OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

ケッセル&エリスの華麗な逆襲

2008-09-23 14:14:18 | Jazz

Poor Butterfly / Barney Kessel & Herb Ellis (Concord)

クロスオーバー~フュージョンの嵐が吹きまくった1970年代のジャズ界では、しかし往年の4ビートスイングに拘ったレーベルが、しぶとく制作を続けていた事を今も忘れていません。

例えばアメリカ西海岸を本拠地にしていた「コンコード」は、モダンスイングというか、リラックスしたモダンジャズの素敵なアルバムをどっさり発売しています。

特にその初期にはギターをメインに据えた作品が多く、これはレーベルオーナーの趣味もあるのかもしれませんが、同時期のフュージョンがラリー・カールトンやりー・リトナー、エリック・ゲイルやアル・ディメオラ、さらにジョン・マクラフリンやラリー・コリエル、そしてジョージ・ベンソン等々の花形ギタリストをウリにしていた姿勢と、結果的に上手くリンクして対比出来るアルバムが作られたのは僥倖でした。

さて、このアルバムはバーニー・ケッセルとハーブ・エリスという、ともにモダンジャズ全盛期から活躍してきたベテランギタリストの共演盤♪ 丁々発止のやりとりから協調性が見事な演奏まで、流石の名演がたっぷりと楽しめます。

録音は1976年、メンバーはバーニー・ケッセル(g)、ハーブ・エリス(g)、モンティ・バドウィッグ(b)、ジェイク・ハナ(ds) というカルテット編成です――

A-1 Dearly Beloved
 快適なテンポで演じられるスタンダードの隠れ名曲で、2人のギタリストによるスピード感溢れる個性の激突が興奮を煽ります。左チャンネルがハーブ・エリス、右チャンネルがバーニー・ケッセル、そして真ん中からドラムス&ペースというステレオミックスにも安心感がありますねぇ~。
 こういう基本を大切にした姿勢こそが「コンコード」というレーベルが当時、多くのジャズ者から支持されていた理由のひとつでしょう。まあ、ちょっとひっかかるのが、如何にも電気増幅致しましたというベースの響きなんですが、これは1970年代の流行でしたから……。
 肝心のギター対決は、あまり上手くいっていないテーマアンサンブル、調子がイマイチのバーニー・ケッセルというところから、先が思いやられる感じですが、ハーブ・エリスはノリノリの快演ですし、バーニー・ケッセルにしても独特の「音の端折り」が、やっぱり魅力的なのでした。 

A-2 Monsieur Armand
 些か気負いが目立った前曲から一転、和みとスイング感に満ちた名演で、テーマアンサンブルの絶妙さ、パッキングの上手さが光るバーニー・ケッセル、それに負けじとアドリブが熱いハーブ・エリスという対比が流石だと思います。
 もちろんその逆もまた真なり! 十八番のフレーズを出し惜しみしないバーニー・ケッセルのノリは、本当に独特ですねぇ~♪

A-3 Poor Butterfly
 アルバムタイトル曲は、ちょいと古いスタンダードで、サラ・ヴォーンの名唱は有名ですが、インストならば、このバージョンが代表になるかもしれません。
 しっとりとした情感を上手く表現していく2人の名人ギタリストは、お互いのアドリブソロよりも伴奏のパート、そしてアンサンブルで真価を発揮するという、抜群の技量と懐の深さを披露しています。

A-4 Make Someone Happy
 これも良く知られたメロディが魅力のスタンダード曲を素材に、和みとジャズのスリルを堪能させてくれる名演♪ 個人的には、このアルバムの中で一番好きなトラックです。
 イントロからテーマのリードを最高のメロディフェイクで聞かせるハーブ・エリス、それを受け継いで素晴らしいアドリブを展開するバーニー・ケッセル! グルーヴィでリラックスしたリズム隊の存在も確実性が高いと思います。
 あぁ、それにしても歌いまくりのバーニー・ケッセル♪ 絶妙の合の手を入れるハーブ・エリス♪ この2人は共に前後してオスカー・ピーターソンのトリオではレギュラーを務めていたという、つまりは似た資質があるわけですが、カントリーや白人ブルースのフレーズとノリを意図的に用いるハーブ・エリスに対し、ジャズの保守本流に拘りながらコード弾きや低音域を複合的に使うバーニー・ケッセルという、お互いの異なる個性が実はひとつのルーツに収斂していく、ここでのそんな感じが私は大好きなのでした。

B-1 Early Autumn
 スタン・ゲッツが畢生の名演を残したウディ・ハーマン楽団のヒット曲ですから、そういうソフトでお洒落、幻想と豊かな情感を2人のギタリストがどのように表現しているかが、大いに楽しみな演奏です。
 そして結論は、これでいいのだっ!
 ゆったりしたテンポ、奥行きのあるリズム&ビートを基本に、息の合ったギターアンサンブルとアドリブパートのバランスが絶妙です。淡々とした中に、余人の入り込むスキなんて、有りはしないのです。この、ホンワカした音色の妙♪

B-2 Hello
 アップテンポで演じられるハーブ・エリスのオリジナル曲ですから、作者本人がいきなりの大ハッスル! ちょいとメリハリの効きすぎたドラムスが賛否両論かもしれませんが、負けじと飛ばすバーニー・ケッセルには苦笑いが出てしまいます。
 いゃ~、これこそがジャズの醍醐味というか、何時までも若さを失ってはいけませんねっ。

B-3 Blueberry Hill
 ニューオリンズ系R&Bスタイルで大ヒットしたファッツ・ドミノのボーカルバージョンが一番有名だろうという、お馴染みのメロディが心地良い快演です。
 実際、何とも言えない和みが横溢したテーマアンサンブル、原曲メロディを巧みに活かしたアドリブパートの旨み、楽しさがいっぱいの伴奏♪ ベンチャーズあたりにも通じるエレキインストっぽい仕上がりが憎めないのでした。

B-4 I'm A Lover
 如何にもジャズっぽい歌謡曲みたいなハーブ・エリスのオリジナルで、もうテーマを聴いているだけで満足してしまいます。このジンワリしたグルーヴは、しかしジャズ以外の何物ではありません。
 アドリブパートでもバーニー・ケッセルが十八番のコード弾きとチョーキングも絶妙に入れた素晴らしいフレーズを連発♪ ハーブ・エリスも作者の強みを活かした「泣き」の美メロを存分に聞かせてくれます。
 それゆえにベースソロが、ちょっと違和感……。

B-4 Brigitte
 オーラスはどこかで聞いたことのあるような、フォークロックみたいな素敵なメロディ♪ 初っ端からハーブ・エリスがオクターヴ奏法も使いながら、抜群のフェイクとアドリブを披露しています。ワルツビートの伴奏にも和みますねぇ~♪
 もちろんバーニー・ケッセルも素晴らしく、このグルーヴィなノリは名人というよりも、完全に「味」の世界でしょう。
 大団円に繋がるギターアンサンプルとベースの絡みも絶妙のスパイスとなって、またまた素敵なラストテーマのメロディに胸キュンの演奏なのでした。

ということで、ギターアルバムとしてはフュージョン全盛期に発売されたがゆえに地味な評価に甘んじた感もありますが、私は当時から密かに愛聴している1枚です。

リラックスしているようで、実は難しすぎるフレーズと奏法を楽々と弾きまくる2人のギタリストは、やはり名人としか言えません。このあたりは少しばかりギターに触っている私だけの感想かもしれませんが、ギターテクニックとかアンプや使用機材の云々について、様々に推察してしまう雑念は余計な御世話というところでしょう。

コメント
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