今日も残暑が猛烈で、それについて語る気も失せています。
永田町の先生方の中から救世主は現れるのでしょうか?
とりとめがないので、本日は――
■If You Could See Me Now / Kenny Drew (Steeple Chase)
1970年代に入ってジャズ喫茶の人気者となったのが、黒人ピアニストのケニー・ドリューでした。そのきっかけは欧州録音のリーダー盤「Dark Beauty (Steeple Chase)」で、その豪快にスイングするハードバップのピアノトリオ演奏は、フリーやモード、あるいは電化ジャズに毒されていた当時のジャズ喫茶を、グルーヴィな4ビートの世界に引き戻す働きをしたのです。
もちろんリアルタイムではクロスオーバーと称されていたフュージョンの大きなウネリを止めることは出来ませんでしたが、それに釣られてジャズを聴き出したファンさえも、確実にモダンジャズ本流の素晴らしさに目覚めさせた功績は、間違いなくあったと思います。
さて、このアルバムは前述の「Dark Beauty」と同じメンツで同日に吹き込まれていた音源ですから、内容の良さは保証付き!
録音は1974年5月21~22日、メンバーはケニー・ドリュー(p)、ニールス・ペデルセン(b)、アルバート・ヒース(ds) という人気トリオです――
A-1 In Your Own Sweet Way
デイブ・ブルーベック(p) のオリジナルというよりも、マイルス・デイビス(tp) の名演が記憶に焼き付いている和みの名曲ですから、その秘められた歌心を如何に表現するかという命題が厳しい演目だと思います。
しかしケニー・ドリュー以下、ここでのトリオは、さり気ないイントロからテンションの高いテーマ演奏、そして豪快にスイングしまくったアドリブパートという最高に美しい流れを堪能させてくれます。
些かバタバタしたアルバート・ヒースの重たいドラムスもジャズ喫茶の大音量システムでは快感に他ならず、当時は「軽い」と玄人から決めつけられていたニールス・ペデルセンのペースも、私のような素人には驚異の一言でした。実際、ここでのアドリブソロは猛烈な早弾きとメロディ感覚の冴えが絶妙のバランスで楽しめます。
肝心のケニー・ドリューは、もちろん十八番のダイナミックなノリ、綺麗なピアノタッチで好演♪
A-2 If You Could See Me Now
私が大好きな作曲家のタッド・ダメロンが書いたジャズ本流の名曲で、ピアノトリオではビル・エバンスの名演も残されていますが、このバージョンも捨て難い魅力に溢れています。このジンワリと染み入っていくるミディアムスローの和みの世界♪ とかにくトリオ3者の役割分担というか、絶妙の音楽的構成が素晴らしい限りで、こんなに凄いのに、ちっとも難しく聞こえないのが流石です。
さりげないのが良いのかなぁ~~♪
A-3 All Sousl Here
これが楽しいゴスペル&ジャズロックというか、ドカドカ煩いアルバート・ヒースのドラミングがあってこその快演でしょうね。もちろんケニー・ドリューは黒人らしいファンキーフレーズを出しまくりですが、ニールス・ペデルセンが、その2人を上手く中和させながらもジャズのツボを押さえたベースを聞かせてくれます。
A-4 I'm Old Fashioned
ちょいとシブイ選曲ながら、アップテンポの楽しいハードバップは嬉しい「お約束」です。テーマ部分からトリオの絡みは冴えまくりで、アルバート・ヒースのブラシ、ピアノとベースのユニゾンのキメが鮮やか過ぎます。
もちろんアドリブパートは痛快にして激しく、直線的に突っ走りながらもジャズという黒人音楽特有のウネリは、決して失われていません。あぁ、聴いているうちに、ついついボリュームを上げてしまいますねぇ~~♪
凄すぎるニールス・ペデルセンにも完全降伏させられますよ。
B-1 A Stranger In Paradise
本来はもっとゆったりとしたテンポで演奏されるべきスタンダード曲なんでしょうが、ここでは初っ端から飛ばしまくるトリオの勢いが怖いほどです。
その牽引役はニールス・ペデルセンでしょうか、とにかく一時も緩まないそのベースのグルーヴは驚異的で、思わず唸って、叫び出したくなるほどです。
そしてスティーヴ・ガッドのような、と言うよりも、実はこちらが本家でしょうね、そのアルバート・ヒースのバタバタに突進するドラムスも熱気満点ですから、ケニー・ドリューも飛び跳ねては転がる独特のピアノスタイルを存分に聞かせてくれます♪ もちろん歌心も最高ですよっ♪
B-2 Prelude To Kiss
デューク・エリントンが書いた優雅なメロディを甘く聞かせてくれるケニー・ドリュー♪
と、こう書くば後年の日本制作盤のように思われるかもしれませんが、あそこまで虫歯になりそうな雰囲気はありません。思わせぶりもほどほどに、このアルバムの中ではシブイ演奏ですが、幻想性とタイトなノリが上手くミックスされています。
真面目すぎてつまらない、と言えば、そのとおりですが……。
B-3 This Is The Moment
作者不詳とクレジットされていますが、演奏の雰囲気は同日セッションから前述の大ヒット盤「Dark Beauty」に収録された「It Could Happen To You」と似ています。
つまり勿体ぶったイントロからスローなテーマ変奏、そしてダイナミックな4ビートの楽しいノリまで上手く繋げていく、まさにこのトリオならではの演奏が楽しめるのです。
あぁ、それにしても中盤からのグイノリ、転がりまくるピアノにバタバタと潔くないアルバート・ヒースのドラムス♪ これが非常に心地よいかぎりですねぇ~~~♪♪~♪
もちろんニールス・ペデルセンのベースワークも快調そのもので、颯爽としたアドリブと躍動する4ビートウォーキングはジャズの醍醐味に溢れています。
B-4 Oleo
オーラスはソニー・ロリンズ(ts) が書いたハードバップの聖典曲を猛烈なスピードで演じきった凄くて怖い、このトリオの真髄が記録されています。
特にニールス・ペデルセンの全く乱れないベースは人間技を超越したウルトラテクニックというか、ピアノとドラムスがヤケクソ気味のところとは対照的な冷静さがイヤミ寸前です。
中盤で炸裂するアルバート・ヒースのドラムソロはハードロック!?
ということで、「Dark Beauty」とは兄弟関係のアルバムながら、ガイド本ではあまり紹介されることも無いようですし、ジャズ喫茶でも特に鳴りまくったという記憶がありません。
逆に言えば「Dark Beauty」があまりにも鮮烈な登場だったという事で、ジャズ喫茶では飽きるほど聞かされていたため、このアルバムが出た当時は二番煎じ……。というのがリアルタイムでの感慨でした。
しかしそれでも私は、ちゃんと買って聴いていたんですから、やっぱり魅力の虜になっていたわけで、今では「Dark Beauty」よりも聴く頻度は高いほどです。