ここ数日、実はビートルズばかり聴いています。それはようやく発売になるアメリカ盤復刻CD第2弾について書くために、いろいろと聞き比べをしているからで、楽しいのをとおり越して、けっこう苦痛の瞬間もあるのですが、やっぱりビートルズは凄いです。
それは強烈なオリジナリティと汎用度の高さが共存しているところで、誰がどんな風に演じても、絶対にオリジナルを越えられないのですが、反面、そのカバー・バージョンにも魅力的なものが多々あるという素晴らしさです。で、これもそのひとつ――
■I Want To Hold Your Hand / Grant Green (Blue Note)
1964年に全米、否、世界を飲み込んだビートルズには、常にヒップな音楽としてのモダンジャズも無抵抗ではいられませんでした。つまり忽ちジャズ・バージョンのカバーが次々に演奏・録音されていったのですが、このアルバムもそのひとつです。もっとも、ビートルズ・ナンバーはタイトル曲だけですが♪
メンバーはハンク・モブレー(ts)、グラント・グリーン(g)、ラリー・ヤング(org)、エルビン・ジョーンズ(ds) という、硬軟とりまぜた不思議な顔合わせ! 録音は1965年3月31日です。
A-1 I Want To Hold Your Hand / 抱きしめたい
ご存知、ビートルズか世界を制覇するきっかけとなった大名曲にブルーノートの看板ジャズメンが挑戦したというだけで、ジャズ者ならば不安とバカらしさを抱きつつも、聴いてみたいという心境でしょうか?
で、その内容は、完全にボサノバ調にアレンジされたラウンジ系の仕上がりになっています。特にラリー・ヤングのオルガンが、何時もとは逆に涼しいこと♪ グラント・グリーンのギターも黒さを押さえて、淡々とメロディをフェイクしていくテーマ処理がたまりません。
しかしアドリブ・パートでは何時ものペースを取り戻しますが、何となくウェス・モンゴメリーやジョージ・ベンソンのフレーズが出てくる瞬間があり、それゆえに楽しくなってしまいます。またハンク・モブレーがイナタイ雰囲気で、独特の歌心を聞かせてくれるので憎めません。
おまけに聞き逃せないのが、エルビン・ジョーンズの重量感溢れるドラムスです。ボサ・ビートをさらにポリリズムに変換していくあたりは、ひとりジャズ魂を守り抜く根性の表れでしょうか。
A-2 Speak Low
モダンジャズでは定番のスタンダードを、ここではなかなか硬派のハードバップとして演奏しています。その原動力はエルビン・ジョーンズの白熱のドラムスで、それに煽られて、まずハンク・モブレーが絶好調のアドリブを聞かせれば、グラント・グリーンも負けじと快調に飛ばします。もちろんその中には、十八番の針飛びフレーズ、つまり執拗に同じ音を繰り返すところがあって、本当にジャズを聴いている雰囲気になります。
そして大団円はエルビンの大車輪ドラム・ソロ! 当に怒りの一撃という素晴らしさです。
A-3 Stella By Starlight
これもお馴染みのスタンダードを、ここでは伸びやかな雰囲気で演奏しています。ということは、もちろんハンク・モブレーが本領発揮! 独特の「間」を存分に活かした和みのソロを聞かせてくれます。
B-1 Corcovado
当時もうひとつのブームだったボサノバの名曲に挑んだ演奏ですが、意外なほど洒落た雰囲気が横溢しています。それはラリー・ヤングのオルガンのセンスの良さ、ハンク・モブレーの溢れるソフトな歌心がポイントでしょう。またグラント・グリーンもギラギラした感覚と冷めた情熱を上手くちりばめて、絶妙なアドリブ・ソロを展開しています。途中で一瞬、変態コード弾きというか、擬似オクターブ奏法を披露する場面もあります♪
B-2 This Could Be The Start Of Something
スタンダードの隠れ人気曲で、私は好きです。ここでは快適なミディアム・テンポでスマートにテーマを提示、そこではエルビン・ジョーンズのブラシがサクサクと気持ち良いかぎりです。
そして流れるようにアドリブに入るグラント・グリーンが、このアルバムでは一番本領を発揮していると思いますが、それは黒いフレーズではなく、正統派ジャズ・ギタリストの本分というところです。
ちなみにここではハンク・モブレーが抜けているのが残念なところです。
B-3 At Long Last Love
これも隠れ人気があるスタンダード曲で、ギタリストが良く取上げるのは偶然でしょうか? ここでは穏やかなビートとノリでスタートしますが、アドリブ・パートでは徐々にハードバップに移行していくあたりが、如何にもブルーノートというレーベル・カラーを感じさせてくれます。
もちろん、その原動力はエルビン・ジョーンズのヘヴィなドラムスです。そしてハンク・モブレーは十八番のR&B色があるモタレのフレーズをたっぷりと繰り出して、最後はゴスペル風味まで漂わせたアドリブを展開していますし、ラストテーマでの合の手も最高です。
う~ん、それにしてもエルビン・ジョーンズはいいですねぇ♪
ということで、実はジャズ喫茶全盛期には鳴っていなかったのが、このアルバムでした。それが近年、なんとなく再発見されそうになっては消えていくという、典型的な聴かず嫌い盤の1枚として、ご紹介致しました。
ちなみに私は、もちろんハンク・モブレーの棚に入れています。
さあ、またビートルズに戻ろう……。