『スコットと朝食を』
世の中には、ゲイ映画といえばすなわち禁断の愛とか背徳的なエロティシズム満載の、ヘンな趣味の人だけが喜んで観る変わった映画だと思ってる人もいっぱいいるだろう。
このブログを読んでる人の中には「そんなまさか、この21世紀に」なんていう向きもおられるやもしれませんが、いるんだなコレが。ホントに。脳味噌化石化してるとしか思えない無意味な偏見にみちみちた人が、実際ぐりの周りにはいっぱいいる。これだけ情報が溢れてて人生観もどんどん多様化してるってのに、そういう時代の流れにまったくついていこうともせず、平気で差別や偏見を無視できる人々。
この『スコットと朝食を』の主人公エリック(トーマス・カヴァナフ)はどっちかというとそういう、アタマかっちかちのコンサバ男である。でも、ゲイ。職業はスポーツ・キャスター。弁護士のサム(ベン・シェンクマン)と同棲して4年になる。
だがこのふたり、どこからどうみてもごくごくふつうの男性である。チャラチャラしたオシャレもしないし、ゲイバーにも行かないし、アルコールもタバコもドラッグもやらないし、下ネタジョークもいわないし、いわゆるゲイコミュニティとのおつきあいもなし。カップルなのに全編通してキスもハグもしない(たぶん)。いっしょに住んでるだけ。いいあいはちょくちょくする。ジム通いとインテリアに凝るところだけは微妙に「ゲイ」だ。
そんなふたりの家に、ある日スコット(ノア・バーネット)という11歳の少年が転がり込んでくる。くるくるの巻き毛で手首にはチャームのブレスレット、お化粧とヒラヒラしたピンクの洋服とクリスマス・キャロルが大好きな、思いっきり「ゲイ」な男の子。当然ふたりの生活はしっちゃかめっちゃかにかきまわされる。
つまりこの映画、ゲイが出てくるゲイ映画だが同性愛についての映画ではなく、「男らしさとは何か」という価値観の本質をテーマにしたホームコメディになっている。恋愛とかナイトライフなんてものはあえて語る必要はないという割りきりが非常に潔い。
子ども嫌いなうえに「ゲイ」なモノをとことん嫌悪するエリックは、初めスコットのやることなすことすべてを否定したがる。観ていてうまいなと思うのは、とくに説明はなくても、おそらくエリックも子ども時代に大人たちからやはり「ゲイ」なモノや現象を否定され取り上げられたであろう過去を容易に連想させるところである。エリックも自分がスコットにしていることの理由がちゃんとわかっていないからだ。ほんとうは子ども相手にきちんとわけを話してやらなければならないところをどうにもできないジレンマが、非常にさりげなく表現されている。
そんなエリックをどこまで理解しているかはわからないが、スコットはスコットなりにエリックに気に入られようと変わっていく。子どもは何もわかっていないようで意外に大人のことをよく見ているし、理屈ではなくて感覚で素直に反応する。そうして子どもは成長を積み重ねていくし、そういう素直さが子どもらしさでもある。
政治的に最も正しいといわれるカナダの映画らしく、アフリカ系やアジア系などさまざまな人種が入り乱れて出演していて、ジュニアホッケーのコーチ役はグレアム・グリーンが演じていた。
スコット役のノアはラファエロの
「小椅子の聖母子」の幼いキリストをそのまま大きくしたような美少年だが、大きく開いた前歯の隙間がキュートで、スコットというキャラクターのおもしろさはこの前歯で半分くらい占めているような気がする。
ゲイがどうとか同性愛がどうとかいう以前に、ライフスタイルやセクシュアリティを超えたすべての偏見を人は乗り越えられる、そんなポジティブなメッセージに満ちたステキな映画。超オススメです。
2度めの上映は17日木曜日夜8時、スパイラルホールにて。