OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

マリガン&ベイカーの潔さ

2008-09-08 14:49:10 | Jazz

相撲協会の潔くない態度も今日で終止符!? そうあって欲しいと願っています。国技ですから……。

ということで、本日は――

Gerry Mulligan Quartet (Pacific Jazz)

ロックンロール以前、最高にヒップな音楽だったのがモダンジャズ! もちろんロックンロールが白人向けにアク抜きした黒人R&Bだったように、広く一般大衆に受け入れられたのは所謂ウエストコートジャズという白人御用達のスタイルです。つまり当時のアメリカでは白人に受け入れられなければ、何事もメジャーになれない事情が当たり前でした。

しかしその白人ジャズがリアルな黒人の演奏より劣っていたかというえば、ある意味では「否」でしょう。例えばジェリー・マリガンとチェット・ベイカーが組んでいたカルテットが1950年代前半に残した演奏は、スマートな音楽性とアンニュイな雰囲気、そして躍動するピートが爽やかにして不良性を帯びた退廃を感じさせるという、奇跡的な素晴らしさになっています。

さて、本日の1枚は、それらの中から選りすぐりを名演を集めた所謂ベスト盤という趣のアルバムですが、それはリアルタイムで発売されていた演奏が決してLP用ではなく、SPという両面2曲入りの体裁が初出という事情によるものです。当然、演奏時間は1曲3分前後ですが、その完成度の高さは驚異的!

しかもこのアルバムにだけ入ってるテイクもあるという、マニア性の高さも憎いところです。

メンバーはチェット・ベイカー(tp)、ジェリー・マリガン(bs)、カーソン・スミス(ds)、チコ・ハミルトン(ds) というオリジナルカルテットで、曲によってはラリー・バンカー(ds) が交代で参加しています――

A-1 Frenesi (1952年10月15日録音 / SP盤:PJ602)
 聞けば納得、誰もが知っているラテンの名曲を爽やかに躍動するモダンジャズに焼き直した演奏です。しかし真っ向勝負の姿勢は潔いかぎり!
 ちなみにこの曲は発売レーベルのパシフィック創業2枚目のレコードであり、もちろん会社そのものがこのバンドを売り出すために設立された経緯からすれば、大ヒットは目論見どおりだったというわけですが、それにしても鮮やかな演奏は何度聴いても飽きません。
 軽快なメロディをヘヴィなバリトンと溌剌としたトランペットで絡みながら奏でるという自然発生的なアイディアは秀逸で、しかも緻密なアレンジとメンバー全員の音楽的センス&力量が完全に発揮された名演としか言えません。
 中でもバンド内では唯一の黒人というドラマーのチコ・ハミルトンが敲き出す千変万化のビートはシャープで粘っこく、明らかにジャズの本質を表現していると思います。

A-2 Night At The Turntable (1952年10月15日録音 / SP盤:PJ602)
 前掲「Frenesi」のカップリング曲と発売されたジェリー・マリガンのオリジナルで、快適なテンポの中に絶妙の退廃性が滲む、これも名演だと思います。なんとなく虚ろな気分が心地良く、それでいてスマートな感性が当時の白人にはウケたのでしょうね。

A-3 Lullaby Of The Leaves (1952年8月29日録音 / SP盤:PJ601)
 これがこのバンドのデビュー曲というか、最初に発売されたSP盤B面に収録されていたものです。もちろんパシフィック最初のレコードでもありますが、A面曲の「Bernie's Tune」が大ヒットとなった所為で、こちらもラジオやジュークボックスでは人気が高かったそうです。
 肝心の演奏は哀愁系スタンダードのメロディを大切にした展開で、緩やかで力強いノリと白人らしい、ちょっと退廃した雰囲気のバランスが、ここでも絶妙だと思います。
 終盤の倍テンポアレンジも凝っていて、憎めません。

A-4 Jeru (1953年4月27日録音 / 10インチ盤:PJLP5)
 これに先立つマイルス・デイビスの「クールの誕生」セッションでも演じられていたジェリー・マリガンのオリジナル曲で、このバンドの演奏としては10インチ盤「gerry mulligan quartet (PJLP5)」に収録が初出だと思います。
 演奏メンバーとしてはドラマーがラリー・バンカーに交替していますが、バンドの路線は些かの変更も無く、アップテンポで尚更に力強い爽快感がいっぱい♪ チェット・ベイカーのハスキーな音色のトランペットがバリトン・サックスに絡んでいく美しき流れ、それを受け止めて流麗なバンドアンサンブルをリードしていくジェリー・マリガンの上手さと歌心♪ 最高ですねっ♪

A-5 Cherry (1953年2月24日録音 / SP盤:PJ611)
 これまた、ちょっとせつないメロディが実に素敵な演奏です♪ ミディアムテンポのビートが本当に気持ち良く、美女と2人で緩やかにダンスを踊りたくなるような♪♪~♪
 しかしジェリー・マリガンのアドリブは、かなりアグレッシブというコントラストも凄いですねぇ。

A-6 Seinghouse (1953年4月27日録音 / 12インチ盤テイク)
 ジェリー・マリガンのオリジナルで、曲としての初出は前述した10インチ盤「gerry mulligan quartet (PJLP5)」だと思われますが、ここでは新たに別テイクが収録されるという罪作り! なにしろ私がこのアルバムを入手した1970年代には、そのオリジナル10インチ盤は高嶺の花というか、入手はなかなか困難でした……。
 しかしこの演奏が気に入っていた私は聴かずにはいられず、八方手を尽くした艱難辛苦も、今では懐かしい思い出です。
 肝心の演奏はアップテンポでアンサンブルも見事の一言! もちろんアドリブパートも秀逸ですから、まさにこのバンドの全盛期の勢いが存分に楽しめるのでした。
 最後のパートにはバンドテーマみたいな短い演奏がオマケに入っているのも、楽しいところです。

B-1 I May Be Wrong (1953年4月30日録音 / 12インチ盤テイク)
 これまた前述の「Seinghouse」と同様、10インチ盤「gerry mulligan quartet (PJLP5)」に収録された演奏とは別のテイクが、このアルバムに用いられました。既に述べたように、その10インチ盤が入手困難な現在、こちらの方が馴染みのある演奏かもしれません。このあたりはCDの再発状況も気になるところですが、未確認なのでご容赦願います。
 演奏そのものは快適なテンポで安定感のある名演♪ ラリー・バンカーのブラシ、カーソン・スミスのウォーキングベースも楽しい限りです。

B-2 Aren't You Glad You're You (1952年10月15日録音 / SP盤:PJ607)
 あまり有名ではないスタンダード曲ながら、この軽妙洒脱なアレンジとアンサンブルは絶品で、私なんか長らく、ジェリー・マリガンのオリジナルだと思っていたほどです。
 このあたりはピアノ抜きのバンドという、当時としては特殊な構成の面白さが存分に楽しめるのでした。

B-3 I'm Beginning To See The Light (1953年4月30日録音 / 12インチ盤テイク)
 またまた10インチ盤「gerry mulligan quartet (PJLP5)」に収録された同曲とは別なテイクが登場! これははっきり言うと、個人的にはこちらの方が好きですね。僅かですがテンポが速くなり、メリハリの効いた演奏に感じられます。
 というか、こちらに耳が馴染んでいたので、10インチ盤のテイクがヌルイ雰囲気に聞こえたのですが、演奏の質はどちらも秀逸ですので、十人十色の感想でしょうか……。
 最終パートのデキシーアレンジも楽しさの極み♪

B-4 The Nearness Of You (1953年4月30日録音 / 10インチ盤:PJLP5)
 人気スタンダードのバラード演奏ですから、ジェリー・マリガンとチェット・ベイカーという天才の歌心が、じっくりと味わえます。実は2人とも、ほとんどオリジナルメロディの変奏に徹しているだけなんですが、そこにジャズそのもののリアルな緊張感が滲み出て、しかも心底、和みますねぇ~~~♪

B-5 Makin' Whoopee (1953年2月24日録音 / SP盤:PJ611)
 なんとも気だるい休日の昼下がり、ビールでも飲んでウダウダやっている時のような演奏です。ダラけた気持ち良さというか、こういう感性って、黒人ジャズには求められないものだと思います。
 というか、生活感覚の違いなんでしょうね。これが1950年代初頭の西海岸ということでしょう。強いアメリカ、威張っていた白人……。

B-6 Tee For Two (1953年4月30日録音 / 10インチ盤:PJLP5)
 これも楽しいスタンダード曲を爽やかなアンサンブルで聴かせてくれる、このバンドの典型的な演奏です。メンバー全員の息の合い方が絶妙なんですねぇ~~♪
 しかし悲しいかな、バンドが人気絶頂になるのと反比例するように、メンバー間には様々な確執が表面化したようで、ほどなくバンドは解散……。というか、ジェリー・マリガンが悪いクスリで逮捕され、チェット・ベイカーはラス・フリーマン(p) と新しいバンドを結成しますが、その後はご存じのとおり……。
 その意味で、このバンドの演奏記録こそ、チェット・ベイカーはもちろんの事、ウエストコーストジャズ最良の瞬間が楽しめる聖典かもしれません。

ということで、これは名演ばかりが集められた素敵なアルバムです。おそらく発売された時には前述の事情から、バンドの実態は無くなっていたと思われますが、レコード産業の発展ともにその仕様もSPからLP、それも10インチから12インチと盤のサイズも変わっていった時期に編集されたアルバムとしては、最良の1枚かもしれません。

まあ、欲を言えば記念すべきデビューヒットの「Bernie's Tune」が入っていないことも残念ですが、片面毎の曲の流れも最高ですし、気楽に聴いて疲れないところは名盤の証明だと思います。

コメント
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