Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

まぼろし

2006-08-27 | 外国映画(ま行)
★★★★★ 2001年/フランス 監督/フランソワ・オゾン

「あなたには重みがない」



25年連れ添った夫が浜辺で突然姿を消した。事故なのか、自殺なのか、それとも失踪なのか。妻は夫の不在が受け入れられずに、彼のまぼろしを見るようになる…。

現在活躍中のフランス人監督で誰が一番好きかと聞かれれば、私は真っ先にフランソワ・オゾンと答える。(もはやすっかり人気者になってしまったが)それにしても、彼との最初の出会いが「焼け石に水」だったので、この作品の作風がそれとはずいぶん異なることに驚いた。弱冠37歳という若さで、このような深い中年女の心理模様を描いたこと、そして稀代の名女優シャーロット・ランプリングを再び表舞台に立たせたことということが、彼の映画監督としての才能を大いに物語っている。

何と言っても、シャーロット・ランプリングの美しさを存分に引き出したところがすばらしい。リリアナ・カヴァーニの名作「愛の嵐」は私も大好きな作品で、裸にナチの帽子とサスペンダーというあの出で立ちは、女性である私から見ても忘れられない美しさだった。ところが、その後のランプリングって、あんまり作品に恵まれていなかったように思う。彼女の妖しげな美しさを「利用して」そのような雰囲気だけお借りします、みたいな作品が多かった。まあ、ポール・ニューマンと共演した「評決は」まだ良かったかな。

で、まぼろしに戻って、この作品ではシャーロット・ランプリングの美しさにほんと惚れ惚れする。もちろん、若い女性の持つ美しさとは全然違うんだけれども、妖しくて、哀しくて、凛として。ラブシーンでもきれいな乳房を堂々と出してます。そこには、50代の女性に真っ向から対峙しているオゾンの真摯な姿勢とシャーロットへの賛美が感じられる。オゾンのこの視線はその後の作品「スイミングプール」でも堪能できる。

夫を失った喪失感に耐えきれず、部屋で夫を見るようになる彼女は精神的におかしいのだろうか。私は全編通して、これは喪失を埋めるための必要不可欠な通過儀礼であり、非常に自然な心の流れだと思う。オゾンっぽいなあ、と思うのは結局彼女がそれを乗り切れたのかどうかわからないラストシーンである。

夫らしき死体が上がったと警察から連絡が入り、確認に出向くマリー。検察医から腐乱が激しいので見るのは止めた方が良いと言われるにも関わらず、どうしても遺体確認がしたいと安置室へ行く。このくだりで、マリーはようやく夫の死を受け入れる決心が付き、そのふんぎりを付けるためにも死体を自分の目で確認しようとしたのだと思った。ところが、遺留品の時計を見せられ、「これは夫のではない。あの死体は夫ではない」とひるがえすマリー。浜辺で見た男は、またもやマリーが作り出したまぼろしなのだろうか。それとも、浜辺でひとり嗚咽した後、彼女は全てを受け入れることができたのだろうか。大いに余韻を残す美しいラストシーンだ。

私がオゾンを好きなところは、西川美和監督のテイストとかなり似ているのだが、人の感情にチクリと針を刺すそのやり方にある。人間の持つイヤな部分を非常にシニカルでドキッとさせる方法で見せる。何でこういうセリフが書けるの?とつくづく思う。この作品では夫の死後、関係を持った男に「あなたは重みがない」と言い放つシーン。(マリーの夫は大柄で恰幅のいい男なのだ)そして、夫の母に「あなたに飽きたから息子はどこかに行ってしまったのよ」とマリーが言われるシーン。こういった人間の心の深いところをえぐるようなセリフやシーンを見せつけられると、私はすっかりその監督のファンになってしまうのだ。


スーパーマン・リターンズ

2006-08-27 | 外国映画(さ行)
★★★★☆ 2006年/アメリカ 監督/ブライアン・シンガー
<京都MOVIXにて>


「夏休みの最後を飾るにふさわしい!」



オープニングの宇宙の旅を描いたシークエンスがすばらしい。スーパーマンのテーマソングが流れ、おそらく彼がクリプトン星まで行ってその消滅を確認し、再び地球に帰ってくるまでの目線で描かれる壮大な宇宙の景色。そこには果てしない銀河と美しい惑星が広がる。まるで、自分がスーパーマンとなって、空を飛んでいるかのような浮遊感を持って描かれている。テーマ曲の荘厳さと相まって、始まって5分でいきなりううるうる来てしまった。正直CG処理嫌いだけど、このシーンは本当に美しい。

そして、スーパーマンを演じるブランドン・ラウス。このコスチュームを着こなしていることだけでも、賞賛に値する。今どきこのマントと赤パンツそして胸にSの全身タイツが似合う男はコイツしかいない!とも思わせる着こなしぶり。しかも、カッコイイとはどういうことですか。空を飛ぶにはやっぱりマントがなきゃね。はためき具合といい、質感といい、すごくイイ感じ。マントのしわがね、うまく作ってあるなあ、とミョーに感心。実際の素材は一体何なんだろう。

さて。地球に帰ってきていきなり墜落寸前の飛行機を救出。宇宙まで飛んでいった飛行機が垂直に落下するのを「下から受け止める」ってアンタのパワーはどうなってんですか!って感じだけど、まあまあとにもかくにも、スーパースーパーな活躍ぶりは、ちょっと笑っちゃうほどで。何があってもスーパーマンが来てくれるのだ~という安心感は、ハラハラドキドキとは無縁な分、その超人ぶりをとことん楽しもうじゃないの。

レックス・ルーサーが大悪党ではなく小悪党なのが、いただけない。ここまで超人的パワー使わなくてもこんなこわっぱすぐにひねり倒せるぜ。刑務所で知り合った男どもを仲間にするってのも、なんかチープだよ~。スーパーマンに相対する人物として、もう少し徹底的な悪党にして欲しかったなあ。

スーパーマン、ロイス、リチャードを三角関係にしたのは、とっても現代的。ロイス、このままいったら不倫じゃん!リチャード、つらいのお。命を賭けてあんなに頑張ったのにー。と、いうわけで、おそらく次回はこの三角関係が一体どうなるのか、興味津々。まさかリチャードが死んでたりして(笑)。そして、もうひとりの「彼」はどうなるのか。(ネタばれになるので書きません~)

見終わって、スーパーマンの超人ぶりに家族でひときわ話が盛り上がりました。夫が言うのに「浮遊している状態で下方向に落下する巨大な物体を持ち上げてしまうのは、物理的にどうなんだ」という疑問が。確かに上向きの推進力は、どこから生じているのだろう?そこで「空想科学読本」を愛読している息子がすかさず「スーパーマンはほとんどが腕力に頼ってるらしいで」と答える。ふうん。男たちは勝手に言っててちょうだい。私はロイスみたいに空中遊泳に連れて行って欲しいわ~。