WBCはメキシコの奮闘とアメリカの自滅によって、日本がどうにか準決勝に進むことが出来ました。とにかく嬉し~い! と素直に喜んでいます。当に正義は勝つ! という昔懐かしいフレーズが出ますね♪ そして今度こそ、韓国に勝って欲しいところです。
そういう気分で聴いた本日の1枚は――
■Among Friends / Atr Pepper (Trio / Interplay)
1975年のアート・ペッパー本格的カムバックの報はジャズ者を狂喜させました。しかもその再起を飾るアルバムが、古巣のコンテンポラリー・レーベルから発売されるとあって、ジャズ・マスコミも大々的に盛上がったのは、今でも鮮烈な記憶です。
しかし、発表されたアルバムは賛否両論でした。なにしろそこには、繊細な感覚に満たされた往年のアート・ペッパーでは無く、1960年代のジョン・コルトレーンに毒されたような、すっかり歌心を忘れ、感情に先走った無残な演奏が記録されていたのです。
確かにアート・ペッパーは娑婆との生活から切り離され、反省と自己を見つめる時間が長かったとはいえ、それまでの自分の素晴らしさを放棄してしまうのは愚行と、私には感じられました。あるいは昔と同じでは進歩が無いと看做されるのが嫌だったのか……。
とにかくそれ以降、発表されるアルバムは、ほとんどがコルトレーン流のモードに侵された演奏が主流となり、なんとエルビン・ジョーンズ(ds) と共演したライブ盤まで作ってしまうのです。もちろんそれらは、流石天才! という部分も確かに感じられるのですが……。
そんなこんなの中、1978年末に突如、日本で発売されたのがこのアルバムです。そしてそのあまりの素晴らしさに、ファンは忽ち虜になったのです。メンバーはアート・ペッパー(as)、ラス・フリーマン(p)、ボブ・マグヌッセン(b)、フランク・バトラー(ds) という新旧西海岸派によるワン・ホーン体制で、録音は1978年9月2日とされています――
A-1 Among Friends
快適なテンポでグルーヴするブルースです♪ とにかくイントロからリズム隊がゴキゲンで、ペッパーも気持ち良くブルースを吹きまくりますが、それはもちろん、ペッパーだけの愁い満ちた絶妙な歌心が溢れ、まず1分52秒目、2分14秒目あたりのスパイラルなフレーズには、往年のファンならずとも、ゾクゾクしてくるでしょう♪
というように、ここにはファンが待ち望んだ、あのアート・ペッパーが姿を現していたのです。つまりコルトレーンに毒されていないアート・ペッパーです♪
また久々にジャズを演奏するラス・フリーマンも快調ですし、新鋭のボブ・マグヌッセンとベテランのフランク・バトラーのリズム・コンビネーションも上手くいっています。
A-2 Round About Midnight
モダンジャズの人気曲をアート・ペッパーが演じるというだけで、ジャズ者には心躍るニクイ選曲ですが、個人的にはあまり好きではありません。何というか、あまにも当たり前な出来になっているような感じます。もちろん、これだけ情感満点な正統派ジャズは、フュージョン全盛期の当時では、誰も出来なかった演奏ではありますが……。
A-3 I'm Getting Sentimental Over You
アート・ペッパーとラス・フリーマンの名コンビによって1956年に吹き込まれた「The Art Pepper Quartet (Tampa)」で決定的な名演が残されているスタンダード曲の再演という、これも嬉しい選曲です。ここではイントロにちょっとモード風なアレンジが施されているので、最初は嫌な予感に包まれるのですが、テーマを吹奏するアート・ペッパーは唯我独尊に昔を懐かしむノリを聞かせてくれます。
そしてアドリブ・パートでも十八番のペッパー・フレーズを連発して、聴き手を安心させてくれるのですが、悲しいかな、やはり1956年の演奏にはかないません。まあ、それがあまりにも神がかりだったと言えば、全くそのとおりなんですが、もうこれ以上は皆様の耳でお確かめ願います。ただし、ここでの演奏も捨てがたい魅力があります。
A-4 Blue Bossa
モダンジャズの人気曲で、タイトルどおりに哀愁のボサ・ロックが演じられます。そしてこういうラテン物はアート・ペッバーの十八番とあって、絶好調のフレーズが、これでもかと溢れ出ています♪
共演者ではボブ・マグヌッセンが手数の多いノリで技巧派としての面目躍如のソロとバッキングで奮闘していますし、フランク・バトラーも軽快でいながら、要所で重いキメを多用して盛り上げています。
B-1 What Is This Thing Called Love
これまた1956年にアート・ペッパー&ラス・フリーマン組によって吹き込まれた「Modern Art (Intro)」で大名演が残れさているスタンダードが選ばれました。そしてここでも「A-3」同様、モード風のアレンジが施されていますが、それをものともしないアート・ペッパーが最高です。快調なテーマ吹奏から余人が真似出来ない絶妙なブレイク、そして緊張感溢れるアドリブ・パートの展開が続き、これにはファンならずとも悶絶するでしょう♪ もちろん例のペッパー・フレーズがたっぷりです♪
このあたりは、当時のアート・ペッパーがキメにしていた、まるっきり豚の鳴き声のようなブキーッという、ファンが一番嫌っている激情のフレーズが出るのではないかという嫌な予感をぶっ飛ばす快演になっています。そしてそんなバカをやらなくとも、アート・ペッパーは時代を超越した最高のアドリブ名人であることが、この演奏を聴くとあらためて痛感されるのでした。
B-2 What's New
これもジャズ者には嬉しい選曲ですが、「A-2」同様、やや型にはまった演奏です。しかしその「型」がアート・ペッパーしか持ち得ない素晴らしいものですから、たまりません♪ じっくり聴いて、さらに納得の演奏です。
B-3 Besame Mucho
これも嬉しすぎる選曲ですが、前述した1956年の「The Art Pepper Quartet (Tampa)」収録のバージョンが決定的なので、ここでは……? と不安が先立つのも、また事実でした。しかし、これも名演! ウルトラ級の哀愁と押さえた激情の吐露♪ 個人的には甲乙つけがたいところです。とにかく聴いて欲しいとしか、言えません。ラス・フリーマンも快演です♪
B-4 I'll Remember April
オーラスはモダンジャズでは定番のスタンダードがアップテンポで演じられます。イントロは、これまたモード味になっていますが、そこで思わせぶりを演じたアート・ペッパーが颯爽とテーマ吹奏に滑り込んでいく瞬間が、まず快感です♪
そして瞬間芸のブレイクからアドリブ・パートに入っては、スピード感と独自のタメを活かした素晴らしいフレーズの連発です。しかも若干、今風というか、モードがかった新しい部分も入れ込んで、それをイヤミ無く溶け込ませた躍動的なところが、これまた快感になっています。これぞ当にアート・ペッパーの真髄です。
リズム隊も絶好調で、大団円ではドラムスとの対決が用意されていますが、どうしてもアート・ペッパーの凄さに太刀打ち出来ていません。あぁ、聴くたびに感動してしまうこの演奏は、最後にはモードの海に沈みながら消えていくのでした。
というこのアルバムは、当時猛威を振るっていたフュージョンをぶっ飛ばすほどの勢いがありました。ジャズ喫茶でも堂々のリクエスト第1位だったと思います。そしてアート・ペッパーはこれを境にして往年の旋律性を取り戻し、新境地に臨みつつ晩年を過ごしていくのです。
その意味でも、このアルバムは名盤となっていますが、これが日本人によって製作されたことは、なんとも嬉しいことです。