忙しくて眩暈しています、いや、本当に……。そして今日は、過労死が現実になったら、と柄にも無いことまでが心を過ぎりました。
しかし幸いなことに、嬉しい再発盤が届きましたので、本日はこれを――
■The Giants Of Jazz (Atlantic)
1960年代後半からのニューロック・ブーム、フリージャズの大嵐、そしてジャズロックの台頭等々で、正統派モダンジャズは完全に息の根を止められたかのような1970年代初頭に、それではならじと奮起したかのようなベテラン達によるネオ・バップ・ブームがありました。
ネオ・バップとは、ようするに往年の名プレイヤーが正統派ビバップを演奏するという、リバイバル現象です。その発端のなったのが、有名な興行師のジョージ・ウェインが仕掛けた「The Giants Of Jazz」というコンサート・ツアーでした。
このアルバムはその巡業のイギリス好演をライブ録音したもので、オリジナルはアナログ盤の2枚組でした。メンバーはディジー・ガレスピー(tp)、カイ・ウィンディング(tb)、ソニー・ステット(as,ts)、セロニアス・モンク(p)、アル・マッキボン(b)、アート・ブレイキー(ds) という、1940年代から活躍し、モダンジャズを創生した大物達! 録音日は1971年11月14日、その内容は――
A-1 Tin Tin Deo
ディジー・ガレスピーの当り曲で、オリジナルはラテン・キューバン系の楽しい演奏でしから、このメンツでお祭騒ぎと思いきや、逆に淡々とガレスピーがただ独りでアドリブ・ソロを展開するという肩透かしのスタートが思わせぶりです。そしてようやく、2分20秒目あたりからアル・マッキボンのベースが、あの楽しいリフを弾きながら登場するのですが、ここでテーマを演奏するのが、またまたガレスピーだけなんですねぇ……。
なんじゃ、これっ! と聴き手はガックリというのが正直なところでしょうが、しかし演奏はそれなりの密度があり、この2人の絡みとアドリブ・ソロは聴き応えがあります。そして6分目からは、お待ちかねのセロニアス・モンクが不協和音がいっぱいのピアノ伴奏をつけてくれます♪ もちろんアル・マッキボンは、それを全く無視して唯我独尊のベース・ソロを展開するところが、最高の聴きどころです。
A-2 Night In Tunisia
ビバップ~ハードバップでは定番の名曲で、全員によるテーマ吹奏は大迫力! そしてもう皆様ご推察のとおり、アート・ブレイキーが大暴れします。しかしそれが長すぎます。なにしろ全篇、10分21秒の演奏時間中でドラムソロがその半分以上という異常事態! ホーン隊でソロをとるのがガレスピーだけという、これもある意味で肩透かしの演奏です。
B-1 Woody 'n' You
これもビバップ期に誕生した定番曲で、ここでようやく全員が揃っての火の出るような演奏となります。その先発はソニー・ステットのアルト・ソロで、チャーリー・パーカー直系のフレーズを使いつつも独自のステット節がたっぷり披露されます。また続くカイ・ウィンディングも闊達なノリで迫力があり、もちろんガレスピーも快調です。
そしていよいよセロニアス・モンクが登場♪ 例の訥弁フレーズとブチキレのビートでその場を撹乱してくれますが、特筆すべきはアート・ブレイキーの烈しくも繊細なドラムスで、アドリブ・ソロを演じる各々のミュージシャンの個性を大切にした煽りは流石です。
B-2 Tour De Force
またまたビバップの定番曲が快適なテンポで演じられますが、ジャムセッション風のステージでありながら、アレンジされた部分は完璧に演じられています。ソロの順番はカイ・ウィンディング、ソニー・ステット、セロニアス・モンク、ディジー・ガレスピー、アル・マッキボンと続きますが、いずれもアイディア豊かなアドリブで、特にソニー・ステットはテナーサックスでハードバップそのもののドライブ感を聞かせてくれますし、ガレスピーはベースとドラムスだけをバックに濃密な瞬間を何度も現出させる名演です。もちろんここでもアート・ブレイキーのドラムスが冴えわたっています。
C-1 Allen's Alley
アップテンポの大ハードバップ大会です。なにしろアート・ブレイキーが鬼にようにバックから煽りたてるのですから、各アドリブ・プレイヤーも燃えないわけにはいきません。先発のソニー・ステットは荒っぽいながらも十八番のフレーズを連発し、カイ・ウィンディングが悠然と大ブロー、そしてガレスピーは衰えぬハイノートをヒットします。
それにしてもアート・ブレイキーは怖ろしい! バックでの煽りに加えて、大団円は大車輪のドラムソロですから♪
C-2 Blun 'n' Boogie
これもハードバップそのものといった演奏ですが、ここでは先発のセロニアス・モンクが元気いっぱいです♪ ベース&ドラムスとの息もぴったりの熱演で、ちなみにモンクはこのステージの翌日に、同じトリオでアルバム3枚分の録音セッションを行っており、それが公式にはラストレコーディングになっています。
で、こちらの演奏はその後、カイ・ウィンディングが大爆発して興奮を増幅させ、ソニー・ステット、ガレスピーの熱演を導くのです。もちろんアート・ブレイキーも烈しいドラムスで応戦していく、これは本当に熱い演奏です。
D-1 Everthing Happens To Me
ソニー・ステットが一人舞台の名演です。曲は泣きの有名スタンダードですが、まずセロニアス・モンクの絶妙なイントロから痺れます。そして艶やかな音色でテーマを吹奏していくソニー・ステットは、時折、高速フレーズを織込んで変奏しつつも、オリジナルのメロディを大切にして歌い上げていくのです。そしてアドリブ・パートではテンポを自在に操り、最高のフレーズばかりを吹きまくりです。
正直言うと、ソニー・ステットはメジャー・スケールを中心に使うので、個人的にはあまり好きではないのですが、物凄く上手い、本当の名人なので、ここでの名演もアサメシ前というところかもしれませんが、実はアート・ブレイキーの絶妙なドラムスがあってこその結果ではないでしょうか。
D-2 Dizzy's Rap
タイトルどおり、ガレスピーの漫談です。
D-3 Blue Monk
クライマックスはセロニアス・モンクの十八番ブルースです。ここではミディアム・テンポで演じられますが、その気だるい雰囲気がアート・ブレイキーの素晴らしいドラムスによってファンキーに変換されています。
そしてそのビートの中をホーン隊が縦横無尽に名人芸を披露していくのです。しかし演奏はあくまでもモンクが輝くように進み、何度聞いても独特の虚無的な世界に引き込まれてしまいます。
D-4 Round Midnight
セロニアス・モンクと言えば、この曲が出なくては納まりません。今日的にはマイルス・デイビスの演奏が決定版とされていますが、作者のモンクはそれには満足していないどころか、否定的だったと言われていますから、大物ホーン隊を従えたここで、どのような答えが出ているのか興味津々です。
で、それは自然体のグルーヴが極まったモンクのピアノ・ソロと、むしろ穏やか感覚のホーン隊とのコントラストが目立つ、成行き任せの展開が???です。つまり緊張感が薄いのですが、それゆえにモンクも心置きなく十八番の演奏を聞かせて、大団円としております。
ということで、これは大物達が昔の名前で出ていますと言われれば、全くそれまでの演奏なんですが、やはり心躍って聴いてしまう、否、聴かずにはいられないアルバムです。ただし、はっきり言うと、もっと出来るはずという部分も否定出来ません。しかしロックに侵食されて落目になっていた当時のジャズに得体の知れないものを感じていたガチガチのファンには、この作品がオアシスであったことも、また事実でした。
ジャズらしいジャズとしては、天下一品です。あぁ、疲れきった心身に気持ち良い……。