落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

実験しようよ

2006年07月05日 | movie
『スーパーサイズ・ミー』
『モーガン・スパーロックの30デイズ』
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2004年アカデミー賞長篇ドキュメンタリー部門にノミネートされた文字通りの実験映画『スーパーサイズ・ミー』。
受賞は逃したものの社会に与えた影響は絶大で、マクドナルドはスーパーサイズをやめ、よりヘルシーなメニューを開発すると発表、全米各地の公立学校の一部では糖分過多な飲料の校内販売を中止。最近ではマクドナルド社との広告宣伝での提携を辞める企業も出てきているという。
この映画では、監督が自分で実験台になって30日間3食毎食マクドナルドを食べ続ける姿と健康状態の推移を映像に記録し、同時にアメリカ社会における肥満・健康問題とファストフードとの関係をわかりやすく明解に紹介してるんだけど、これ日本人にとってはすっごく親しみのある映像です。「電波少年」でやってたいろんな実験生活、まさにアレ。テーマは違うけど、ノリというか表現方法はまったく同じです。

『スーパー〜』が話題になったあとで同じ監督の実験番組シリーズとして製作されたのが『〜30デイズ』。今回は全6話中の4回めまでを観ました。1話めが最低賃金生活、2がアンチエイジング医療体験、3はイスラム教社会でホームステイ、4がゲイコミュニティでゲイの家にホームステイ。1以外は被験者は一般の視聴者から選ばれた男性ばかり、1は監督自身とガールフレンド。
1と2は『スーパー〜』とちょっと似てる。1はアメリカでみんながそっぽを向いて置き去りにしてる問題を照らしだすという点で、2はカラダを使ってアメリカ人の偏った価値観の暗部を実証するという点が共通してる、というと高尚だけど、ぶっちゃけどっちも被験者がだんだんヘコんでくってとこが同じなんだよね(笑)。毎日映像で記録されるからその変化がすごーくわかりやすい。ストレートです。
3と4はそれとは全く逆。『スーパー〜』と1と2は、実験で起こる現象によってモチーフの問題点を実証するのがメインテーマだけど、3と4は既にそこにあって誰でも知ってるんだけど誰も直視しようとしない問題を被験者の経験をドキュメントすることで可視化するのがテーマ。似てるようだけど方向がまるっきり違ってます。3と4の被験者の変化は1や2と違って段階的じゃない。いくつかのきっかけがあって、扉をひとつずつ開くように変化していく。

結論からいえば1と2は大しておもしろくはなかったです(爆)。まあふつうの想像力があれば誰にでもわかる内容だからね。あらためて実験するほどのことなのかどうか、よくわからない。『スーパー〜』と同じように、「ああやっぱり(怖)」という感じ。それに比べれば3と4は断然おもしろいし、非常に画期的。
イスラム教と同性愛なんてなんにも関係がなさそうなんだけど、この3と4はハッキリいってアメリカ人にとってまったく同じ問題だということが大きな発見だった。どこが同じなのか?どっちの差別も戦争と宗教を根拠にしているのだ。
9.11以降アメリカではイスラム教徒はひどい差別をうけていて、アメリカ人はムスリムはみんなテロリストだと思いこんでいる。在米中東人の多くが公共の場所で差別行為をうけた経験をもっている。でもそういう差別をする人たちはイスラム教がどういう宗教で、イスラム教徒がどういう生活をしている人たちなのか、まるで知ろうともしない。その壁はやはりアメリカ人の多くがキリスト教の概念にかたく縛りつけられているという社会背景による。
同性愛差別も第二次世界大戦がひとつの契機になっている。もともとキリスト教社会だったアメリカでは、聖書で禁じられているからというだけで同性愛は犯罪扱いされてきたけど、戦時には大勢の同性愛者が軍隊を解雇され、故郷に戻ることなく西海岸にコミュニティを形成した。代表的なのはサンフランシスコのカストロ地区で、番組もここで撮影されている。

3と4の被験者はどちらも敬虔なキリスト教徒で、4の被験者は軍隊経験者でもある。どちらももともとイスラム教や同性愛に対して無知で非常に否定的だが、それは彼らだけがそうなのではない。おそらく平均的なアメリカ人は大抵そうなのだろう。だがふたりとも30日間の実験によって、彼らなりの方法で彼らなりの答えに辿り着く。答えはやはりふたりとも同じだ。宗教やセクシュアリティは人間のアイデンティティの一部分にすぎないということだ。同じ人間同士、違うところなんて些細なものだ。わかりあう方法はいくらでもあるし、わからないことがあったって構わない。わかることを大切にし、わからないことを否定しない。
こんな風に言葉でかたづけてしまうとすごくカンタンなことみたいだけど、アメリカ人にとってはそうじゃないんだよね。誰でもそうかな?

こういう実験番組はアメリカでは今も人気みたいで、いろんな局でいろんな実験をやっては好視聴率を挙げてるそーです。この番組とか日本でも放送して欲しい。
オリジナルでもやってほしいんだけど、ポリティカルジョークという文化のない国だからスポンサーはつかないかもね。ぐりはゼンゼンTVみないけど、もしこういう番組が日本にもあったら絶対みるんだけどなー。


監督のモーガン・スパーロックは1970年生まれ。ぐりと同世代だ。
作品を観てると社会意識の高さや表現能力の冷静さなど、勉強になることがとても多くて励まされます。
でも『スーパー〜』日本公開時にはマクドナルド社の圧力を怖れた日本の大手TV局は一社もこの作品をとりあげようとはしなかったそうだ。ふーーーーーーん・・・。

月刊ソトコトによるスーパーサイズ・ミー勝手に応援ブログ
ベイエリア在住町山智浩アメリカ日記 2004-05-13 30日間朝昼晩三食すべてマクドナルドで食べる
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