■Up With Donald Byrd (Verve)
私にとってのドナルド・バードは、バリバリのハードバッパーであり、楽しいジャズをやってくれる人に他なりませんが、ジャズ雑誌やレコードの付属解説書を読んでいくうちに、ドナルド・バードは「知性派」とか「大学で博士号」なんていうことが強調されているんですねぇ……。
う~ん、わからん……。
だってドナルド・バードはファンキーやって、その挙句、1970年代にはファンクのメガヒット盤「Black Byrd (Blue Note)」まで出していますし、そこに至る1960年代中頃からの路程にしてもジャズロック~ソウルジャズの演奏を多数残していますからねぇ~♪
尤も、そこが我が国のジャズ喫茶じゃ、ほとんど無視状態なんですけど……。
さて、本日の1枚は私が愛聴して止まないアルバムで、中身は女性コーラス隊も従えた楽しい、楽しすぎる快楽盤♪ まあ、イノセントなジャズファンからしたら、ドC調極まりない演奏かもしれませんが……。
録音は1964年11&12月、メンバーはドナルド・バード(tp,arr) 以下、ハービー・ハンコック(p,key,arr)、ケニー・バレル(g)、ボブ・クランショウ(b)、ロン・カーター(b)、グラディ・テイト(ds)、キャンディド(per)、ジミー・ヒース(ts)、スタンリー・タレンタイン(ts) 等々が入り乱れ♪ そして「ザ・ドナルド・バード・シンガーズ」と称された女性コーラス隊、さらにアレンジャーとしてクラウス・オガーマンの参加も嬉しいところです――
A-1 Blind Man, Blind Man (1964年11月録音 / クラウス・オガーマン編曲)
ハービー・ハンコックが自らのリーダー盤(Blue Note)にタイトル曲として発表していた典型的なジャズロック♪ もちろんそこにはドナルド・バードが参加していたという因縁は言わずもがな、このバージョンは、あのグルーヴィなリズムパターンにテーマメロディが女性コーラス隊のスキャットという、イカシたアレンジと演奏がたまりません。
この「トュ~リテュ、テュ~」という、絶妙に脱力したコーラスが実に良いんですねぇ~。シンプルなフレーズに徹するドナルド・バードのトランペットも、それなりの味わいですが、ケニー・バレルのカッコイイ小技、3分に満たない演奏時間が大きな魅力でもあります。聴けば、ヤミツキ♪♪~♪
ちなみにアルバムはステレオミックスですが、シングルカットのバージョンは当然、モノラルミックスが潔い感じです。
A-2 Boom, Boom (1964年11月録音 / クラウス・オガーマン編曲)
これまたご存じ、黒人ブルースマンのジョン・リー・フッカーの代表曲にして元祖ブルースロックとも言うべき、一度聞いたら納得のメロディとブンブンブンのビートが楽しい演奏です。
もちろんテーマは女性コーラス隊によって脱力気味に歌われ、ケニー・バレルが凄い名演を披露しています。これも、本当にカッコ良いですよっ!
A-3 House Of The Rising Sun (1964年11月録音 / クラウス・オガーマン編曲)
邦題「朝日のあたる家」として、あまりにも有名な曲ですが、このアルバムが吹き込まれた1964年といえば、イギリスから多くのロックバンドがアメリカに殴りこんだ英国産ビートポップスの大ブーム期で、この曲も本来は古いアメリカの黒人民謡だったと言われているものの、やはり英国のアニマルズが強烈なR&Bロックにアレンジしたバージョンが大ヒット!
ですからここに取り上げられるのもムベなるかな、しかしドナルド・バード以下のバンドは決して一筋縄ではいかない演奏を聞かせてくれます。決して「歌のない歌謡曲」になっていないんですねぇ。
ドナルド・バードのアドリブはシンプルにして分かり易く、しかしリズム隊がコクのあってシャープな伴奏をつけていますし、ここでも女性コーラス隊が良い仕事♪ 完全に日活ハードボイルドな世界がなんともたまらない雰囲気で、まるで長谷部安春監督が撮るモノクロ映像って感じです。
A-4 See See Rider (1964年11月録音 / クラウス・オガーマン編曲)
これも有名なR&Bのスタンダード曲ですから、女性コーラス隊も良い感じでノリノリ、ケニー・バレルのカントリー&ソウルなギターが鳴りわたり、グラディ・テイトの楽しいドラミング、そして簡単明瞭なドナルド・バードが潔いです。
まあ、それゆえにこのアルバムは軽視されるんですが……。
A-5 Cantalope Island (1964年12月6日録音 / ハービー・ハンコック編曲)
おそらく今日のジャズファンというよりも、クラブ系の音が好きな皆様にとっては、これがお目当ての演奏でしょう。そしてご安心ください、完全にその手の期待を裏切らないグルーヴィで雰囲気満点の仕上がりです。
もちろんここでもコーラス隊が絶妙のスパイスになっていますし、中間部では短いながらもキマッたスタンリー・タレンタインのテナーサックスが聞かれます。
B-1 Bossa (1964年12月6日録音 / ドナルド・バード編曲)
そのズバリの曲タイトルが嬉しいボサロック♪
このアルバムの中では最も長い、8分近い演奏で、スタンリー・タレンタインのタフテナー、リズム隊のチャカポコグルーヴも実に楽しく、ドナルド・バードも気負いの無い好演だと思います。
ただし同時期のブルーノート制作による趣向と比べると、お気楽度が高く、それゆえにケニー・バレルやハービー・ハンコックの存在が眩しく輝くのでした。
正直に告白すれば、聞いているうちにキャノンボール・アダレイ(as) が聴きたくなりますよ。
B-2 Sometims I Feel Like A Motherless Child (1964年12月6日録音 / ドナルド・バード編曲)
邦題が「時には母のない子のように」とはいっても、カルメン・マキじゃなくて、これも黒人霊歌を元ネタにしたソウルジャズです。ソフトにジンワリと歌うコーラス隊、そこにハービー・ハンコックが最高の伴奏、さらにドナルド・バードの丁寧なトランペットがあって、実に雰囲気が盛り上がります。
ちなみにこのセッション全体をプロデュースしたのは、あのクリード・テイラーですからねぇ~♪ さもありなんと言えばそれまでですが、単なるムードジャズには陥っていないと思います。
B-3 You've Been Talkin' `bout Me Baby (1964年11月録音 / クラウス・オガーマン編曲)
なんとも下世話なコーラス隊の歌いっぷり、ハービー・ハンコックのヤクザな伴奏もイカシたジュークボックス用の演奏です。実際、この曲はシングルカットされて、それなりにヒットしていたそうです。
ちなみに男性のハミングボーカルはドナルド・バードでしょうか? なにしろ演奏中には全然、トランペットの音が聞こえませんから……。
B-4 My BaBe (1964年11月録音 / クラウス・オガーマン編曲)
楽しいアルバムのラストを飾るに相応しいゴスペル系のジャズロック♪ ここでも女性コーラス隊が実に良い雰囲気で、この作品全体の成功は、そこにあると感じています。
鳴り続ける手拍子、ふっきれたようなリズム隊のグルーヴ、ホーンのアレンジもシンプルでツボを外していません。
ということで、冒頭でも述べたとおり、我が国のジャズ喫茶では完全に無視されて当然の内容です。しかし私は、こういうのが本当に好きで、それは1960年代、あるいは昭和40年代の映画サントラに通じる演奏のキモが好きでたまらないからです。
それはジャズロックであり、ボサロック、あるいはソウルフルな歌謡曲の雰囲気でもあり、その下世話な感覚とグルーヴィなリズム&ビートが私の感性にジャストミートしているんですねぇ。
このあたりは少年時代から今に至るまで、全く変わらない私の本質で、周囲からは大いにバカにされていますが、まあ、リアルタイムから居直っていましたですね。
だから私は軽く見られているのですが……。
しかし全く懲りない私は、車の中でも聴くためにCDまで買ってしまったほどです。あぁ、愛おしい♪ 気分は日活ニューアクション♪