今日も仕事だ、休めなかった……。
なんか虚しい気分は、これで解消です――
■Shoutin' / Don Wilkerson (Blue Note)
ジャズのバンドでは特にレギュラーとも言うべきリズム隊が人気を集めるケースが、多々あります。例えばカウント・ベイシー楽団ならばフレディ・グリーン(g) を要とした「オールアメリカン・リズムセクション」とか、マイルス・デイビスのクインテットではレッド・ガーランド(p)、ポール・チェンバース(b)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(ds) の「ザ・リズムセクション」とか、枚挙に暇がありません。
そうした中で私が特に好きな3人組がグラント・グリーン(g)、ジョン・パットン(org)、ベン・ディクソン(ds) という、イケイケ&コテコテのリズム隊で、彼等は1960年代前半のある時期に名門ブルーノートの看板とまではいきませんが、それなりに大きな働きをした録音を集中的に残しています。
本日の1枚は、まさに私がグッとシビレる彼等の魅力が堪能出来るアルバムで、録音は1963年7月29日、メンバーはドン・ウィルカーソン(ts)、グラント・グリーン(g)、ジョン・パットン(org)、ベン・ディクソン(ds) というファンキーで土の香りが充満した名演集になっています――
A-1 Movin' Out
と、ノッケからリズム隊の事ばかり書いてしまいましたが、本盤の主役は黒人テナーサックス奏者のドン・ウィルカーソンで、この人はレイ・チャールズのバンドレギュラーから独立してジャズ~
R&Bの世界で活躍していた名手です。そしてモダンジャズの最前線に登場したのはキャノンボール・アダレイ(as) の推薦によってリバーサイドにリーダー盤「Texas Twister」を吹き込んだ1960年頃からでしょう。なんと言っても、その野太いファンキー感覚が大きな魅力です。
そしてブルーノートに移籍してからは、よりジャズ色を強めながらも、持前の所謂テキサステナーの奥義を披露する3枚のリーダー盤を吹き込み、これはその最後のアルバムというわけですが、いずれも密度の濃い仕上がりになっています。
さて肝心の演奏は、このド頭の楽しくトボケたファンキー節の連発で、いきなりの高得点♪ グラント・グリーンの合の手リズムギター、ブギウギ調のサビで躍動するジョン・パットンのオルガン、そしてゴスペルっぽい残響音が特徴的なペン・ディクソンのドラムスは、タンバリンようなオカズも痛快なシンバルワークも鮮やかです。
もちろんドン・ウィルカーソンのテナーサックスも分かり易く、そして熱っぽく歌いまくりですし、リズム隊との相性も抜群だと思います。ジョン・パットンのオルガンも冴えたアドリブというか、分かり易くて、実に良い雰囲気なのですが、それゆえにフュージョンが流行る以前のジャズ喫茶では忌嫌われたという……。
A-2 Cookin' With Clarence
豪快な4ビートが冴えまくったアップテンポのブルースですから、ドン・ウィルカーソンも大ハッスル! リズム隊も強靭な正統派グルーヴを聞かせてくれます。特にジョン・パットンのフットペダルによるウォーキングが凄いですねぇ~♪ グラント・グリーンの半畳的なリズムギターも楽しいところですが、もちろん単音弾きのアドリブも薬籠中の名演だと思います。
う~ん、それにしてもバンドの一体感は素晴らし過ぎます♪ ペン・ディクソンは我が国では全く評価されていないようですが、正統派のドラミングも全く上手いです。
A-3 Easy Living
一転して有名スタンダードのスローな演奏ということで、ドン・ウィルカーソンがキャバレーモードに浸りきった名演を聞かせてくれます。ジョン・パットンの営業っぽいオルガン伴奏も味わい深いですねぇ~♪ 前曲までのイケイケがイナタイ雰囲気に変質していて、グッときます。
しかしもちろん主役はドン・ウィルカーソンの黒いサブトーンが心に染み入るテナーサックスです。この柔らかい音色は絶品で、ソフトな黒っぽさという、全ての黒人音楽に共通の魅力が堪能出来ますよ。
ラストテーマでは忍び泣きっぽい高音域を使った名人芸を披露して、流石です!
B-1 Happy Johnny
これがまた、最高にカッコイイ、強烈にテンションの高いモダンジャズの決定版! アップテンポで弾ける演奏はモード手法も入っている感じですが、そんな事は気にする暇もなく、豪快にドライヴしまくるバンドの勢いがアブナイほどです。
ジョン・パットンは相変わらず威勢の良いアドリブと伴奏のキメも鮮やかですし、グラント・グリーンのギターソロは時間の短さが残念なほどですが、ペン・ディクソンの大暴れには溜飲が下がります。
テーマ部分のアンサンブルが特に痛快!
B-2 Blurs For J
このメンバーならではの粘っこいスロ~ブル~スの世界です。あぁ、このモタれて黒い雰囲気にシビレが止まりません。特にドン・ウィルカーソンのソフト&ハードボイルドな表現力と泣き節には脱帽で、特に終盤からラストテーマへの解釈あたりは、最高すぎて絶句ですし、寄り添うように忍び泣くオルガンも良い感じ♪
そしてグラント・グリーンが十八番の分野とあって、本当にたまらないギターソロを聞かせてくれますよっ♪ これぞモダンジャズのブル~スっていう真髄だと思います。
B-3 Sweet Cake
オーラスはこれまでの流れの中では些かテンションが低い雰囲気も漂いますが、アルバムのラストという位置を鑑みれば、この和んで気だるい演奏も捨て難い魅力があります。
この、絶妙に脱力したグルーヴも黒人音楽ならではというジャズ&ソウルの真髄なんでしょうねぇ、きっと。ジョン・パットンの場違いなハッスルが微笑ましい部分さえありますから。
ということで、既に述べたとおり、ジャズ喫茶全盛期の我が国では完全に無視されていたアルバムです。しかし廃盤屋では、それなりに良い値段が付いていたという隠れ人気盤でした。おそらくプレス枚数が少なかったのかもしれません。
というのもリーダーのドン・ウィルカーソンは、このセッションからしばらく後に悪いクスリで塀の中……。以降の消息を私は知りません。
そしてパットン、ディクソン&グリーンという驚異のリズム隊も、これが公式レコーディングでは、ほとんど最後の顔合わせじゃないでしょうか?
それゆえに一層の愛着が私にはあるのでした。