OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

ニューロック系ピアノトリオ盤

2006-03-30 18:37:24 | Weblog

この季節、去る人、来る人でちょっした宴会があり、気持ちも疲れています。そんな時には過激で耽美なこの1枚を――

Three Waves / Steve Kuhn Trio (Contact)

エバンス派、つまりビル・エバンス(p) の影響力の下にその才能を開花させたピアニストの中で、逸早く自己を確立したのがスティーヴ・キューンだと思います。

このアルバムはそれを立証した1966年録音の名作で、メンバーはスティーヴ・キューン(p)、スティーヴ・スワロー(b)、ピート・ラロッカ(ds) というトリオ編成です。

さてエバンス派のピアノトリオの持ち味といえば、やはりピアノ、ベース、ドラムスの3者による暗黙の了解的な絡みにあるわけですが、それが上手くいくか否かは、演奏途中で誰がその場を仕切るかが大きな要素になっています。つまりその場の空気を読めるかがポイントですから、そういう事は誰かの伴奏をやっていながら掴んでいくのが一番なのでしょう。この3人は当時、アート・ファーマー(tp) のバンドのリズム隊でしたので、息もピッタリ♪ 当にそういう修練を積んだツワモノというわけです。その内容は――

A-1 Ida Lupino
 不気味なベースの響きに導かれ、スティーヴ・キューンが妙な詩を口ずさみ、演奏がスタートします。このあたりはニューロックの影響でしょうか? そして曲調はちょっとキース・ジャレット風ですが、もちろんこちらがオリジナルというか、早いのです。ピート・ラロッカの擬似ロックビートが心地良い限り♪ ちなみに作曲は才女のカーラ・ブレイです。

A-2 Ah Moore
 これはモロにビル・エバンスしていますね♪ このあたりはジャズ者を妙に安心させる展開で、スティーヴ・キューンも素敵なアドリブ・メロディを随所に織込みながら、耽美派の真骨頂を聞かせてくれます。ベースとドラムスのビート感覚も最高です。

A-3 Today I Am A Man
 スティーヴ・キューンのオリジナル曲で、冒頭からアップテンポでガンガン行くドラムスとビンビン唸るベースの煽りにノセられ、作者本人のピアノが疾走します。ただしそれは隙間だらけで、そこに他に2人が入り込む余地を微妙に残していく展開が、トリオの一体感を高めているようです。あぁ、これがエバンス派ジャズピアノの奥義! 快感です。

A-4 Memory
 これもスティーヴ・キューンのオリジナル曲ですが、ジャズでもロックでも無い不思議な曲想がフリーな感覚に直結しているという、つまりジャズ者が一番好きな耽美な名演です。3分に満たない短い演奏ですが、奈落の底に引き込まれるような凄みがあります。

B-1 Why Did I Choose You ?
 ミッシェル・ルグランの名曲をボサ・ビートで優しく演じると見せかけて、実はその裏で元メロディを極美的に深化させていくトリオの凄さが堪能出来ます。これも短い演奏ですが、充分に納得させられるのでした。

B-2 Three Waves
 アルバム・タイトル曲は威勢の良いモードで処理されおり、これぞ1960年代後半というカッコ良さに溢れた演奏です。スティーヴ・キューンのピアノ・スタイルはかなり打楽器的な要素がいっぱいで、これはエバンス派とは言えませんが、そのハーモニー感覚は間違いなくビル・エバンス直系というあたりが、新感覚です♪ あぁ、何度聴いても興奮させられます。クライマックスのグワ~ンという盛り上がりが最高!

B-3 Never Let Me Go
 今やエバンス派ピアニストならば誰もが取上げる耽美な名曲ですが、その存在を世に知らしめたのが、この素晴らしいバージョンです。徹底してビートとメロディの絡みを追及した最後の最後で、テーマの美メロを一瞬だけ漂わせて締め括るという、ピアノトリオの極北の演奏が、これです。

B-4 Bits And Pieces
 いよいよクライマックスは、ガンガン、ビシビシぶっ飛ばす強烈な演奏です。それはピアノだけでなく、ドラムスの弾けっぷり、ベースのウネリ、トリオ3人の絡み全てにおいて本当にエキサイティングです! これがジャズの醍醐味♪ 黙って聴いて茫然自失! 演奏はいつしかフリーな展開に突入していきますが、けっしてデタラメで呆れるということはありません。必然の破壊というか、この突進力は若気の至りでは片付けられない恐ろしさに満ちています。

B-5 Kodpiece
 これも前曲の一部のような演奏の断片でしょうか、非常に短い音の炸裂があって、このアルバムの〆にしたという、ビートルズの名作アルバム「サージェント~」のラスト・インナー・グルーヴのような趣です。つまりこれも1960年代後半のノリというわけでした。

ということで、これはジャズ者ならずとも、ロックファンにも一度は聴いていただきたい名盤です。冒頭の思わせぶりな詩の朗読、ラストの音の断片というトータル性を持ったアルバム製作の方針は、当時のジャズでは珍しいほどロック寄りになっていると思います。

ちなにみこのアルバムは一般的には大ヒットしたというわけではありませんでしたが、ジャズ喫茶では特にB面がよく鳴っていました。

そしてCD時代になって好きな曲順で聴けるようになると、私は「A-2」を最初にセレクトし、B面4曲目まで聴いて「A-4」に戻すというワザを使って愛聴しています。つまり「2→5→6→7→8→4」というセレクトですね♪ CDを入手されている皆様は、一度お試し下さいませ。
  

コメント (2)
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