おぉ、今日はすんなり更新出来ました。原因は全く不明ですが、気分は良いですね♪
で、本日の1枚は――
■Walkin' / Miles Davis (Prestige)
ジャズ名盤選に必ず登場するアルバムですが、長い間、私にはいまひとつ、ピンッときませんでした。しかし、ある日突然というか、リズム隊中心に聴くようになってからは、おぉ、なんて素晴らしい演奏なんだろう! と虜になったのです。
そのリズム隊とはホレス・シルバー(p)、パーシー・ヒース(b)、ケニー・クラーク(ds) という、黒さと落ち着き、さらに独特のシンコペーションでグルーヴを生み出す面々です。ドラムスとベースは、名盤「ジャンゴ (Prestige)」を生み出した初期MJQのリズムコンビですし、ホレス・シルバーはアート・ブレイキー(ds) とのコンビで、当時バリバリ売り出していた俊英でした。
この「当時」というのは、ビバップがハードバップに変質発展していく、当にその時、黒人ジャズ復権の真っ只中という時期で、つまりこのアルバムの演奏が吹き込まれた1954年は、モダンジャズが大きな人気を獲得しようとしていた上昇期にあたるわけです。
で、ここには、その年の4月3日と4月29日に行われたセッションからの曲が収録されていますが、実はこの形態になる以前に2枚の10インチLPとして出されていたものを、あらためて再編集して、1957年に発売したものです。ただし、そこに1曲だけ、未発表だった、所謂ボーナストラックをつけたものになっています。
メンバーは既に述べたようにリズム隊が共通で、フロント陣がA面はマイルス・デイビス(tp)、J.J.ジョンソン(tb)、ラッキー・トンプソン(ts) で、録音が1954年4月29日、B面がマイルス・デイビス(tp)、デイヴ・シルドクラウト(as) で同年4月3日の録音になっています。
A-1 Walkin' (「Miles Davis All Star Sextet : Prestige 182」初出)
後年までマイルスが演奏し続けたブルースのオリジナル演奏がこれです。粘っこいフィーリングの迫力の合奏からスタートしますが、既にそのバックではリズム隊の3人がそれぞれバラバラにアクセントをつけ、ハードバッブ的なポリリズムを生み出しています。
アドリブ・パートの先発はもちろんマイルスが、「間」を活かした思わせぶりなスタイルを全開させて絶妙なブルース・フィーリングを披露し、続くJ.J.ジョンソンは超人的なテクニックで、これも落ち着いた上手い演奏に終始します。
しかしこのあたりが私には不満なところで、例えば同時代ならばクリフォード・ブラウン(tp) がアート・ブレイキー(ds) やマックス・ローチ(ds) と繰り広げていた熱くて黒っぽい演奏と比較すると、どうしてもストレートに楽しめないのですが、冒頭に述べたように、ここはリズム隊中心に聴いてみると、特にホレス・シルバーの絶妙な合の手と絡み、唯我独尊のパーシー・ヒースのベースワークが、実はそれまでのジャズと全く違うシンコペーションに満ちていて、そのフィーリングがフロント陣とリズム隊のどちらからともなく、新しいノリ、つまりハードバップのファンキー感覚を生み出していることに気がつくのです。
そしてそれが、続くラッキー・トンプソンの豪快なテナーサックス・ソロを大いに盛り上げ、その背後ではホーンのリフとリズムのキメが炸裂するクライマックスが現出されています。
さらに次のホレス・シルバーのアドリブ・パートでは、単純明快なピアノのフレーズが逆に奥深いファンキーさですから、大団円を導くマイルスの再度のアドリブが一層輝くのです。それはバンド全体で烈しく燃え上がるラストテーマ、特にケニー・クラークのドラムスが強烈に煽るリフの合奏が、当にハードバップしていることで明白になるのでした。
A-2 Blue 'n' Boogie (「Miles Davis All Star Sextet : Prestige 182」初出)
ビバップ時代からの定番ブルースが迫力のアップテンポで演奏されています。そしてここでもリズム隊は素晴らしく好調ですから、先発のマイルスも気持ち良くアドリブを展開させ、当時としては、なかなかバリバリに吹きまくっています。
続くJ.J.ジョンソンも、相変わらずのバカテクで飛ばしますが、やはりこの人は凄いとしか言えません。そしてその背後では、パーシー・ヒースがかなり思いきったウォーキング・ベースを披露しています。
演奏はこの後、お約束の中間リフを挟んでラッキー・トンプソンのタフ・テナーが大爆発しますが、その背後でマイルスとJ.J.ジョンソンがリズム隊と共同で、物凄いリフの追い討ちを掛け続けるのです。このあたりが、もう完全にハードバップの醍醐味です♪
さらにホレス・シルバーのピアノでは左手のゴンゴンいうコード弾きがド迫力! ソロ自体もリズミックで、ゴンゴンガンガン、イキまくりの快演です!
そして最後はテーマ・リフの乱れ打ちで、大団円が訪れるのです。
B-1 Solar (「Miles Davis Quintet : Prestige 185」初出)
ここからはフロントの相方がアルトサックスのデイヴ・シルドクラウトで、そのスタイルはリー・コニッツに近いものがある所為か、なかなかクールな演奏になっています。そしてそういうものならマイルスは十八番ですから、得意のミュートで絶妙な泣きを聞かせてくれます。
で、特筆したいのはリズム隊の軽やかなグルーヴで、その要はケニー・クラークのブラシです。しかしけっしてリズムが流れていないのは、やはりホレス・シルバーが要所で締めているからでしょう。
B-2 You Don't Know What Love Is (「Miles Davis Quintet : Prestige 185」初出)
有名スタンダードをミディアム・スローで演奏していますが、マイルスはもちろん十八番のミュートを一人舞台でジックリと聞かせてくれます。そしてその背後ではリズム隊が様々なパターンを駆使して、暗い情念とムード、ファンキーなノリを生み出しているのです。
B-3 Love Me Or Leave Me
このアルバムが初出となった演奏で、もちろんスタンダート曲ですが、アップテンポでハードバップに変換されています。リズム隊では、何と言ってもケニー・クラークのスピード感溢れるブラシとファンキーにゴンゴン迫ってくるホレス・シルバーのコード弾きが強烈です。
マイルスはここでも最初からミュートで鋭く斬り込んでいきますが、リズム隊にやや押され気味です。しかしそれが逆にカッコイイ! そしてブッ飛んでいるのがデイヴ・シルドクラウトのアルトサックスで、この人はこのセッションが一番有名ですが、そのクールで熱いスタイルは魅力的♪ チャーリー・パーカーとリー・コニッツの折中と言ってしまえばミもフタもないんですが、この時代ではかなり前衛だったのかもしれません。私は好きです。
ということで、最初に述べたようにマイルス中心に聴くとイマイチかもしれませんが、リズム隊を聴くという姿勢だと、これは物凄い演奏集だと思います。おそらくリアルタイムでこのアルバムに接したファンは、そのリズムとビートの新しさ、凄さに驚嘆されたのではないでしょうか!? それは実に羨ましい限りですが、実は今、この時でもそれはリアルに体験出来るという、不滅の名盤がこれっ! というわけです。