外で注目を集めているが、もう1つの注目点は人事だと指摘しておられるのは、元産経新聞の中国駐在記者の福島香織さん。
習近平と共産党体制の末路を、我々はただ遠巻きにカウントダウンする段階に入ったということかもしれないと。
新“党内法規”制定で習近平が突き進む前例なき独裁 体制内でも批判が強まるなか政権3期目に意欲満々(1/4) | JBpress(Japan Business Press) 2020.10.1(木) 福島 香織
9月28日に習近平が召集した中央政治局会議で、今年(2020年)の中央委員会総会(五中全会)の開催日程が10月26~29日に決定した。この五中全会では、2021~26年の第14次五カ年計画と「2035年遠景重大目標」提案といった中国の短中期経済政策が決まるとされていることから、国内外で注目を集めている。
だが、もう1つの注目点は人事だ。もし、この秋に習近平の後継者候補が見える人事、具体的には胡春華(現副首相、政治局員)と李強(現上海市書記、政治局員)が政治局常務委員会入りする人事があれば、習近平は2022年の第20回党大会で国家指導者の地位から引退して、権力を次世代に禅譲するつもりであることがわかる。この人事がなければ、2022年までの時間を考えると、後継者不在ということで、習近平は2022年以降も共産党中央と国家の最高指導者の地位に居座るつもりでいる、ということだろう。
習近平独裁に根拠を与える「条例」
今年春の段階では、習近平は新型コロナ肺炎の隠蔽や、米中関係の悪化、中国経済の急減速の責任を党内で強く問われており、五中全会で後継者人事を認め2022年の党大会で引退することを了承した、といった予測が一時流れていた。だが、五中全会まであと1カ月の段階で、人事情報はほとんど流れていない。
それどころか、9月28日の政治局会議で「中国共産党中央委員会工作条例」が審議されたと報じられており、この条例により習近平の党中央においての“核心的地位”が強化される、という見方が濃厚になっている。
国営通信社、新華社の報道によれば、中央委員会工作条例は「習近平同志を核心とする党中央権威と集中統一指導の必然性への要求を固く守るもの」「中国の特色ある社会主義制度、国家統治システムと統治能力の現代化推進における重大な措置」であり、党中央の指導的地位、指導体制、指導者の職権、指導方法、決策の配置などに関して全面的な規定を定め、中央委員会の任務強化のための基本的なルールを提供するという。
9月28日の政治局会議では、この条例について、“党規約と同等の党内法規”としての拘束力をもつことを要求しており、「4つの意識」(2016年に習近平が提唱した政治意識、大局意識、核心意識、看斉意識)、「4つの自信」(中国の特色ある社会主義の道への自信、理論的自信、制度的自信、文化的自信)、「2つの維持」(習近平を全党の核心とすることを維持、党中央の権威と集中統一指導の維持)を確実なものとするために全党員が自らを厳しく律して遵守すべし、としている。全党員、幹部がこの「条例」精神を強く自覚し、条例をしっかり守って、党と国家の各項目の任務に従事せよ、という。早い話が、習近平独裁に根拠を与える党内法規のようである。
習近平は2018年3月の全人代(全国人民代表大会)で、だまし討ちのように強引に憲法を修正し、国家主席任期を連続2期までとする条項を撤廃し、自ら2期を超えて国家主席に居座り続ける意思を見せつけた。だが、その後、憲法修正が党内で大反発を引き起こし、体制内知識人や開明派の政治家、官僚たちから強い抵抗を受けていることは、私もたびたび指摘してきた。
しかも2019年の香港デモ、それに続く台湾総統選挙での蔡英文再選、今年に入ってから中国の隠蔽によってパンデミックを引き起こしたとされる新型コロナ肺炎問題、それに伴う米中関係の先鋭化と、グローバルサプライチェーンからの中国デカップリング、こうした問題をすべて反映した中国経済の苦境・・・などなどの最大にして最高責任者として、習近平の党内における立場は相当厳しいものであった。
ちなみに、こうした習近平責任論に乗じる形で、今年春から夏にかけて首相の李克強に対する待望論が高まったこともあったが、その後、習近平と李克強の確執がより深まる形となって、王滬寧(政治局常務委員、宣伝・イデオロギー担当)が妙に張り切って、中央メディアに李克強の記事を習近平と同じ面に大きく乗せるなと指示するなど、習近平に忖度していた。なので、中国メディア上では、李克強の記事が極端に少なくなっている。一説によれば、王滬寧は李克強に変わって首相に就こうと狙っているとか。
「条例」は党規約と矛盾することに?
さて習近平にとって、長期独裁政権確立への道の最大の障害は、党中央内のアンチ習近平派の声と、鄧小平が確立させた集団指導制ルールである。
憲法を改正しても、中国共産党政治においては憲法よりも党のルールが重視される。党のルールには、明文化されていない慣例、暗黙のルール、というものも多い。たとえば「七上八下」、つまり68歳になれば指導部は引退するという慣例や、党規約にはないが、暫定規則の中に同じ党職に3期連続して就いてはならない、といったルールがある。党規約中には「いかなる形の個人崇拝」も禁止、と言明しており、習近平の“核心宣伝”は厳密にいえば、自らの神格化宣伝、個人崇拝宣伝という点で、党規約違反ともいえる。また、党規約は下部組織は上部組織に服従、少数は多数に服従というルールが決められており、最高指導部の政治局常務委員会も、総書記が絶対的権力を持つのものでなく、多数に従わねばならない。
第13回党大会一中全会(1987年)で打ち出された議事規則の中に、「総書記と他の政治局員の職位は対等であり、総書記はただ議長を務めるだけである」ということも言明されている。なので、もし中央委員会工作条例が五中全会で可決されれば、“核心”の定義によっては、党規約と矛盾する党内政治文書ができる、という言い方もできる。
2016年1月に党は「地方党委員会工作条例」を制定したが、党中央に対するこうした全面規定の制定は中国共産党史においては初めてのことである。新華社報道では、条例でありながら党規約(党章)と並列して書かれており、その重要性は相当高いものとして発表されている。
あらゆる決定権を掌握したい習近平
はっきりしているのは,条例制定は、習近平の3期目の政権維持に対する強い意欲を打ち出したもの、といえるだろう。
趙紫陽の政治秘書であった鮑彤が米国の政府系放送局、ラジオ・フリー・アジアのインタビューに答えて、この条例についてこう語っている。「もし、この条例が習近平を党中央の核心とするということを正式な党の文献として肯定するならば、この条例が撤廃されない限り、習近平はおそらく本当に永遠の中央委員会の核心であり続けるだろう」。
では、「核心」とはなにか。鮑彤はこういう。「核心という言葉を最初に使ったのは鄧小平だ。鄧小平はこう語っている。核心とは何か。実は定義はない。その発言がすべてを決定する、それが核心だ。過去の毛沢東が核心であった。毛沢東がすべてを決めた。毛沢東が死んだあとは、私が核心だ。私が決めた。その後は君が核心だ。君が決める。このように、核心は決定する、ということだ。私は核心をそのように考えている、と」。
核心をこのように考えると、習近平は、今後の中国共産党に関する一切を自分が決定する権力を持つために、この条例を制定したいようだ。そして、条例の細かい条文はまだ不明ながら、「個人の指導的地位の強化」を盛り込んでおり、おそらくは民営企業や大学の知識人に対するコントロールも含めて、あらゆる方面の決定権を掌握するつもりだろう。
習近平に責任を押し付けようとしているのか
だが、そんなことが党内的に可能なのだろうか。習近平に対する批判的な声は、すでに体制内からも隠せないほど出ており、中国内世論の風当たりも厳しくなっている。
中央党校の元教授の蔡霞が共産党をゾンビだと形容し、習近平はマフィアのボスにすぎない、と批判したことで党籍をはく奪された例をみても、米国・ヒューストンの中国総領事館がスパイ拠点として閉鎖された背景に、総領事館内部の人間が米国側に情報を漏らしたことがあったことからみても、党内のアンチ習近平勢力は想像以上に広がっている。習政権を批判してきた任志強の懲役18年判決は、紅二代(親たちが革命に参加した共産党サラブレッドグループ)を完全に敵に回してしまった。
一方で、今、習近平の代わりに誰が共産党のトップに立っても、この体制を立て直すことは難しい。中国が今後直面する厳しい状況に変化はなく、いっそ最後まで習近平に最高責任者のポジションでいてもらい、すべての責任を負ってもらいたい、と考える党中央幹部も多かろう。
次世代の共産党指導者として注目株は、共産主義青年団(共青団派)出身で、胡錦涛や李克強らが大事に育ててきた現副首相の胡春華だが、いま仮に習近平の後継者になっても、米国による新型コロナ肺炎の国際賠償請求の矢面に立たされ、経済的にも、グローバルチェーンからのデカップリングの中で、立て直すことは困難であり、大衆の不満の矛先を一身に受けるつらい立場が待っている。習近平長期独裁を共産党中央が受け入れるということは、もはや誰も、共産党の未来に期待がもてず、責任を習近平に押し付けようというだけのことかもしれない。
ならば、今年の五中全会は、習近平長期独裁体制を決定づけることになるかもしれないが、それは中国共産党にもはや自力更生の能力がない、ということであり、「裸の皇帝」「道化」と任志強が揶揄した習近平と共産党体制の末路を、我々はただ遠巻きにカウントダウンする段階に入ったということかもしれない。
9月28日に習近平が召集した中央政治局会議で、今年(2020年)の中央委員会総会(五中全会)の開催日程が10月26~29日に決定した。この五中全会では、2021~26年の第14次五カ年計画と「2035年遠景重大目標」提案といった中国の短中期経済政策が決まるとされていることから、国内外で注目を集めている。
だが、もう1つの注目点は人事だ。もし、この秋に習近平の後継者候補が見える人事、具体的には胡春華(現副首相、政治局員)と李強(現上海市書記、政治局員)が政治局常務委員会入りする人事があれば、習近平は2022年の第20回党大会で国家指導者の地位から引退して、権力を次世代に禅譲するつもりであることがわかる。この人事がなければ、2022年までの時間を考えると、後継者不在ということで、習近平は2022年以降も共産党中央と国家の最高指導者の地位に居座るつもりでいる、ということだろう。
習近平独裁に根拠を与える「条例」
今年春の段階では、習近平は新型コロナ肺炎の隠蔽や、米中関係の悪化、中国経済の急減速の責任を党内で強く問われており、五中全会で後継者人事を認め2022年の党大会で引退することを了承した、といった予測が一時流れていた。だが、五中全会まであと1カ月の段階で、人事情報はほとんど流れていない。
それどころか、9月28日の政治局会議で「中国共産党中央委員会工作条例」が審議されたと報じられており、この条例により習近平の党中央においての“核心的地位”が強化される、という見方が濃厚になっている。
国営通信社、新華社の報道によれば、中央委員会工作条例は「習近平同志を核心とする党中央権威と集中統一指導の必然性への要求を固く守るもの」「中国の特色ある社会主義制度、国家統治システムと統治能力の現代化推進における重大な措置」であり、党中央の指導的地位、指導体制、指導者の職権、指導方法、決策の配置などに関して全面的な規定を定め、中央委員会の任務強化のための基本的なルールを提供するという。
9月28日の政治局会議では、この条例について、“党規約と同等の党内法規”としての拘束力をもつことを要求しており、「4つの意識」(2016年に習近平が提唱した政治意識、大局意識、核心意識、看斉意識)、「4つの自信」(中国の特色ある社会主義の道への自信、理論的自信、制度的自信、文化的自信)、「2つの維持」(習近平を全党の核心とすることを維持、党中央の権威と集中統一指導の維持)を確実なものとするために全党員が自らを厳しく律して遵守すべし、としている。全党員、幹部がこの「条例」精神を強く自覚し、条例をしっかり守って、党と国家の各項目の任務に従事せよ、という。早い話が、習近平独裁に根拠を与える党内法規のようである。
習近平は2018年3月の全人代(全国人民代表大会)で、だまし討ちのように強引に憲法を修正し、国家主席任期を連続2期までとする条項を撤廃し、自ら2期を超えて国家主席に居座り続ける意思を見せつけた。だが、その後、憲法修正が党内で大反発を引き起こし、体制内知識人や開明派の政治家、官僚たちから強い抵抗を受けていることは、私もたびたび指摘してきた。
しかも2019年の香港デモ、それに続く台湾総統選挙での蔡英文再選、今年に入ってから中国の隠蔽によってパンデミックを引き起こしたとされる新型コロナ肺炎問題、それに伴う米中関係の先鋭化と、グローバルサプライチェーンからの中国デカップリング、こうした問題をすべて反映した中国経済の苦境・・・などなどの最大にして最高責任者として、習近平の党内における立場は相当厳しいものであった。
ちなみに、こうした習近平責任論に乗じる形で、今年春から夏にかけて首相の李克強に対する待望論が高まったこともあったが、その後、習近平と李克強の確執がより深まる形となって、王滬寧(政治局常務委員、宣伝・イデオロギー担当)が妙に張り切って、中央メディアに李克強の記事を習近平と同じ面に大きく乗せるなと指示するなど、習近平に忖度していた。なので、中国メディア上では、李克強の記事が極端に少なくなっている。一説によれば、王滬寧は李克強に変わって首相に就こうと狙っているとか。
「条例」は党規約と矛盾することに?
さて習近平にとって、長期独裁政権確立への道の最大の障害は、党中央内のアンチ習近平派の声と、鄧小平が確立させた集団指導制ルールである。
憲法を改正しても、中国共産党政治においては憲法よりも党のルールが重視される。党のルールには、明文化されていない慣例、暗黙のルール、というものも多い。たとえば「七上八下」、つまり68歳になれば指導部は引退するという慣例や、党規約にはないが、暫定規則の中に同じ党職に3期連続して就いてはならない、といったルールがある。党規約中には「いかなる形の個人崇拝」も禁止、と言明しており、習近平の“核心宣伝”は厳密にいえば、自らの神格化宣伝、個人崇拝宣伝という点で、党規約違反ともいえる。また、党規約は下部組織は上部組織に服従、少数は多数に服従というルールが決められており、最高指導部の政治局常務委員会も、総書記が絶対的権力を持つのものでなく、多数に従わねばならない。
第13回党大会一中全会(1987年)で打ち出された議事規則の中に、「総書記と他の政治局員の職位は対等であり、総書記はただ議長を務めるだけである」ということも言明されている。なので、もし中央委員会工作条例が五中全会で可決されれば、“核心”の定義によっては、党規約と矛盾する党内政治文書ができる、という言い方もできる。
2016年1月に党は「地方党委員会工作条例」を制定したが、党中央に対するこうした全面規定の制定は中国共産党史においては初めてのことである。新華社報道では、条例でありながら党規約(党章)と並列して書かれており、その重要性は相当高いものとして発表されている。
あらゆる決定権を掌握したい習近平
はっきりしているのは,条例制定は、習近平の3期目の政権維持に対する強い意欲を打ち出したもの、といえるだろう。
趙紫陽の政治秘書であった鮑彤が米国の政府系放送局、ラジオ・フリー・アジアのインタビューに答えて、この条例についてこう語っている。「もし、この条例が習近平を党中央の核心とするということを正式な党の文献として肯定するならば、この条例が撤廃されない限り、習近平はおそらく本当に永遠の中央委員会の核心であり続けるだろう」。
では、「核心」とはなにか。鮑彤はこういう。「核心という言葉を最初に使ったのは鄧小平だ。鄧小平はこう語っている。核心とは何か。実は定義はない。その発言がすべてを決定する、それが核心だ。過去の毛沢東が核心であった。毛沢東がすべてを決めた。毛沢東が死んだあとは、私が核心だ。私が決めた。その後は君が核心だ。君が決める。このように、核心は決定する、ということだ。私は核心をそのように考えている、と」。
核心をこのように考えると、習近平は、今後の中国共産党に関する一切を自分が決定する権力を持つために、この条例を制定したいようだ。そして、条例の細かい条文はまだ不明ながら、「個人の指導的地位の強化」を盛り込んでおり、おそらくは民営企業や大学の知識人に対するコントロールも含めて、あらゆる方面の決定権を掌握するつもりだろう。
習近平に責任を押し付けようとしているのか
だが、そんなことが党内的に可能なのだろうか。習近平に対する批判的な声は、すでに体制内からも隠せないほど出ており、中国内世論の風当たりも厳しくなっている。
中央党校の元教授の蔡霞が共産党をゾンビだと形容し、習近平はマフィアのボスにすぎない、と批判したことで党籍をはく奪された例をみても、米国・ヒューストンの中国総領事館がスパイ拠点として閉鎖された背景に、総領事館内部の人間が米国側に情報を漏らしたことがあったことからみても、党内のアンチ習近平勢力は想像以上に広がっている。習政権を批判してきた任志強の懲役18年判決は、紅二代(親たちが革命に参加した共産党サラブレッドグループ)を完全に敵に回してしまった。
一方で、今、習近平の代わりに誰が共産党のトップに立っても、この体制を立て直すことは難しい。中国が今後直面する厳しい状況に変化はなく、いっそ最後まで習近平に最高責任者のポジションでいてもらい、すべての責任を負ってもらいたい、と考える党中央幹部も多かろう。
次世代の共産党指導者として注目株は、共産主義青年団(共青団派)出身で、胡錦涛や李克強らが大事に育ててきた現副首相の胡春華だが、いま仮に習近平の後継者になっても、米国による新型コロナ肺炎の国際賠償請求の矢面に立たされ、経済的にも、グローバルチェーンからのデカップリングの中で、立て直すことは困難であり、大衆の不満の矛先を一身に受けるつらい立場が待っている。習近平長期独裁を共産党中央が受け入れるということは、もはや誰も、共産党の未来に期待がもてず、責任を習近平に押し付けようというだけのことかもしれない。
ならば、今年の五中全会は、習近平長期独裁体制を決定づけることになるかもしれないが、それは中国共産党にもはや自力更生の能力がない、ということであり、「裸の皇帝」「道化」と任志強が揶揄した習近平と共産党体制の末路を、我々はただ遠巻きにカウントダウンする段階に入ったということかもしれない。
今年春の段階では、習近平は新型コロナ肺炎の隠蔽や、米中関係の悪化、中国経済の急減速の責任を党内で強く問われており、五中全会で後継者人事を認め2022年の党大会で引退することを了承した、といった予測が一時流れていたのだそうです。
しかし、五中全会まであと1カ月の段階で、人事情報はほとんど流れていないと福島さん。
それどころか、9月28日の政治局会議で「中国共産党中央委員会工作条例」が審議されたと報じられており、この条例により習近平の党中央においての“核心的地位”が強化される、という見方が濃厚になっているのだと。
9月28日の政治局会議では、この条例について、“党規約と同等の党内法規”としての拘束力をもつことを要求しており、全党員、幹部がこの「条例」精神を強く自覚し、条例をしっかり守って、党と国家の各項目の任務に従事せよ、というもので、早い話が、習近平独裁に根拠を与える党内法規のようであると福島さん。
習近平は2018年3月の全人代(全国人民代表大会)で、だまし討ちのように強引に憲法を修正し、鄧小平が毛沢東の独裁政治が招いた悪弊を防ぐ集団指導体制と定年制の、定年制を廃したことは諸兄がご承知の通りです。
しかし、その後、憲法修正が党内で大反発を引き起こし、体制内知識人や開明派の政治家、官僚たちから強い抵抗を受けていて、更に、香港デモ(自らが一国二制度の廃止で撒いた種によるものですが)、台湾総統選挙での蔡英文再選、世界中への武漢肺炎感染の元凶とされ世界からの責任追及と賠償要求、米中の新冷戦時代への突入状況のさらなる悪化、グローバルサプライチェーンからの中国デカップリングと積み重なり、こうした問題をすべて反映した中国経済の苦境と、習近平の党内における立場は相当厳しいものになっていると福島さん。
こうした習近平責任論に乗じる形で、今年春から夏にかけて首相の李克強に対する待望論が高まったこともあり、その後、習近平と李克強の確執がより深まる形となっていましたが、王滬寧(政治局常務委員、宣伝・イデオロギー担当)が中央メディアに李克強の記事を習近平と同じ面に大きく乗せるなと指示するなど、習近平に忖度し、中国メディア上では、李克強の記事が極端に少なくなっているのだそうです。
習近平にとって、長期独裁政権確立への道の最大の障害は、党中央内のアンチ習近平派の声と、鄧小平が確立させた集団指導制ルールだと福島さん。
憲法を改正しても、中国共産党政治においては憲法よりも党のルールが重視される。
もし中央委員会工作条例が五中全会で可決されれば、“核心”の定義によっては、党規約と矛盾する党内政治文書ができる、という言い方もできると。
はっきりしているのは,条例制定は、習近平の3期目の政権維持に対する強い意欲を打ち出したものといえると福島さん。
習近平は、今後の中国共産党に関する一切を自分が決定する権力を持つために、この条例を制定したいようだ。「個人の指導的地位の強化」を盛り込んでおり、(中略)あらゆる方面の決定権を掌握するつもりだろうと。
習近平に対する批判的な声は、すでに体制内からも隠せないほど出ており、中国内世論の風当たりも厳しくなっているなか、そんなことが党内的に可能なのだろうかとも。
党内のアンチ習近平勢力は想像以上に広がっている。しかし今、習近平の代わりに誰が共産党のトップに立っても、この体制を立て直すことは難しい。
いっそ最後まで習近平に最高責任者のポジションでいてもらい、すべての責任を負ってもらいたい、と考える党中央幹部も多かろうと福島さん。
次世代の共産党指導者として注目株は、鄧小平の流れを継ぐ、共産主義青年団(共青団派)の、胡錦涛や李克強らが大事に育ててきた現副首相の胡春華。(胡春華については当ブログでは何度も触れていますのでここでは触れません)
今度の五中全会の人事で、習近平長期独裁を共産党中央が受け入れるということは、もはや誰も、共産党の未来に期待がもてず、責任を習近平に押し付けようというだけのことかもしれないと福島さん。
それは中国共産党にもはや自力更生の能力がない、ということであり、習近平と共産党体制の末路を、我々はただ遠巻きにカウントダウンする段階に入ったということかもしれないと。
26日からの「五中全会」は要注目ですね。
# 冒頭の画像は、「国慶節」祝賀会(9月30日)に出席した習近平国家主席
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