ペロシ米下院議長が今月初めに台湾を訪問。中国専門家のほぼ全員が「ペロシ氏が訪台すれば世界の終わりが来る」と言わんばかりの反対声明を出した。
だが、中国は大規模な軍事演習で対抗しただけで、台湾情勢に本質的な変化は何も起きていない。
重要なことは、全ての国が戦争を遂行できるわけではないという事実だと、ルトワック氏。
まともに反撃できない弱い国に対して戦争を仕掛けることはできる。
だが、中国が台湾に侵攻すれば米国が出てくる。米中が核保有国である以上、中国の首脳は台湾海峡での局地紛争が核戦争にエスカレートするリスクを考慮することを迫られる。
加えて、中国には戦争に踏み切れない特殊事情があると。
ペロシ氏の訪台で「台湾海峡危機」を叫んだ専門家や記者たちは、中国が「完全な大国」ではないという事実を理解していないと、ルトワック氏。
大国とは戦争に関わる全ての行為を自力でまかなうことのできる国だ。食糧の自給で深刻な弱点がある中国は大国とは呼べないと。
多くの専門家は中国の弱点を見過ごしている。一方、自国の弱点を理解する習氏は、外国に弱点を悟られないよう、最近は食糧安保に関し発言を控えるようになった。
中国は1990年以降の経済発展で、沿岸部の農地や耕作可能な土地を大規模工業地帯として開発してきた。スターリン時代の旧ソ連がウクライナなどの穀倉地帯を温存し、ウラル山脈などの内陸部を工業開発したのとは対照的だと。
2000年代に入り、こうした政策が重大な誤りだと気づいた中国当局は、農地転用を厳格に制限する法律を作ったが、それでも農地は減り続け、十分な量の大豆を生産できないまま。
中国は海洋国家になることを目指して多数の艦船や地対艦ミサイルを整備。
だが、船だけ作っても中国は海洋国家になれない。海洋国家の存立には船の寄港や修理、補給などを受け入れる同盟国が必要だからだ。中国が真の海洋国家ならば、食糧の輸入に事欠くことはないと。
米国が太平洋で覇権を確立できているのは、同盟国の日本とオーストラリアという「巨大な不沈空母」がいるためだと。
中国が同盟国を作ることをしなかったのは、胡錦濤前政権および習政権の外交政策の失敗だとルトワック氏。
習氏は秋の党大会で党総書記3期目続投を目指し、終身体制を視野に置いていることは、諸兄もご承知のこと。
しかし、中国がペロシ氏の訪台を阻止できなかったことに加え、ハイテク企業の人員整理などを受けて今年 7月の若者の失業率が約20%に達し、社会的不満が高まっていることを勘案すると、習氏の終身権力構想は盤石とは言い切れないと、ルトワック氏。
党大会での人事については、事前の北戴河会議で、長老を交えての会議で決定されることは、諸兄がご承知のこと。
今年の北戴河会議では、習近平の野望については、経済発展を復活させる条件がついたと、近藤氏の情報。
中国が対日姿勢を急転換か その訳は? - 遊爺雑記帳
国際情勢分析の専門家や情報機関は、同盟国がおらず海洋国家になれず、ましてや「世界的強国」には程遠い中国を適切に評価するよう努めなくてはならないとルトワック氏。
ゼロコロナ政策に拘り続けねばならない状況に追い込まれている習近平。その為の、強固なロックダウン政策で貯まる人民の不満。そして、経済の低迷と、そこから生じている不動産バブルの崩壊騒動や、失業率高騰。
対抗勢力の共青団派(今日の中国の経済大国を築いた鄧小平の流れを継ぐ)の台頭も聞こえてきますね。
習近平は、強権発動で乗り越えるのでしょうが、溜まる不満のマグマをかわすには、台湾有事で眼を逸らすしかない。
台湾有事は、尖閣諸島を持つ沖縄の有事。それは、日本の有事。
秋の、中国共産党大会以降の習近平の動向には目が離せませんね。
# 冒頭の画像は、視察先の遼寧省で市民に手を振る習近平国家主席
まだ青い稲穂
↓よろしかったら、お願いします。
遊爺さんの写真素材 - PIXTA
だが、中国は大規模な軍事演習で対抗しただけで、台湾情勢に本質的な変化は何も起きていない。
重要なことは、全ての国が戦争を遂行できるわけではないという事実だと、ルトワック氏。
まともに反撃できない弱い国に対して戦争を仕掛けることはできる。
だが、中国が台湾に侵攻すれば米国が出てくる。米中が核保有国である以上、中国の首脳は台湾海峡での局地紛争が核戦争にエスカレートするリスクを考慮することを迫られる。
加えて、中国には戦争に踏み切れない特殊事情があると。
【世界を解く-E・ルトワック】中国は「真の大国」ではない 戦争阻む食糧自給 - 産経ニュース 2022/8/28 黒瀬 悦成
ペロシ米下院議長が今月初めに台湾を訪問した。メディアは「危機」を騒ぎ立て、ワシントンにいる、いわゆる中国専門家のほぼ全員が「ペロシ氏が訪台すれば世界の終わりが来る」と言わんばかりの反対声明を出した。だが、中国は大規模な軍事演習で対抗しただけで、台湾情勢に本質的な変化は何も起きていない。
一つ重要なことを理解しなくてはならない。全ての国が戦争を遂行できるわけではないという事実だ。
確かに全ての国は、まともに反撃できない弱い国に対して戦争を仕掛けることはできる。2年前に中国がインドに対して国境紛争を起こしたのが良い例だ。
だが、中国が台湾に侵攻すれば米国が出てくる。米中が核保有国である以上、中国の首脳は台湾海峡での局地紛争が核戦争にエスカレートするリスクを考慮することを迫られる。
加えて、中国には戦争に踏み切れない特殊事情がある。それは中国が食糧禁輸を中心とする経済制裁に脆弱(ぜいじゃく)だということだ。詳しく調べてみると、農業専門家の間では常識だが、多くの国際問題専門家が知らない事実に気づいた。中国が近年、植物性タンパク質の生産に大々的に取り組んでいるということだ。
例えば中国は、ウズベキスタンのフェルガナ渓谷やネパールでの大豆栽培に投資している。習近平国家主席が数年前から唱え始めた「食糧安全保障」の一環だ。中国では大豆の商品価値が低く、転作が進まないため、有事の際に国際制裁で海路での輸入が止まった場合に備え、家畜や家禽のエサとして不可欠な大豆を少しでも陸路で確保しようとしているのだ。
それほど中国は食糧制裁に非常にもろい。多くの米国の同盟諸国は中国絡みの有事に際し、中国に対する直接的な武力行使に慎重だとしても、食糧禁輸なら応じることができるはずだ。
ペロシ氏の訪台で「台湾海峡危機」を叫んだ専門家や記者たちは、中国が「完全な大国」ではないという事実を理解していない。
大国の定義とは何か。大国とは戦争に関わる全ての行為を自力でまかなうことのできる国だ。食糧の自給で深刻な弱点がある中国は大国とは呼べない。
平時における世界のパワーバランスとは、どの国が強く、どの国が弱いかという専門家たちの意見で決まる側面が強い。多くの専門家は中国の弱点を見過ごしている。一方、自国の弱点を理解する習氏は、外国に弱点を悟られないよう、最近は食糧安保に関し発言を控えるようになった。
中国は1990年以降の経済発展で、沿岸部の農地や耕作可能な土地を大規模工業地帯として開発してきた。スターリン時代の旧ソ連がウクライナなどの穀倉地帯を温存し、ウラル山脈などの内陸部を工業開発したのとは対照的だ。
2000年代に入り、こうした政策が重大な誤りだと気づいた中国当局は、農地転用を厳格に制限する法律を作ったが、それでも農地は減り続け、十分な量の大豆を生産できないままだ。
中国は海洋国家になることを目指して多数の艦船や地対艦ミサイルを整備し、周辺海域への強力な戦力投射が可能になった。だが、船だけ作っても中国は海洋国家になれない。海洋国家の存立には船の寄港や修理、補給などを受け入れる同盟国が必要だからだ。中国が真の海洋国家ならば、食糧の輸入に事欠くことはないはずなのだ。
米国が太平洋で覇権を確立できているのは、同盟国の日本とオーストラリアという「巨大な不沈空母」がいるためだ。中国は東・南シナ海を押さえたとしても、太平洋ではその先の足掛かりが全くない。
中国が同盟国を作ることをしなかったのは、胡錦濤前政権および習政権の外交政策の失敗だ。また、中国共産党は、共産主義体制の方が戦略的な計画策定ができるため、民主主義体制よりも優れていると主張するが、食糧という最も基本的な部分においてさえ、計画は完全に破綻している。
習氏は秋の党大会で党総書記3期目続投を目指し、終身体制を視野に置いている。しかし、中国がペロシ氏の訪台を阻止できなかったことに加え、ハイテク企業の人員整理などを受けて今年7月の若者の失業率が約20%に達し、社会的不満が高まっていることを勘案すると、習氏の終身権力構想は盤石とは言い切れない。
中国の脅威に米軍が万全の備えを固めるのは当然だ。一方で国際情勢分析の専門家や情報機関は、同盟国がおらず海洋国家になれず、ましてや「世界的強国」には程遠い中国を適切に評価するよう努めなくてはならない。(聞き手 黒瀬悦成)
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エドワード・ルトワック 米歴史学者。米国家安全保障会議(NSC)などでコンサルタントを務め、現在は政策研究機関「戦略国際問題研究所」(CSIS)上級顧問。安倍晋三元首相に戦略に関して提言していた。1942年生まれ。
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ペロシ米下院議長が今月初めに台湾を訪問した。メディアは「危機」を騒ぎ立て、ワシントンにいる、いわゆる中国専門家のほぼ全員が「ペロシ氏が訪台すれば世界の終わりが来る」と言わんばかりの反対声明を出した。だが、中国は大規模な軍事演習で対抗しただけで、台湾情勢に本質的な変化は何も起きていない。
一つ重要なことを理解しなくてはならない。全ての国が戦争を遂行できるわけではないという事実だ。
確かに全ての国は、まともに反撃できない弱い国に対して戦争を仕掛けることはできる。2年前に中国がインドに対して国境紛争を起こしたのが良い例だ。
だが、中国が台湾に侵攻すれば米国が出てくる。米中が核保有国である以上、中国の首脳は台湾海峡での局地紛争が核戦争にエスカレートするリスクを考慮することを迫られる。
加えて、中国には戦争に踏み切れない特殊事情がある。それは中国が食糧禁輸を中心とする経済制裁に脆弱(ぜいじゃく)だということだ。詳しく調べてみると、農業専門家の間では常識だが、多くの国際問題専門家が知らない事実に気づいた。中国が近年、植物性タンパク質の生産に大々的に取り組んでいるということだ。
例えば中国は、ウズベキスタンのフェルガナ渓谷やネパールでの大豆栽培に投資している。習近平国家主席が数年前から唱え始めた「食糧安全保障」の一環だ。中国では大豆の商品価値が低く、転作が進まないため、有事の際に国際制裁で海路での輸入が止まった場合に備え、家畜や家禽のエサとして不可欠な大豆を少しでも陸路で確保しようとしているのだ。
それほど中国は食糧制裁に非常にもろい。多くの米国の同盟諸国は中国絡みの有事に際し、中国に対する直接的な武力行使に慎重だとしても、食糧禁輸なら応じることができるはずだ。
ペロシ氏の訪台で「台湾海峡危機」を叫んだ専門家や記者たちは、中国が「完全な大国」ではないという事実を理解していない。
大国の定義とは何か。大国とは戦争に関わる全ての行為を自力でまかなうことのできる国だ。食糧の自給で深刻な弱点がある中国は大国とは呼べない。
平時における世界のパワーバランスとは、どの国が強く、どの国が弱いかという専門家たちの意見で決まる側面が強い。多くの専門家は中国の弱点を見過ごしている。一方、自国の弱点を理解する習氏は、外国に弱点を悟られないよう、最近は食糧安保に関し発言を控えるようになった。
中国は1990年以降の経済発展で、沿岸部の農地や耕作可能な土地を大規模工業地帯として開発してきた。スターリン時代の旧ソ連がウクライナなどの穀倉地帯を温存し、ウラル山脈などの内陸部を工業開発したのとは対照的だ。
2000年代に入り、こうした政策が重大な誤りだと気づいた中国当局は、農地転用を厳格に制限する法律を作ったが、それでも農地は減り続け、十分な量の大豆を生産できないままだ。
中国は海洋国家になることを目指して多数の艦船や地対艦ミサイルを整備し、周辺海域への強力な戦力投射が可能になった。だが、船だけ作っても中国は海洋国家になれない。海洋国家の存立には船の寄港や修理、補給などを受け入れる同盟国が必要だからだ。中国が真の海洋国家ならば、食糧の輸入に事欠くことはないはずなのだ。
米国が太平洋で覇権を確立できているのは、同盟国の日本とオーストラリアという「巨大な不沈空母」がいるためだ。中国は東・南シナ海を押さえたとしても、太平洋ではその先の足掛かりが全くない。
中国が同盟国を作ることをしなかったのは、胡錦濤前政権および習政権の外交政策の失敗だ。また、中国共産党は、共産主義体制の方が戦略的な計画策定ができるため、民主主義体制よりも優れていると主張するが、食糧という最も基本的な部分においてさえ、計画は完全に破綻している。
習氏は秋の党大会で党総書記3期目続投を目指し、終身体制を視野に置いている。しかし、中国がペロシ氏の訪台を阻止できなかったことに加え、ハイテク企業の人員整理などを受けて今年7月の若者の失業率が約20%に達し、社会的不満が高まっていることを勘案すると、習氏の終身権力構想は盤石とは言い切れない。
中国の脅威に米軍が万全の備えを固めるのは当然だ。一方で国際情勢分析の専門家や情報機関は、同盟国がおらず海洋国家になれず、ましてや「世界的強国」には程遠い中国を適切に評価するよう努めなくてはならない。(聞き手 黒瀬悦成)
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エドワード・ルトワック 米歴史学者。米国家安全保障会議(NSC)などでコンサルタントを務め、現在は政策研究機関「戦略国際問題研究所」(CSIS)上級顧問。安倍晋三元首相に戦略に関して提言していた。1942年生まれ。
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ペロシ氏の訪台で「台湾海峡危機」を叫んだ専門家や記者たちは、中国が「完全な大国」ではないという事実を理解していないと、ルトワック氏。
大国とは戦争に関わる全ての行為を自力でまかなうことのできる国だ。食糧の自給で深刻な弱点がある中国は大国とは呼べないと。
多くの専門家は中国の弱点を見過ごしている。一方、自国の弱点を理解する習氏は、外国に弱点を悟られないよう、最近は食糧安保に関し発言を控えるようになった。
中国は1990年以降の経済発展で、沿岸部の農地や耕作可能な土地を大規模工業地帯として開発してきた。スターリン時代の旧ソ連がウクライナなどの穀倉地帯を温存し、ウラル山脈などの内陸部を工業開発したのとは対照的だと。
2000年代に入り、こうした政策が重大な誤りだと気づいた中国当局は、農地転用を厳格に制限する法律を作ったが、それでも農地は減り続け、十分な量の大豆を生産できないまま。
中国は海洋国家になることを目指して多数の艦船や地対艦ミサイルを整備。
だが、船だけ作っても中国は海洋国家になれない。海洋国家の存立には船の寄港や修理、補給などを受け入れる同盟国が必要だからだ。中国が真の海洋国家ならば、食糧の輸入に事欠くことはないと。
米国が太平洋で覇権を確立できているのは、同盟国の日本とオーストラリアという「巨大な不沈空母」がいるためだと。
中国が同盟国を作ることをしなかったのは、胡錦濤前政権および習政権の外交政策の失敗だとルトワック氏。
習氏は秋の党大会で党総書記3期目続投を目指し、終身体制を視野に置いていることは、諸兄もご承知のこと。
しかし、中国がペロシ氏の訪台を阻止できなかったことに加え、ハイテク企業の人員整理などを受けて今年 7月の若者の失業率が約20%に達し、社会的不満が高まっていることを勘案すると、習氏の終身権力構想は盤石とは言い切れないと、ルトワック氏。
党大会での人事については、事前の北戴河会議で、長老を交えての会議で決定されることは、諸兄がご承知のこと。
今年の北戴河会議では、習近平の野望については、経済発展を復活させる条件がついたと、近藤氏の情報。
中国が対日姿勢を急転換か その訳は? - 遊爺雑記帳
国際情勢分析の専門家や情報機関は、同盟国がおらず海洋国家になれず、ましてや「世界的強国」には程遠い中国を適切に評価するよう努めなくてはならないとルトワック氏。
ゼロコロナ政策に拘り続けねばならない状況に追い込まれている習近平。その為の、強固なロックダウン政策で貯まる人民の不満。そして、経済の低迷と、そこから生じている不動産バブルの崩壊騒動や、失業率高騰。
対抗勢力の共青団派(今日の中国の経済大国を築いた鄧小平の流れを継ぐ)の台頭も聞こえてきますね。
習近平は、強権発動で乗り越えるのでしょうが、溜まる不満のマグマをかわすには、台湾有事で眼を逸らすしかない。
台湾有事は、尖閣諸島を持つ沖縄の有事。それは、日本の有事。
秋の、中国共産党大会以降の習近平の動向には目が離せませんね。
# 冒頭の画像は、視察先の遼寧省で市民に手を振る習近平国家主席
まだ青い稲穂
↓よろしかったら、お願いします。
遊爺さんの写真素材 - PIXTA