OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

チャーリー・パーカーを聴く

2008-10-08 12:27:10 | Jazz

Charlie Parker On Dial Vol.4 (Dial / Spotlite)

ジャズを聴き始めると必ず突き当たるのが、チャーリー・パーカーという偉大な山脈です。

とにかくジャズの歴史書やガイド本には必ず出てくる名前ですし、実際、ビバップと呼ばれた元祖モダンジャズを創成し、以降のジャズ演奏家は絶対にその影響力から逃れられないという神様ですから!

しかしそういう偉人であるにも関わらず、私が通い始めた1970年代のジャズ喫茶では、チャーリー・パーカーのレコードは鳴らないのです。それは結論からいうと、鳴らすべきレコードが無かったということなのですが……。

つまりチャーリー・パーカーがバリバリで活躍していた1940年代から、その死に至る1955年頃までの音楽は、SPという3分間前後の演奏しか収録出来ないメディアによって記録されていたのです。

当然ながら音質も一般的なレベルでは良いとは言えず、マスターの劣化によってチリチリバチバチのノイズが当たり前という世界でした。

さらにその天才性ゆえに、あらゆる音源が求められた結果、所謂海賊盤が尽きることなく出回り、加えてオリジナルマスター音源が契約の関係等もあって廃盤&散逸状態……。もちろん当時の諸事情から、きちんとアルバムを制作する企画もなく、これでは普通のジャズファンが聴こうとしても無理からん状況が続いていたのです。

ところが実際に聴いてみると、チャーリー・パーカーという天才のエネルギッシュなアドリブ、豊かで野太いアルトサックスの音、驚異的なリズム感、複雑でスリル満点のフレーズの妙、感情の起伏をストレートに表現する瞬間芸……、等々に圧倒されるのが最終到達地点です。しかしそこへ至る道は険しくも遠いのが、もうひとつの真実でした。

さて、そんな実情の中、私は当時のNHKラジオのジャズ番組でチャーリー・バーカーの特集を聴くことが出来ました。その解説をされたのが、先日の訃報も記憶に新しい、ジャズ評論家の大和明氏です。

それは非常に分かり易く、しかも要点に沿った代表的な名演を聞かせてくれたのですから、私のような者は大いに勉強になりました。というよりも、感動して薫陶をうけたというべきでしょう。そしてその中で、「ダイアル」というマイナーレーベルに残された音源が、その全盛期と言われている事を知ったのです。

しかし問題は、その演奏を聴くためのレコードの存在です。ちょうどその頃、イギリスの研究家が編纂したダイアル音源の集大成LPが6枚、輸入盤で売られていましたが、これが1枚三千円ほどしていましたし、国内盤は7枚組の箱物で定価も一万四千円だったと記憶していますから、とても……。

それでも青春の情熱というか、執念に突き動かされていた私は、なんとか中古でイギリス盤をまずは1枚入手して、それこそ修行のように聴いていた日々が確かにありました。

録音は1947年10月28日、メンバーはチャーリー・パーカー(as)、マイルス・デイビス(tp)、デューク・ジョーダン(p)、トミー・ポッター(b)、マックス・ローチ(ds) という黄金のレギュラークインテットです――

 A-1 Dexterity / D 1101-A
 A-2 Dexterity / D 1101-B (master) / SP1032
 A-3 Bongo Bop / D 1102-A (master) / SP1024
 A-4 Bongo Bop / D 1102-B / SP1024 (alt.)
 A-5 Dewey Square / D 1103-A / SP1056 = Air Conditioning
 A-6 Dewey Square / D 1103-B
 A-7 Dewey Square / D 1103-C (master) / SP1019
 B-1 Hymn / D 1104-A (master) / SP1056
 B-2 Hymn / D 1104-B = Superman
 B-3 Bird of Paradise / D 1105-A / SP1032 (alt.)
 B-4 Bird of Paradise / D 1105-B
 B-5 Bird of Paradise  / D 1105-C (master) / SP1032
 B-6 Embraceable You / D 1106-A / SP1024 (alt.)
 B-7 Embraceable You / D 1106-B (master) / SP1024

――という収録曲目からも分かるとおり、このアルバムの企画そのものはチャーリー・パーカーが同レーベルに残した音源を極力、纏めたものです。それはマトリックスと呼ばれる演奏録音毎に付された番号順による編集ですから、バンドがひとつの曲を完成させていく過程も興味深く、当然ながら未完成の演奏も含まれています。

しかしチャーリー・バーカーのような天才は、その全てに必ず聴きどころがありますから、鑑賞しようと気持ちを入れれば、後は自然に感動する時間が過ごせるのです。

ちなみに各演目の後ろにつけた記号はオリジナルSP、つまり初出のマスターテイクを示すために私が調べたものですが、なんと驚いたことに、複数の資料で重複するカタログ番号と演奏の違い! これは、どう解釈するべきなんでしょうか……?

ここでは「Bongo Bop」「Bird of Paradise」「Embraceable You」の3曲が、それに該当するのですが、おそらくSPの初回プレスとセカンドプレスでマスター音源が変えられたのは、意図的だったと思います。

それはプレス用スタンパーの劣化による事もあるでしょうが、チャーリー・パーカーの天才性に感銘を受けていたレーベル主催者のロス・ラッセルが、少しでも多くのテイク=アドリブを聴いて欲しいという熱意の表れかもしれません。

とにかくそれが後世のチャーリー・パーカー鑑賞&研究に面白みと混乱を招いたことは賛否両論! ダイアルレーベルで纏められたLPはもちろんの事、権利が移って他社から出されたアルバムでも徹底した編集は極めて僅かだったと思われます。

その中で、どうにかマスターテイクとされるものを集めたのは「Bird Symbols (Charlie Parler Records)」という、チャーリー・パーカーの未亡人のドリスが設立したレコード会社から、1960年代に入って発売されたアルバムが1枚、あるだけでした……。

肝心の演奏は、どれもモダンジャズの真髄といって過言ではないトラックばかりです。特にチャーリー・パーカーのアドリブは短い演奏時間の中に極力、自分の表現と強い意志を込めたもので、個人的感想では最初のテイクが一番、スリルとインスピレーションに溢れていると感じます。しかし他のバンドメンバーは些か纏まりが無かったり、ミスったり……。ですから完成マスターとされるのは、たいていは最後のテイクとなるのです。

まず「Dexterity」は、いきなり Take-A からチャーリー・パーカーが全開した猛烈アドリブ! 破綻寸前の緊張と緩和の極北に圧倒されます。そしてそれが Take-B になると絶妙の纏まりになっているんですねぇ~~♪ マイルス・デイビスも中庸の音色で、明らかに Take-B が優れていますし、溌剌としてグルーヴィなリズム隊も黒人らしいビート感に溢れています。

それは「Bongo Bop」にも継承され、微妙にラテンビートを混ぜこんだ、本当に黒っぽいリズム感が聞かれますから、チャーリー・パーカーのアドリブにもブルースとソウルがいっぱい♪ これは明らかに Take-A の方がインパクトが強いですから、マスターテイクになるのもムベなるかなです。しかし Take-B も捨て難い魅力がありますから、会社側が両テイクを発売したのも当然という感じです。それをこうして続けて聴ける幸せ♪ 大切にしたいですね。

続く「Dewey Square」はエキセントリックな黒人アングラ音楽とされていたビバップにしては和みのあるテーマメロディとグルーヴィなリズムが一体となった、これぞモダンジャズという曲です。実際、テイク毎に別アレンジがあったりして侮れません。もちろんチャーリー・パーカーは何れも完璧なアドリブですが、バンドの纏まりとしては、やはり最後の Take-C に軍配が上がります。マックス・ローチのシンバルワークとデューク・ジョーダンの好演も印象的♪

そして強烈なハイライトが「Hymn」です。いきなりスタートするチャーリー・パーカーの猛烈なアドリブ! まさに大嵐という、めくるめく世界は圧巻です。それがブチ切れ気味に終った直後に合奏される讃美歌みたいなテーマメロディも素敵ですねぇ。曲タイトルに偽り無しで、両テイクともにモダンジャズの宝物でしょうね。

しかし一転して和むのが「Bird of Paradise」で、一応はチャーリー・パーカーの作曲されていますが、明らかに有名スタンダード「All The Things You Are」の作り返しというか、モロに同じメロディがいやはやなんともです。しかしチャーリー・パーカーのフェイクの上手さは流石ですし、マイルス・デイビスも演奏テンポが緩い所為もあって、落ち着いた好演でミュートの魅力を聞かせてくれます。う~ん、それにしてもスタンダードを吹くチャーリー・パーカーも最高に素敵ですねっ♪

そのあたりの究極が「Embraceable You」で、なんとチャーリー・パーカーはお馴染みのテーマメロディを最初っからアドリブに変奏して最後まで吹ききってしまうのです。あぁ、この絶妙のせつなさと優しい雰囲気! 両テイクともに、何回聴いても感動して震えがくるほどです。もちろん今では歴史という最高のイントロを作った畢生のデューク・ジョーダン、シミジミとしたミュートの得意技を完成させつつあったマイルス・デイビスの味わい深さも印象的♪ 特に Take-B はチャーリー・パーカーというよりも、モダンジャズ至高の名演だと断言してしまいます。

ということで、かなり思い入ればっかりの文章になってしまいましたが、修行的な聴き方云々は別にして、やはり「ジャズを聴く」という喜びが、びっしり詰まった名演集だと思います。

CD時代の今日では、この中からマスターテイクだけを簡単に抽出して聴くことも出来ますから、疲れることもないはずですが、やはり気分によっては一気にセッション全体の雰囲気に浸るのも、また快感でしょう。

ちなみに録音は今日の水準からすれば稚拙かもしれませんが、その生々しい音の粒立ちはリアルな素晴らしさ! ダイアルというレーベルはもちろんインディーズでしたが、レコーディングには最新の技術を要求していたのでしょう。実に生々しい音作りだと感じます。

思えば当時の私は、「ジャズを聴く」というイノセントな行為に、それも素直に没頭出来た幸せな時期でした。それが時を経るにしたがってオリジナル盤がどうの、ジャケットがどうのと、物欲と執着の迷い道から泥沼に落ち込むジャズ地獄……。

そんな私は時々、このあたりのチャーリー・パーカーを聴ける盤を取り出しては救いを求め、懺悔するのでした。

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2 コメント

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こんにちは (bob)
2008-10-08 16:47:35
ダイヤル盤を集大成したのはたしかトニー・ウイリアムスでしたか、70年代にアル・ヘイグにレコーディングの機会を与えたのも彼でしたね。

パーカーを聴かずして、と意気込んだもののやはりこの箱ものは高価で手が出ませんでした。
したがって、バラ売りしていたSAVOY盤に先に接したのも当然の成り行きでした。
DIAL盤の最大の聴きどころは「LOVER MAN」と勝手に思いこんでいましたが、紹介のセッションの輝きは一際ですね。
やはり「EMBRACEABLE」でしょうかねぇ~。

アナログで別テイクの連続はさすがに…。
「BIRD SYMBOLS」を探してみましょうか♪

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パーカーのアルバム (サイケおやじ)
2008-10-09 09:59:38
☆bob様
コメント感謝です。

「Bird Symbols」は国内盤もありますが、外盤だと疑似ステレオになっているブツもあるんですよね。
パーカーのLPで一番困るのが、その点です。ヴァーヴ関連の音源もそうでした。

パーカーのアルバムはいろいろと買いましたが、結局アナログ盤で最初に満足できたのは、このスポットライト盤でした。
これからはCD集めに奔走しそうです。
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