遊爺雑記帳

ブログを始めてはや○年。三日坊主にしては長続きしています。平和で美しい日本が滅びることがないことを願ってやみません。

イラン現体制 指導部が自ら招いた危機で崖っぷちに

2020-01-21 01:23:56 | 中東全般
 ガセム・ソレイマニ司令官が米国にテロの元締めとして暗殺されて以来、イランをめぐりその国内外では、情勢が大きく揺れ動いていますね。
 中東情勢は複雑に絡み合っていて、理解しがたいのですが、圧倒的指導力を発揮してきた宗教指導者ハメネイ師や、行政を仕切ってきたロウハニ大統領の二枚看板の現体制が揺らいでいる様に見え始めてきている様相。
 英エコノミスト誌が報じています。
 
崖っぷちに立つイラン現体制 指導部が自ら招いた危機、国内外から大きな圧力 | JBpress(Japan Business Press) 2020.1.20(月)The Economist

 イラン革命防衛隊(IRGC)では、ウクライナの旅客機が墜落した件で狼狽するあまり、いっそ死にたいと口走る幹部が2人もいた。
 そのうち1人は当の組織のトップだった。

 
体制の親衛隊にあたるIRGCは1月8日、首都テヘランの上空でこの民間機を誤って撃墜し、そのミスを隠蔽しようとした
 
謝罪の言葉を口にしたのは墜落の数日後、幹部らの嘘がばれた後のことだった。
 しかし、その後悔の念は長続きしなかった。

 
数千人の市民が怒りを表明しに街頭に繰り出すと、IRGCは群集を押し返す部隊を派遣。警棒での制圧に失敗した隊員の一部は発砲に及んだ

 抗議行動が武力で鎮圧されることは以前にもあった。直近では昨年11月に行われており、当局が数百人を殺害している。
 だが、
人々の怒りの根底にある経済面の不安と政治面の停滞について、現体制は解決策を一切講じていない
 そのため、不満を抱く庶民が増えるにつれ、次から次へと危機に見舞われる。

 一方、
諸外国からの圧力も強まっている。1月14日には英国、フランス、ドイツの3カ国が、2015年に署名した核開発抑制の合意に違反したとしてイランを正式に非難した。

「(イランの)現体制は崖っぷちに立たされている感じがする」。あるデモ参加者はそう語っている
 1月の初めには、IRGCで対外工作を担う部隊を率いていた、イランで最も有名な司令官の
ガセム・ソレイマニ氏が米国に暗殺され、イラン国内が一つにまとまってその死を悼んだ

 ところが、IRGCが報復措置としてイラク国内の米軍駐留基地にミサイル攻撃を行った(死者は出なかった)数時間後、
テヘランの発射操作担当者らは、国際空港から飛び立った旅客機をテヘラン目指して飛んできた巡航ミサイルだと誤認し、撃ち落とした
 旅客機の乗客乗員176人全員が死亡した。犠牲者の中には、勉強のためにカナダに向かっていた若いイラン人学生も数十人含まれていた。
 
撃墜から3日間、IRGCは機体の不具合が原因だと言い続けた。国営のテレビ放送での追悼も控えめだった。
 政府当局がこの事故を軽視する様子は、ソレイマニ司令官の大規模な葬儀とはまさに対照的だった。

 2017年と2019年の大規模な抗議行動は地方都市で始まり、参加者の大半は労働者階級のイラン国民だった。
 対照的に、
足元の政情不安は首都テヘランで始まっており、そこからさざ波のように地方に広がっている
 
学生と中間層が主導していることも特徴的だ。
 
ソレイマニ司令官の肖像画を壁から引き剥がしたり、最高指導者のハメネイ師の辞任を要求したりする人もいれば、反米・反イスラエルの感情を煽り立てて自らへの批判をかわそうとするIRGCの試みをばかにする人もいる

 テヘランのシャヒード・ベヘシュティー大学では、地面に大きく描かれた米国とイスラエルの国旗を踏みつけて歩くことを多くの学生が拒んでいた。
 イランの「ノーメンクラトゥーラ(政府の特権層)」の有力メンバーが現体制と大っぴらに袂を分かつケースも見られる。複数の新聞は読者を裏切っていたとする謝罪文を掲載し、当局に責任を問うと約束した。

「メディアをミスリードした政府高官も有罪だ」
 
準国営通信社であるタスニム通信のキアン・アブドラーニ編集長はツイッターにこう投稿した。「我々は全員、国民の皆さんに対して恥ずかしい気持ちで一杯だ」
 
テレビのニュース番組でアンカーを務めるジェラール・ジャバリ氏は「13年間、テレビで皆さん嘘をついてきた」ことを謝罪した。
 芸術家たちはフェスティバルへの参加を取りやめた。イラン唯一の女性オリンピックメダリスト、キミア・アリザデ氏は亡命することを明らかにした。

 
現体制は今や、体制寄りの残党が頼りだが、その勢力は弱まっているように見受けられる。
 この数カ月、アリ・ラリジャニ国会議長など数人の保守派政治家が引退を発表している。そのほかの保守派は、ハッサン・ロウハニ大統領に代表される現実路線の政治家たちと非難合戦を繰り広げている。

 
強硬派はロウハニ氏の辞任を求めており、そのロウハニ氏は、IRGCの幹部らを訴追すべきだと話している

 当局はミサイル誤射の件で数人の身柄を拘束したと述べているが、大物は含まれていないようだ。
 ミサイルが旅客機に命中する場面の動画をインターネットに投稿したために逮捕された人物もいると伝えられる。

 
止まらない経済の凋落は米国の制裁によって加速しており、強硬派と現実路線重視の穏健派の両方の信頼性を等しく低下させている

 国際通貨基金(IMF)は、イランの国内総生産(GDP)は今年9.5%縮小すると予想している。
 エコノミストらによれば、イランが破綻を免れるには日量100万バレルの原油を売る必要があるが、ここ数カ月はせいぜいその半分しか輸出できていない。
 資金不足のせいで、設備投資はほとんど行われていない。

 通貨リアルの紙幣を増刷すれば景気を刺激できるかもしれないが、そんなことをすればすでに年率40%近いインフレがさらに悪化するだろう。

 
イランのある学者は、現在のイラン経済を「10種類の病気を抱えて病院のベッドに横たわる90歳代の男性のようなもの」だと描写している。

 そうした
病気の多くは、元をたどれば米国のドナルド・トランプ大統領が2018年に下した決断に行き着く。制裁を解除する見返りとしてイランの核開発プログラムを抑制してきた核合意から離脱する決断だ。

 
トランプ氏は、イランのミサイル開発プログラムと中東地域への干渉も制限する新たな合意を望んでいる
 英国のボリス・ジョンソン首相も「(前の合意を)トランプ(米大統領の)協定に置き換えよう」と述べている。

 
ロウハニ氏はこのアイデアを退け、トランプ氏との対話を拒んできた

「イランは、北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉に応じて利益を得たメキシコにならうこともできた」とイランのある政治学者は指摘する。

「交渉を長引かせるだけでもトランプ氏を核合意にとどめたり、制裁を免れたりすることができたかもしれない」

 
イランの現体制はそうはせず、米国に立ち向かった。また濃縮ウラン製造の制限をすべて外すことにより、核合意に署名した欧州諸国をも遠ざけた

 濃縮ウランは原子力発電に使用でき、濃縮度をさらに高めれば核爆弾の製造も可能になる。
 これを受けて
英国、フランス、ドイツの3カ国は1月14日、核合意をめぐる紛争解決メカニズム(DRM)を発動した。
 最終的には
核合意の終わりを意味することにもなりうる行動だ。
 この決断には、米国が一枚噛んでいるかもしれない。米ワシントン・ポスト紙によれば、トランプ氏は3カ国に対し、行動を拒めば米国に輸入される欧州車に25%の関税を課すと脅しをかけた。

 イランにとって、現状は受け入れられるものではない。

 しかし、核合意がボロボロになり、実弟が(汚職の嫌疑で)身柄を拘束され、かつ自らの任期も来年で終わるという状況だけに、
ロウハニ大統領はレームダックになっているように見える

 国内には、大統領よりもIRGCの方がイランを変えてくれるかもしれないとの見方がある。
 IRGCはここ10年間で力を付け、経済面でも大きな役割を担うようになった、彼らなら聖職者による支配を覆して米国と仲直りできるかもしれない、というわけだ。

 しかし、
クーデターは起こりそうにない。評判を落としたIRGCは今でも、聖職者に首根っこを押さえられている

 聖職者側はIRGCの小隊以上の部隊すべてにハメネイ師直属の監督官を派遣し、隊員の昇進について詳しく調べている。
 
ハメネイ師はこれまで旅客機の墜落について謝罪していない。ひょっとしたら、弱さを見せることになると考えているのかもしれない。
 1月17日にはテヘランで8年ぶりに金曜礼拝を執り行い、譲歩はしないというメッセージを発すると見られていた。

 
ハメネイ師は、今年11月に選挙に臨むトランプ氏よりも長く権力の座にとどまることを期待しているのかもしれない。それまではIRGCと聖職者に頼って反対者の息の根を止めようとするだろう。

 聖職者とイスラム法学者から選ばれた人々で構成する
監督者評議会はこれまでに、国会議員全体の3分の1近くに相当する90人の現職国会議員に対し、来月実施予定の選挙に出馬することを禁止した。そのほとんどは穏健派だ。

 あるイラン人アナリストの言葉を借りるなら、この国の聖職者たちは1979年のイスラム革命で王朝が倒れた経験から、
体制は改革に乗り出す時に自らの弱体化を招くという教訓を学んだのだ。

 ソレイマニ氏が有能な軍人であったと評価されるのは、テロを組織する能力が高かったからである。その人物を殺害したのだから、米国はより安全になった。トランプ大統領を気まぐれ屋と言うマスコミは現実をよく見ていない。
 世間で言われているように、今回の事件によって中東がますます混乱することはない。トランプ大統領は有能な司令官を殺害することによってテロの脅威を低下させることに成功した。イランの指導部は次の一手に困っているはずだ。
 と、解説しておられるのは、Martial Research & Management・主席経済顧問の川島博之氏。
 イランに徹底抗戦を思いとどまらせる国内の特殊事情 女性の「声なき声」を無視できないイランの指導者 | JBpress(Japan Business Press)

 米軍によるソレイマニ司令官暗殺、イランによるイラクの米軍拠点への報復攻撃を経て、IRGCによるテヘランの上空での民間機を誤って撃墜。
 この撃墜を、隠蔽しようとしたIRGC。
 かねてより経済不満が溜まっていた市民が怒りを表明しに街頭に繰り出し、学生と中間層が主導する抗議行動は、ソレイマニ司令官の肖像画を壁から引き剥がしたり、最高指導者のハメネイ師の辞任を要求したり、反米・反イスラエルの感情を煽り立てて自らへの批判をかわそうとするIRGCの試みをばかにするひとがいるなど、首都テヘランで始まった抗議行動は、地方へと広がりを見せているのだそうですね。
 
 メディアも一変、準国営通信社であるタスニム通信のキアン・アブドラーニ編集長はツイッターにこう投稿。「我々は全員、国民の皆さんに対して恥ずかしい気持ちで一杯だ」。テレビのニュース番組でアンカーを務めるジェラール・ジャバリ氏は「13年間、テレビで皆さん嘘をついてきた」ことを謝罪したのだそうです。
 
 現体制は今や、体制寄りの残党が頼りだが、その勢力は弱まっていて、強硬派はロウハニ氏の辞任を求めており、そのロウハニ氏は、IRGCの幹部らを訴追すべきだと話しているのだと。
 
 イランのある学者は、現在のイラン経済を「10種類の病気を抱えて病院のベッドに横たわる90歳代の男性のようなもの」だと描写しているのだそうです。
 そうした病気の多くは、元をたどれば米国のドナルド・トランプ大統領が2018年に下した核合意から離脱の決断に行き着くとエコノミスト誌。
 トランプ氏は、イランのミサイル開発プログラムと中東地域への干渉も制限する新たな合意を望んでいるが、ロウハニ氏はこのアイデアを退け、トランプ氏との対話を拒んできた。
 
 「イランは、北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉に応じて利益を得たメキシコにならうこともできた」とイランのある政治学者は指摘するが、イランの現体制はそうはせず、米国に立ち向かった。
 更に、濃縮ウラン製造の制限をすべて外すことにより、核合意に署名した欧州諸国をも遠ざけてしまった。
 英、仏、独の3カ国は、核合意をめぐる紛争解決メカニズム(DRM)を発動。
 これは、最終的には核合意の終わりを意味することにもなりうる行動だと。

 核合意がボロボロになり、実弟が(汚職の嫌疑で)身柄を拘束され、かつ自らの任期も来年で終わるという状況だけに、ロウハニ大統領はレームダックになっているように見えるとも。

 鉄壁に見えていたイランの宗教指導者と行政の二枚看板の政治体制。
 若者の信仰心の変化も耳にしますが、ひとり息子に思いをはせる母親、経済への不満抗議行動などなど、国内で変化が起きているようです。
 これからどんな変化があるのでしょう。



 # 冒頭の画像は、ハメネイ師などイラン指導部への抗議活動をする人々




  白梅




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ソ連が満洲に侵攻した夏 (文春文庫)


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