■More Fast Numbers / The Rolling Stones (Dog n Cat = Bootleg)
これも先日ゲットしてきたストーンズのブートで、内容は1978年発表の人気盤「女たち / Some Girls」関連のアウトテイク集です。
これが制作された時期のストーンズは例によって悪いクスリのゴタゴタ、いろんな訴訟やトラブルを抱えていたところへ、業界では所謂パンク~ニューウェイブの台頭によって、ワルの代名詞とさえ言われてきたストーンズにしても、旧勢力の代表格の如き叩かれ方が!?!
しかしストーンズの創作意欲はなかなかに旺盛だったようで、前作アルバムがライプ盤だったことから、約2年ぶりのスタジオ録音アルバムには、当時の流行に敏感なキャッチーでウケ狙いの歌と演奏がごっそり収録されていました。
ですから当然、そのボツテイクも大量に残され、それが流出してのブートも、LP時代から様々に登場してきたのです。
で、今回のブツは、アナログ時代の名作ブートLPと言われた「More Fast Numbers」と同じタイトルを用いながら、中身はCD2枚にぎっしりと優良音源を集めています。
☆Disc 1
01 When The Whip Comes Down (1977年10~12月録音)
02 Start Me Up (1978年1~3月録音)
03 Claudine (1977年10~12月録音)
04 I Can't Help It (1977年10~12月録音)
05 Miss You (1977年10~12月録音)
06 Just My Imagination (1977年10~12月録音)
07 Munich Hilton (1977年10~12月録音)
08 Respectable (1977年10~12月録音)
09 Lies (1977年10~12月録音)
10 When The Whip Comes Down (1977年10~12月録音)
11 I Can't Help It (1977年10~12月録音)
12 Shattered (1977年10~12月録音)
☆Disc 2
01 Some Girls (1977年10~12月録音)
02 The Way She Held Me Tight (1977年10~12月録音)
03 Beast Of Burden (1977年10~12月録音)
04 I Need You (1978年1~3月録音)
05 Do You Think I Really Care (1978年1~3月録音)
06 Just My Imagination (1977年10~12月録音)
07 Fiji Jim (1978年1~3月録音)
08 Shattered (1977年10~12月録音)
09 Miss You (1977年10~12月録音)
10 A Different Kind (1977年10~12月録音)
11 Far Away Eyes (1978年1~3月録音)
12 Hang Fire (1978年1~3月録音)
13 When The Whip Comes Down (1977年10~12月録音)
上記した演目は、その収録にテイク&バージョン違いのダブり曲がありますし、必ずしも「女達」に収録されず、後のアルバムで登場した演奏もありますが、裏ジャケットの記述を信じれば、一応は1977~1978年にパリのパテ・マルコニ・スタジオで行われたセッションからの音源のようです。
そこで手持ちの旧音源盤と様々に聴き比べた結果として、収録曲名の後に録音デートを入れておきましたが、これはあくまでも個人的な推察にすぎません。
まず3テイク収録された「When The Whip Comes Down」は、以降のステージでは定番となったストーンズ流儀の痛快R&Rで、その完成公式テイクは数本のギターがダビングされていましたので、その秘密が解明されています。それは「Disc 1 / 01」が10分超のラフな熱演ですが、「Disc 1 / 10」はその全段階的なリズム主体の演奏で、バックコーラスも入らず、ミック・ジャガーのボーカルもオフ気味なんですが、それにしてもチャーリー・ワッツのドラミングは凄いですねぇ。そして「Disc 2 / 13」が歌詞も公式テイクとほとんど同じになり、ダビングされたギターも確認出来るようになった完成直前バージョンながら、演奏時間はかなり長く残されています。
また説明不要の大ヒット曲「Miss You」は、そのディスコビートや基本のリフがビリー・プレストンに提供されたという逸話どおり、ストーンズ特有の幾分野暮ったいリズムのウネリと本物の黒人感覚が上手く融合された経緯として、ここに楽しめると思います。それは「Disc 1 / 05」がほとんど出来あがっている9分近いテイクなのに対し、「Disc 2 / 09」はサックスやハーモニカが未だダビングされておらず、バックコーラスも入っていない12分近い演奏なんですが、両方とも手探りのギターソロやエレピの伴奏等々から、ロックとニューソウルの幸せなな結婚を目指そうという意気込みが素敵♪♪~♪ 個人的には後者のラフな質感がとても好きです。
そうしたストーンズ流儀の黒人料理としては、ご存じ、テンプテーションズのカパー「Just My Imagination」も興味深いところで、そのオリジナルバージョンはストリングスも使ったパラードだったのに対し、ストーンズは果敢にもミディアムテンポのロックビートでリメイクしていますから、ここでの「Disc 1 / 06」と「Disc 2 / 06」のふたつのテイクも自分達が楽しんでいるかのようなムードが横溢しています。しかし公式テイクと比較するとドラムスとベースが相当に前に出たミックスになっていますし、ギターパートもダビングが完全ではありませんから、尚更に素顔のストーンズがあからさまのような気がしています。
次に「Respectable」と「Lies」という、まさにストーンズならではの激しいギターロックは、当時から「ストーンズのパンクへの返答」とまで言われていたほどのストレートさが魅力だったわけですが、ここでの「Respectable」には公式バージョンでは聞かれないギターがダビングされていたり、全体のミックスも荒々しくて最高です。一方、「Lies」も相当にラフな仕上がりで、特にミック・ジャガーが「Lies」を「Why」と歌い代えている所為もあるんでしょうが、とにかくメンバー全員の意気込みがヤケッパチ気味に熱いですよ。
そして「Shattered」が、これまたストーンズのロック魂が如実に感じ取れる制作段階の演奏で、収録された「Disc 1 / 12」と「Disc 2 / 08」は両方ともカラオケ段階のインストなんですが、あの印象的なリフがシンプルに楽しめるあたりが逆に魅力的♪♪~♪ ちなみに前者には途中からミックのシャウト気味のボーカルが小さく入っていますし、後者は厚みのあるモノラルミックス!?! ビル・ワイマンは参加しておらず、ロン・ウッドがベースを弾いたと言われているテイクです。
さらに面白いのが「Some Girls」で、ほとんど完成しているテイクながら、ゲスト参加したシュガー・ブルーのハーモニカが公式バージョンよりも大活躍しているからでしょうか、ますますスワンプロックな印象が強くなっています。
また、お目当ての「Beast Of Burden」はアレンジや演奏パートが完成に近くなっているものの、ミック・ジャガーのボーカルが疑似裏声というか、その些か湿っぽくて甘いフィーリングが結果オーライ♪♪~♪
それとストーンズ流儀のカントリーロックとして人気が高い「Far Away Eyes」も公式バージョンにかなり近い仕上がりになっていますが、ペダルスチールのギターフレーズが異なっていますよ。
以上、ここまではアルバム「女達」に収録された名曲のアウトテイクでしたが、「Start Me Up」や「Hang Fire」も次回作「刺青の男」で公式バージョンが登場したのですから、本当にこの時期のストーンズは充実していたと思います。特に「Hang Fire」は6分を超えるノリまくった演奏で、このラフな雰囲気は公式バージョンよりも相当に凄いです。
あぁ、これがストーンズでしょうねぇ~~♪
気になる「Start Me Up」はミック・ジャガーのボーカルやコーラスが中途半端な未完成テイクながら、如何にもキース・リチャーズというハードなノリが既に出来あがっていますから、ついつい、ノセられてしまいますねぇ。ただしヒスノイズが多めなのは減点……。
そして残りは本当のボツ曲群なんですが、やはりストーンズ中毒者には、たまらないものばかりです。
例えば「Claudine」は先日ご紹介した再発ブート「Lonly At The Top」にも収められていた問題曲ながら、こちらはファンキーロックなアレンジで押し通した7分半ほどのハードなテイク! これが本当にゾクゾクしてくる演奏なんですねぇ~♪
また「I Can't Help It」は、これまた直線的なファンキーロックながら、ちょいと曲そのものの出来がイマイチ……。しかしストーンズの演奏は流石にビシッとしていて、「Disc 1 / 04」のクールなキメ方は素晴らしく、一方、「Disc 1 / 11」はヤケッパチなフィーリングと団子状のミックスが心地良いという二面性が見事に楽しめます。
う~ん、軍配を上げるのが難しい~、と嬉しい悲鳴♪♪~♪
ですからスタジオジャムの「Munich Hilton」が尚更に心地良かったりするんですが、ちなみにこれも前述した「Lonly At The Top」収録のテイクとは異なる、なんとパーカッションも入った10分超のインスト!?!
そしていよいよのお楽しみなのが、未発表曲のあれこれで、まず「The Way She Held Me Tight」は名盤「メインストリートのならず者」に入っていても不思議ではない、ホノボノとルーズなカントリー系の歌と演奏に和みますよ。懐の深いリズムとビートの作り出し方は唯一無二のストーンズ流儀だと思います。また「I Need You」は歌詞が未完成ながら、ミック&キースのデュエットが気恥ずかしくなるほどなんですねぇ~♪ もちろん曲調は金太郎飴的なストーンズ独自のスワンプ系なのが、ニクイです。
そのあたりは名曲「Dead Flowers」を焼き直したような、本当に軽快なカントリーロックの「Do You Think I Really Care」、そしてちょいと哀愁モードの「A Different Kind」の両方で効果的なのロン・ウッドのベダルスチールギターにも言えることで、全くこの時期の趣味性がモロに出た瞬間が愛おしいばかり♪♪~♪
また「Fiji Jim」は、これまたストーンズがど真ん中のR&R大会なんですが、ちょっと平凡な曲メロをなんとかしようとするバンド全員の奮闘ぶりが微笑ましいところかもしれません。
ということで、中身の濃さに疲れるほど、本当のお楽しみが満載です。
気になる音質はステレオミックス主体の良好なものですから、ブート初心者にもオススメ出来ますが、まずは公式盤「女達」や「刺青の男」を聴きまくってから後には、尚更にシビレること請け合いです。
もちろん、この時期の関連ブート音源は、ここに収録されたものが全てではなく、まだまだどっさり残されています。おそらくCDにしたら6~7枚分はあるんじゃないでしょうか。
ついでに言えば、このプートのタイトル「More Fast Numbers」は公式盤「女達」の最初のタイトルでもありました。
いゃ~、ストーンズの奥の細道は長くて険しいですが、やめられませんよ、本当に!