Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

アフタースクール

2008-06-15 | 日本映画(あ行)
★★★★ 2007年/日本 監督/内田けんじ
<梅田ガーデンシネマにて観賞>

「人間は錯覚する生き物」


前作「運命じゃない人」を見ていない、と言うのが返す返すも残念なのですが、なかなか楽しめました。

「伏線」と言うよりも「錯覚」によるマジックという方が正しい気がします。たまたま、観賞前日に錯覚を利用した視覚アートを紹介する番組を見たのですが、非常に近いものを感じました。 つまり、そのシチュエーションでそのセリフを聞くと、 この物語はこうだ、と勝手に脳が思いこむということ。 冒頭妊婦がいて、スーツを来た男が部屋から出て行く。「朝ご飯ありがとうね。」「新しい靴を買っておいたよ。」と聞けば、誰しも新婚夫婦の朝の風景だと思ってしまう。視覚アートの場合も立体を把握する時に脳が勝手に補完するのを利用しているのですが、これもまさにそうでしょう。新婚夫婦の物語だな、と一旦脳にインプットされると、その後の展開も勝手に脳が補完してしまう。しかし、もちろん本筋はそこからどんどんずれていくわけで、そのズレが面白さのミソなんですね。

最終的に話が1本の筋道になった時に全体を見渡してみると、 なんてことないごくごく普通のストーリー。ここがとてもいい。それは、本筋がシンプルだからこそ、組み替えで複雑に見える、という構造上の問題もあるだろうけど、むしろ観客に取ってのメリットの方が大きい。つまり、騙された時の爽快感。全てが終わった時に、あれはどういうこと?という煮えきらなさが残らない。内田監督は、なかなかの策士ですね。

今回は有名俳優が出ていますけど、 彼らがもともと持っているイメージもうまく利用していると感心しました。 俳優頼みなんて意見もあるようですが、私は逆ですね。 このキャスティングそのものも錯覚のひとつに組み込んだ監督はクレバーだと思います。 中でも光っていたのは、大泉洋。ぼんやりの後のピリッとした演技が良かった。

惜しむらくは、最初の1時間くらいが冗長に感じられたこと。前半部で映画的な快楽が得られるかどうかと言われるとちょっと微妙。 風景が美しいとか、ドキッとするショットがあるとか、 ぐっとスクリーンに入り込めたらもっと良かった。 ラスト、三角関係の甘酸っぱい余韻とほんわりした幸福感を残したのは◎。全てがわかった上で、最初から見直すとどうなるんだろうと言う別の興味が湧いてきました。