OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

展覧会の絵

2009-04-20 10:01:20 | Rock Jazz

Pictures At An Exhibition / Emerson Lake & Palmer (Island)

クラシック音楽のジャズ化があれば、当然ながらロック化もあるのが大衆音楽の理でしょう。

例えば我が国の寺内タケシが演じた名盤「レッツゴー運命」は世界的にもヒットして高い評価を得ていますし、クラシックのメロディから大きなインスピレーションを得ているリッチー・ブラックモアにしても、前述した寺内タケシのアルバムに収録されていた「運命」や「白鳥の湖」を聴いてからギタリストとして目覚めたと語っているほどです。実際、リッチー・ブラックモアがディープパープルとして初来日した時には、寺内タケシのアルバムを買っていた伝説が残されています。

その他にも多くの名演が世界中にあるわけですが、本日ご紹介のアルバムも、そのひとつとして最も成功した人気盤だと思います。

主役のエマーソン・レイク&パーマーは、元ナイスのキース・エマーソン、元キング・クリムゾンのグレッグ・レイク、そして元アトミック・ルースターのカール・パーマーで結成された説明不要のプログレバンドで、1970年の正式結成以来、素晴らしいアルバムを作り続けたわけですが、同様にライブ演奏も強烈無比! それはメンバー各人の抜群のテクニックと音楽性の証明ではありますが、何よりもプログレでありながら、大衆性も忘れていないサービス精神の表れでもありました。

で、このアルバムはタイトルどおり、ロシアの作曲家、ムソルグスキーのピアノ組曲「展覧会の絵」をモチーフにしたトータルアルバムですが、驚いたことには、全篇がライブ演奏だということです。

事の発端はバンドリハーサルでキース・エマーソンが弾いていた「展開会の絵」をメンバーが覚えて、それがジャムセッションに発展し、ついには独自の解釈を施した組曲として完成させたと言われていますが、それは自分達だけの楽しみだったそうです。しかしある日、実際のステージで演奏したところが大ウケにウケまくり♪♪~♪ 1970年末頃の巡業からは定番演目となったそうです。

しかしバンドには、これを発売する意思がなく、それとは反する形で流出したライブ音源から作られた海賊盤がバカ売れしていた事実を鑑みれば、レコード会社からは猛烈な催促があっての結果が、このアルバムです。

その背景には、もうひとつの事情があり、キース・エマーソンが十八番のクラシック趣味が強く現れる「展覧会の絵」という演目に、他のメンバーが反発していたというわけですが……。実際にレコーディングされ、発売直後からベストセラーになってみれば結果オーライ! エマーソン・レイク&パーマーの人気は決定的なものになりました。

録音は1971年3月26日、イギリスはニューキャッスルのシティホールで行われたライブレコーディングから、メンバーはキース・エマーソン(org,key)、グレッグ・レイク(vo,b,g)、カール・パーマー(ds) が熱演を繰り広げています。

A-1 Promeande / プロムナード
 曲の紹介から観客が大熱狂という拍手喝采に続き、あまりにも有名なメロディが原曲の趣を大切にする厳かにして静謐なムードで提示されます。ここで聞かれるキース・エマーソンのオルガンが実に爽やかにして重厚♪♪~♪ 以降、LP片面をブッ続けて展開される組曲の印象を見事に決定づけています。

A-2 The Gnome / こびと
 これはムソルグスキーの原曲にカール・パーマーが別なパートを付けた演奏で、ドラムスとベースのキメが痛快という、いきなりテンションの高いアンサンブルは圧巻! そして続くヘヴィでプログレなバンド演奏は、この後の怖い展開を象徴するように、キース・エマーソンのムーグシンセが唸るのですが、クライマックスの嵐の予感が凄いです。

A-3 Promeande / プロムナード
 そして一転、またまた静謐なテーマメロディに、今度はグレッグ・レイクが独自の歌詞を付けたボーカルバージョン♪♪~♪ その静かな情熱が滲み出るような歌唱は、キング・クリムゾン時代からの魅力もそのままに、短いながら実に味わい深いものです。

A-4 The Sage / 賢人
 さらに続くのが、このグレッグ・レイクが畢生の名曲・名演♪♪~♪
 クラシックの影響が色濃いメロディとアコースティックギターの響きが、もう最高です。特に間奏で聞かせるギターソロは、簡潔なクラシックギターの味わいが新鮮で楽しく、またボーカルのせつせつとした感じも高得点でしょう。
 これはグレッグ・レイクの、ほとんど一人舞台なんですが、そこがミソ♪♪~♪

A-5 The Old Castle / 古い城
 こうして突入するのが前半のハイライト!
 キース・エマーソンのエキセントリックなシンセサイザーとドカドカ煩いカール・パーマーのドラムスが、あてどない会話を演じた後、ビシバシのシャッフル系ロックビートで繰り広げられるアドリブパートの痛快さ! ピック弾きでエレキベースを蠢かせるグレッグ・レイクも熱演です。
 まあ、こういう部分はジャズ者からすれば、物足りないと思うかもしれませんが、それは後のお楽しみ!

A-6 Blues Variation
 前曲から続いて突入するこのパートでは、実にスカッとするブレイクから、キース・エマーソンが得意のハモンドオルガンで、ジミー・スミスのロックジャズ化を見事に演じてくれます。そしてビンビンビンに弾けるグレッグ・レイクのエレキベースからは、後年のジャコ・パストリアスが十八番のキメに使っていたマシンガン単音フレーズが飛び出し、あっけないほどの元ネタばらしが痛快至極!
 さらに中盤からの場面転換のパートで演じられるテーマリフが、アッと驚くビル・エバンスの「Interplay」なんですから、もう絶句ですよっ! キース・エマーソンの両手両足をフルに使ったキーボードのロック魔術は、それこそジャズもクラシックのゴッタ煮の見事さです。

B-1 Promeande / プロムナード
 B面は再びテーマの提示から、ブッ続けの演奏が続きます。
 そしてこれは、そのヘヴィなバージョンですから、これから後のハードな展開は「お約束」というイントロになっています。

B-2 The Hut Of Baba Yaga / パーバ・ヤーガの小屋
B-3 The Curse Of Baba Yaga / パーバ・ヤーガの呪い
B-4 The Hut Of Baba Yaga / パーバ・ヤーガの小屋

 上記の3曲は完全なる一体感として楽しめる名演で、ムソルグスキーのオリジナルメロディを挟んだ中間部の「The Curse Of Baba Yag」はバンドのオリジナルパートですから、プログレハードでロックジャズな展開が存分に楽しめます。
 その土台を支え、バンドをガンガンにリードしていくがカール・パーマーのシャープでパワフルなドラミング! 実際、ここでのビシッとタイトな熱演は強烈無比の存在感ですから、キース・エマーソンが各種キーポードを全開させる大嵐も、またグレッグ・レイクのシャウトとエレベの暴れも、全く見事に熱くなっています。

B-5 The End - The Great Gates Of Kief / キエフの大門
 こうして迎える大団円が、この感動の名曲! グレッグ・レイクが歌詞をつけたボーカルバージョンではありますが、前曲のクライマックスから突如として歌い出されるメロディの大きな展開は、本当に泣きそうになりますよっ!
 キース・エマーソンの重層的なキーボード、カール・パーマーのヤケッパチ寸前のドラミングも、最後の静謐な締め括りには欠かせないという、実にクサイ芝居が憎めません♪♪~♪ もちろん観客からも感極まった拍手喝采なのでした。

B-6 Nutrocker
 これは完全なるアンコールの演奏で、曲はムソルグスキーではなく、チャイコフスキーでお馴染みの「くるみ割り人形」というのが嬉しい限り♪♪~♪
 実はこの曲もクラシックのロック化には欠かせないメロディとして、古くは1962年に Billy Bumble & The Stingers がヒットさせ、さらにベンチャーズの名演も残されている因縁があるほどですから、エマーソン・レイク&パーマーにしても避けてとおれない大快演♪♪~♪
 ノリまくったカール・パーマーのドラムス、自分が楽しんでいるとしか思えないキース・エマーソンの浮かれたキーボード、さらにグレッグ・レイクのエレキベースもジャコ化しています。最後のブル~スなキメも、わかっちゃいるけどやめられない♪♪~♪
 ちなみにこのバージョンはアルバムからシングルカットされ、当時のラジオからは流れまくっていましたよ。

ということで、私はこれが好きでたまりません。それほどに楽しくて分かり易く、しかもジャズもロックもクラシックもゴッタ煮の美味しさがあるんですねぇ~♪

初めて聴いたのはリアルタイムの高校生の時でしたが、その頃にはジャズにも浸りこんでいたサイケおやじにしても、全く圧倒されたほどにジャズっぽかったです。

ちなみにキース・エマーソンは、アマチュア時代にデイブ・ブルーベックあたりを好むジャズバンドをやっていたそうですが、プロになってからは1967年頃にクラシックとロックやジャズを融合させたバンドの先駆けとして有名な The Nice を結成し、数枚のアルバムを残しています。そしてなんとキース・エマーソンのピアノやオルガンは独学だっというのですから、なかなか驚きますよ。

そしてキース・エマーソンこそが、ロックでもキーボードが主役になれることを実証した偉大な先人! それまでのヒーローはギタリストでしたからねぇ。

またグレッグ・レイクはご存じ、キング・クリムゾンで「Epitaph」を歌って歴史を作った、この人も偉人ですが、クラシックやジャズ優先主義のキーマ・エマーソンをロックやフォークを含んだ所謂プログレに繋ぎとめたのも、大きな役目でした。

ここにカール・パーマーという強靭なテクニックを誇るドラマーが入ることで、キーボード・トリオという、当時は珍しかったバンド形態で大ブレイクを果たしたのは、1970年代前半の音楽界では、ひとつの奇跡だったかもしれませんが、それを可能したのが、このアルバム「展覧会の絵」の大ヒットだったと思います。

エマーソン・レイク&パーマーは、一応はロックということで敬遠されているジャズファンの皆様にも、これは機会があれば聞いていただきたい名盤と、本日も独断と偏見により断言致します。暴言、ご容赦下さい。

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オイゲン・キケロの憎さ百倍

2009-04-19 11:26:26 | Jazz

Rokoko-Jazz / Eugen Cicero (MPS)

クラシックの名曲をジャズ化する試みは古来、いろいろとありますが、その中の最高峰といえばルーマニア人のピアニスト、オイゲン・キケロの諸作だと思います。

当然ながらクラシックの素養を強く感じさせるピアノテクニックに加え、強靭なスイング感も兼ね備えたそのスタイルは、失礼ながら同様の演奏をやっているジャック・ルーシェとは一線を隔するものと思います。

さて、このアルバムはオイゲン・キケロがブレイクする契機となった1枚で、録音は1965年3月14日、メンバーはオイゲン・キケロ(p)、ペーター・ウィッティ(b)、チャーリー・アントリーニ(ds) という正統派ピアノトリオ♪♪~♪

ちなみにアルバムタイトルにある「Rokoko」とは、我が国で言う「ロココ」であり、18世紀フランスの宮廷美術をルーツとする芸術様式を指すと思われますが、その優雅なムードとモダンジャズの魅力が実に上手く融合した演奏は、まさにタイトルに偽り無し! 演目も一度は耳にしたお馴染みのメロディばかりです。

A-1 Solfeggio C-Moll / ソルフェジオ・ハ短調
 ヨハン・セバスチャン・バッハの息子だったカルル・バッハが書いたピアノ練習曲として有名なメロディが、アップテンポのモダンジャズに変奏されるのもムベなるかな!
 そのテーマ部分の一糸乱れぬアンサンブルを聴いているだけで、このピアノトリオの完成度に圧倒されますが、もちろんオイゲン・キケロのピアノはアドリブも実に達者です。流れるようなフレーズ展開には、当たり前のようにクラシックの要素とジャズのドライブ感が絶妙にミックスされているんですねぇ~♪
 相当に考え抜かれて、しかも煮詰められた、言わば「存在のアドリブ」なのかもしれませんが、その爽やかさは気持ち良いかぎりですし、本当に心が洗われるというか、こういうピュアハートも「あり」でしょうね♪♪~♪

A-2 Sonata C-Dur / スカルラッティのソナタ・ハ長調
 これも有名なメロディで、本来はハープシコードで演じられることも多い名曲ですが、ここではピアノトリオの、それもジャズならでは即興をイヤミなく入れた快演になっています。
 穏やかなスタートから、やがて白熱のアップテンポとなる頃には、オイゲン・キケロのピアノがスイングしまくった桃源郷♪♪~♪ どっかで聞いたことがあるような、琴線に触れるアドリブフレーズの連発には溜飲が下がりますし、原曲メロディを大切にしたフェイク、ピアノトリオしてのアレンジの完成度も素晴らしいですねぇ~♪

A-3 L'adolescente / 小さな一生
 フランソワ・クープランが書いたロココ様式を代表する素敵なメロディ♪♪~♪ きっと誰もが、一度は耳にした名曲だと思いますが、それを爽やかにフェイクしていくオイゲン・キケロのセンスの素晴らしさ! 全くイヤミの無いところが逆にイヤミになるような感さえあるほどです。
 そしてアドリブパートでの流麗なアップテンポの展開は、溢れる泉の如き新鮮なフレーズの連続ですが、後半からはグッとテンポを落とし、グルーヴィなハードバップがど真ん中! あまりにもジャズ者のツボを上手く刺激しますから、憎さ百倍としか言えません。
 こういうところが好き嫌いに繋がるんでしょうねぇ~。しかしこれは素敵ですよ、実際! 私は素直に快感を覚えて、大好きです♪♪~♪

B-1 Bach's Softly Sunrise
 これはオイゲン・キケロのオリジナル曲ですが、タイトルどおり、導入部にはバッハのトッカータ・ニ短調が使われ、さらに主題にはベンチャーズでお馴染みの某ヒットメロディが入っていたりと、なかなかのサービス精神が嬉しいところ♪♪~♪
 そして全体は強靭なドライヴ感に満ちたモダンジャズピアノの楽しさが横溢した快演なんですから、たまりません。あぁ、このスイングしまくって、さらにファンキーな味付けも嬉しいフレーズ展開♪♪~♪ しかも適度なコードアウトまでも演じたりする稚気がニクイですねぇ~♪
 ピアノテクニックも凄いの一言で、このあたりはアンドレ・プレヴィンにも共通するところではありますが、オイゲン・キケロには悪魔の音楽としてのジャズというグルーヴが、これでもかとテンコ盛り!
 終盤のバロック系ブロックコードとでも申しましょうか、そのクライマックスの上手すぎる展開には、思わず興奮させられますよっ! 全く最高です。

B-2 Fantasie In D-Moll / 幻想曲・ニ短調
 これまた有名なモーツァルトの名曲ですから、オイゲン・キケロにしても油断は禁物! そこで神妙にオリジナルメロディをフェイクしていく手際の良さには、幾分のイヤミも感じられるほどです。
 ただし、こういう繊細な演奏が他のピアニストに出来るかといえば、けっしてそうではないでしょう。原曲にある4つのパートを上手くジャズ化し、抜群のテクニックで爽やかに、そしてグルーヴィに、さらに楽しく演じていくピアノトリオの醍醐味が満喫出来ると思います。
 実に楽しいですよっ♪♪~♪

B-3 Erbarme Dich, Mein Gott / 神よ、あわれみたまえ
 これも有名すぎるバッハの大名曲ゆえに、こちらもあらぬ期待をしてしまうのですが、オイゲン・キケロは凝りすぎることなく、極めて自然体にテーマメロディを弾きながら、ジャズ的な味わいを大切に演じています。
 その幻想的な味わいの深さ、そしてせつないメロディ展開を上手く構成していく全体の流れの潔さは、本当に圧巻だと思いますねぇ~♪ 時代的にも絶妙に入っている新主流派っぽい響きも要注意かもしれませんし、また逆にオスカー・ビーターソン流儀のダイナミックな表現、大袈裟にしてクサイ芝居も結果オーライという、まさにアルバムの締め括りにはジャストミートの名演です。

ということで、これは絶大なる人気盤でしょう。

オイゲン・キケロの抜群のテクニックを満喫出来るピアノの爽快感、そしてペースとドラムスの地味ながら上手いサポートが一体となっていますから、とっつき易く、何時聴いてもシビレます。おそらくクラシックのジャズ化作品としては、最も成功した中のひとつじゃないでしょうか?

ちなみにオイゲン・キケロは、これが出世作と言われているとおり、以降に膨大な録音を残していきますが、その中には当然ながらクラシック以外の演目もありますから要注意でしょうねぇ。私は以前、ドイツでライブを聴きましたが、その時はバート・バカラックの名曲等々も、実に上手くクラシック調のジャズにしていましたし、それがぴったりの演奏スタイルは大きな魅力だと思います。

ところで昨夜は仕事関係の宴会に出て、資本家や政治屋のギラギラした欲望の中に紛れ込んでいたわけですが、私にしてもお金は大好きですが、奴らの話はそんな私にしてもムカムカするほど生臭く、辟易させられました。

そこで今朝は爽やかな気分を求めて、このアルバムを出してしまったわけですが、それにしても久々にオイゲン・キケロの中毒に陥りそうで、我ながら苦笑しています。

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ロイ・ブキャナンの降臨

2009-04-18 12:15:08 | Rock

メシアが再び / Roy Buchanan (Atlantic / Polydr)

ジェフ・ベックの「哀しみの恋人達」を契機として、1970年代後半は泣きメロのギターインストがちょいとしたブームになりました。

本日ご紹介の「メシアが再び / The Messiah Will Come Again」も、そのひとつとして、当時はラジオや有線で流れまくっていましたですね。

演じているのはロイ・ブキャナンという中年おやじなんですが、この人は1950年代から知る人ぞ知るというギターの名手! 本格的な活動は1957年頃からで、ロカビリー歌手のデイル・ホーキンスのバンドレギュラーとなり、伝説的なヒット曲「Suzie Q」あたりもこの人の演奏と言われていますが、サイケおやじにはちょっと確証がありません。

ちなみにここでの先輩が、やはりアメリカンロックのギタリストとしては基礎を築いたとされるジェームス・バートンで、ロイ・ブキャナンがテレキャスターを使っているのも、この人の影響かもしれません。

で、その後は、やはり同系のロカビリー歌手、例えばロニー・ホーキンスとかフレディー・キャノンのバックを務めながらキャリアを積み重ね、この間にはザ・バンドのロビー・ロバートソンとかセクションのダニー・コーチマーあたりとも親交があったようです。実際、ロビー・ロバートソンはインタビューの中で、自分のスタイルに大きな影響を受けたと明言しているほどです。

しかし本人には欲がなかったのか、あるいは巡業の日々に疲れ果てたのか、何時しかワシントンDCあたりの酒場で演奏する道を選びましたが、ギタリストとしての腕前は同業者の間では伝説となり、業界主導の人気からレコードデビューとなったようです。そして1972年に初めてのアルバム「Roy Buchanan (Polydr)」を発表するのですが……。

こうした経緯は当時の大衆音楽では決して最初からのヒットには縁遠く、サイケおやじにしてもロイ・ブキャナンを知ったのは1974年頃でした。

それは馴染みの楽器屋のギター売り場でのことで、当時は新しい音楽情報源としてラジオやジャズ喫茶の他に、こういう楽器屋がネタの仕入れ元になっていたのです。なにしろそこはプロも出入りしているところですからねぇ、凄いギタリストのひとりとして、これを聴いてみろと鳴っていたのが、ロイ・ブキャナンのアルバムでした。

それは明らかにギターを聞かせるのが目的という演奏で、そのキモはブルース、R&B、カントリーやソウル、そしてジャズやゴスペルがゴッタ煮となった味わいが強く、しかもバンド編成はオルガン入りというところから、私には我が国の井上バンドを強く連想させられました。

実際、ギターとオルガンをメインに作り出されている演奏は、例えば「太陽にほえろ」とか「傷だらけの天使」といった当時の人気ドラマのサントラ音源の元ネタがバレバレでしたし、その演奏は前述の井上バンドがやっていたのですから!

ちなみに井上バンドは元スパイダースの井上堯之(g) と大野克夫(key) が中心のバンドで、ベースが今では俳優として活躍する元タイガースの岸部一徳! メインの仕事は沢田研二のバックの他に当時のテレビドラマ等の劇伴や歌謡曲のカラオケ作りといったスタジオの仕事、さらに作曲やアレンジまでも手掛ける腕利き揃いでした。

閑話休題。

しかしサイケおやじが一番驚いたのは、ロイ・ブキャナンが弾くギターのフレーズやアドリブ構成のテクニックが、全くどうやって弾かれているのか分からなかったことです。もちろん各種のエフェクター類も使っているのでしょうが、それよりも確実に存在しているのが、ギターに対するピッキングや指運の研ぎ澄まされた技術だと、強く直感するばかり……。

今日ではそうした技法がビッキングハーモニクスとかミュート、フィードバック等々、いろいろと解明・解説されていますが、とにかく使用楽器がテレキャスターという以外にはミステリアスな部分が、なかなか魅力の根源だったように思います。

そして、そうこうしているうちに世に出たのがジェフ・ペックの「哀しみの恋人達」で、これはロイ・ブキャナンに捧げることが、はっきりとしたウリになっていたのですから、たまりません。もちろんリアルタイムでは、そのヒットに比例してロイ・ブキャナンの名前も広まったのです。

すると流石は業界というか、翌1976年になって出されたのが、この「メシアが再び」というわけですが、この曲そのものは前述した初リーダーアルバムにも収録されていた隠れ名曲でした。それをここではセルフカバーの再録バージョンとして、オリジナルでは6分近くあった演奏を4分ちょっとに凝縮したのですから、これはウケて当たり前♪♪~♪

厳かなオルガンと思わせぶりなギターが作る導入部からシブイ語りがあって、いよいよ泣きまくるロイ・ブキャナンのギターソロ! せつなくも琴線にふれるメロディと時にはエキセントリックな叫びも感じさせる音色の妙!

テクニック的にも素人が真似する領域ではなく、もちろんプロも完全脱帽だったいう凄い完成度だと思います。

こうして「哀しみの恋人たち」への見事な返答を果たしたロイ・ブキャナンですが、もうひとつサービス精神と商売熱心が融合した証として、なんとこのシングル盤のB面に収められているのが「My Friend Jeff」という曲なんですから、いやはやなんとも!

その演奏はファンクでロックなクロスオーバー! 参加メンバーもフュージョン系の人選になっていますが、ロイ・ブキャナンのギターは驚くほどに保守的なフレーズとノリに拘っているあたりが温故知新の素晴らしさだと思います。

ということで、ロイ・ブキャナンはこれで決定的な人気ギタリストとなり、来日公演も行っていますが、以降は何故かフェードアウト気味……。そして1988年の夏、泥酔したあげくに保護された留置場で首を吊ったという悲劇の死が!?

その真相は明らかではない部分もあるようですが、残された演奏の数々はギターファン御用達の名演となって愛聴され続けています。

そして泣きメロのギターインストは、この曲によって、さらなるブームになるのでした。

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エバンス中心世界の美女

2009-04-17 10:45:38 | Jazz

Moonbeams / Bill Evans (Riverside)

ジャズピアノの歴史を振り返れば、その最高峰のひとつが、スコット・ラファロ(b) と組んでいた時期のビル・エバンス・トリオでしょう。異論は無いと確信しています。

しかし、この素晴らしいトリオも1961年7月、スコット・ラファロの突然の悲報によって消滅……。以降、ビル・エバンスは失意の中で幾つかのセッションを行い、もちろんその中にはジム・ホール(g) との奇跡の名演となった「Undercurrent (United Artists)」も残されていますが、やはり……。

そして1962年5&6月、約1年ぶりのリーダー吹き込みから作られたのが、本日ご紹介のアルバムです。メンバーはビル・エバンス(p)、チャック・イスラエル(b)、ポール・モチアン(ds) という、もちろんこれは新生ビル・エバンス・トリオとしての再出発を記録しています。

ちなみにこの時は3回のセッションからアルバム2枚分の演奏が残され、それをスロー系とアップテンポ系に分けて発売した制作者側の意図については賛否両論でしょうが、個人的にはスロー系中心のこちらが、ビル・エバンスの美学や当時の心境が滲み出ているような気がして、かなり好きです。

 A-1 Re: Person I Knew (1962年5月29日録音)
 A-2 Polka Dots And Moonbeams (1962年6月5日録音)
 A-3 I Fall In Love Too Easily (1962年6月5日録音)
 A-4 Stairaway To The Stars (1962年6月5日録音)
 B-1 If You Could See Me Now (1962年517日録音)
 B-2 It Might As Well Be Spring (1962年6月5日録音)
 B-3 In Love In Vain (1962年6月5日録音)
 B-4 Very Early (1962年5月29日録音)

演目は上記のように、有名スタンダードが嬉しい選曲ですが、最初と最後にビル・エバンスのオリジナルを配置する構成はニクイばかりです。

その「Re: Person I Knew」はリバーサイドの主催者だった Orrin Keepnes の名前を綴りかえした、これから後もライブでの十八番となる抽象的なモード曲ながら、まさにビル・エバンスならではの耽美な味わいが、このアルバムの中では最も力強いテンポで表現されています。ポール・モチアンのブラシ主体のドラミングも、なかなか躍動的でツッコミ鋭く、このあたりはスコット・ラファロ時代の良さが継続されているわけですが……。

残念ながら、そこに拘泥すると、新参加のチャック・イスラエルが惨めになるでしょう。実際、真剣な自己表現とビル・エバンスの意図を理解しようと務める姿勢は好感が持てるのですが、失礼ながら、やはり持っている資質には限界を強く感じてしまいます。

このあたりは当時の誰が入っても、同じだったのは確実な結果論でしょうねぇ、何もチャック・イスラエルだけが劣る存在ではないと思います。

それを百も承知のビル・エバンスは、それゆえに尚更、自己を掘り下げる道を選んだのでしょうか、続く有名スタンダード曲の解釈は、何れも素晴らしすぎます。

素直なフェイクからトリオしての間合いの芸術を披露する「Polka Dots And Moonbeams」、シンプルな表現でメロディとハーモニーの魔法に耽溺していく「I Fall In Love Too Easily」、さらに力強いビートと意外にもグルーヴィな表現が横溢している「Stairaway To The Stars」というA面の美しき流れは本当に良いです。

そしてB面では、まず「If You Could See Me Now」がオリジナルメロディの素晴らしさに負けている雰囲気も否定出来ませんが、それでもビル・エバンスならではの表現は捨て難く、中盤からの疑似ワルツテンポの表現は如何にも「らしい」です。

しかし「It Might As Well Be Spring」での幾分の勘違いは個人的に残念……。ただしこれは、あくまでも私だけの気分ですから、十人十色の好みの問題でしょう。

それを払拭してくれるのが「In Love In Vain」の耽美な名演です。なにしろ原曲メロディよりも素敵なアドリブメロディが出ていますし、どこまでも美意識優先に深化していくビル・エバンスの世界が、完全にビル・エバンス本人を中心に表現されていると感じます。まさに新生トリオの今後の道という感じでしょうか。

締め括りの「Very Early」もまた、ビル・エバンスのオリジナル曲という以上に、「エバンス中心世界」が、それこそ気持良いほどに展開されています。十八番のワルツテンポで愛らしいメロディを綴るピアノには、真摯なベースも小技を駆使するドラムスも、入り込めない世界があるんじゃないでしょうか。そこが尚更にビル・エバンスの魅力となって、耽美な感性が浮き彫りになった気がしています。

ということで、チャック・イスラエルには気の毒な聴き方しか出来ませんでしたし、ポール・モチアンにしても以前の柔軟にして奔放なスタイルを些か封じ込められた結果のようです。その所為でしょうか、ポール・モチアンはほどなく、このレギュラートリオから抜けているわけですが……。

この点に関しては、既に述べたように、同じセッションから作られたもう1枚のアルバム「How My Heart Sings!」を聴いても感じられるところじゃないでしょうか?

しかしビル・エバンスの最も「らしい」美学は、ここから再スタートして次なる安定期へと向かい、多くのファンを魅了していくのですから、このアルバムも裏名盤でしょう。

美女ジャケットとしての人気も抜群♪♪~♪

ちなみに、このジャケットの彼女は、この角度で鑑賞するのがベスト! 試しにジャケットの向きを変えて飾ったりしましたが、これは皆様もご経験があるのでは?

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モブレーの心霊ジャケット

2009-04-16 11:36:15 | Jazz

Soul Station / Hank Mobley (Blue Note)

ハンク・モブレーの代表作にして、ハートバップの大名盤の、これは別ジャケデザインの再発盤です。

なんとなく心霊写真みたいですが、なんでこれか? と言えば、今では簡単に入手出来る環境も、一時の我が国では手の届かない高嶺の花でした。

それはレーベル主催者のアルフレッド・ライオンが、他国でのプレスを許さなかった事情によるものですから、常態的に出回っているのはアメリカプレスがほとんどだった所為です。しかも1970年代に入ってはレーベルの権利そのものが、リバティへと移行していた事もあり、今では歴史という名盤も時代の流れで廃盤状態……。超有名盤、あるいはロングセラー商品以外は中古市場での流通になっていたのです。

この人気盤にしても、我が国ではジャズ喫茶という素晴らしい文化が存在していたゆえに、その命脈を繋いでいたようなものでしょう。そしてジャズ者が現実的に気楽に聴ける場所は、そこしか無かったのが、1970年代前半までの状況でした。

もちろん私も大好きなアルバムです。そしてなんとか欲しいと焦るほどに、廃盤価格は当時の私には手の届かないところへといくのです。

で、そんな中で私がこのアルバムをゲット出来たのは、もちろん再発盤ゆえのことです。

それは昨日も書いた、1974年の初渡米の時の事、ロスの学生街にあった中古盤屋で、10枚4ドル98セントの山の中に発見したものです。

ただし盤はピカピカだったのに、裏ジャケットが謄写版インクのローラー押しみたいに汚れがベッタリ……。う~ん、このジャケットを下敷きにして、なんか印刷でもやってたんか!? もちろん中身のレコードを聴きながらなんでしょうけどねぇ……。

それでも私は嬉しかったですよ。当時はこの再発盤でさえ、我が国では見かけることがありませんでしたから!? しかも超安値ですから、速攻でゲット♪♪~♪

ちなみに当然ながらステレオ仕様ですが、やはりアメリカ盤特有のカッティングレベルの高さは魅力ですし、左にテナーサックス、真ん中にベースとピアノ、右にドラムスという、バッチリ別れたミックスも潔いかぎりだと思います。

録音は1960年2月7日、リーダーのハンク・モブレー(ts) 以下、ウイントン・ケリー(p)、ポール・チェンバース(b)、アート・ブレイキー(ds) という最高のバンドで、これぞハードバップの真髄が楽しめます。

A-1 Remember
 穏やかなムードが印象的なスタンダード曲の名演で、いきなり何の力みも感じせないハンク・モブレーのテーマ吹奏がスタートした瞬間から、素敵なハードバップの楽しみが広がっていきます。
 あぁ、このメロディフェイクの軽さと黒っぽさは、まさにハンク・モブレーだけが演じることの出来る世界でしょうねぇ~♪ テーマ部分では控え目なリズム隊の伴奏も、ハンク・モブレーのアドリブが進むにつれ、力強いビート感を打ち出していく気の合い方も絶妙だと思います。
 そしてハンク・モブレーのテナーサックスからは、間合いの名人芸と流れるようなフレーズの気持ち良さが続けざまに放出されるのですから、たまりません。さらにウイントン・ケリーのファンキーに弾みまくったピアノが、これまた最高の決定版!
 アート・ブレイキーの強いバックピートを上手く中和させるポール・チェンバースの物分かりの良さも、なかなか侮れません。ズバリ、名演の条件が全て揃っているんじゃないでしょうか。

A-2 This I Dig Of You
 そしてこれが、ハンク・モブレー畢生の名曲にして大名演!
 爽やかにして未来志向のイントロは、ウイントン・ケリーしても生涯の傑作フレーズかもしれませんが、いや、それさえもハンク・モブレーの作曲のうちかもしれません。ベースとドラムスのアンサンブルも素晴らしすぎますから、それに続くテーマメロディの雰囲気の良さに至っては、モブレーマニアの桃源郷♪♪~♪
 一瞬の間を挟んで始まるウイントン・ケリーの颯爽したファンキーピアノのアドリブもシビレが止まらないほどですよっ! アート・プレイキーのハイハットとリムショットのコンビネーション、ポール・チェンバースの新しい感じの4ビートウォーキングも強い印象を残します。
 肝心のハンク・モブレーは、もう言うこと無しの大快演! 十八番のタメとモタレを効果的に使いながらも、実に前向きなフレーズを滑らかに吹きまくりですし、もちろん歌心も新感覚でありながら、こちらが思い通りの「モブレー節」がどこまでも止まりません♪♪~♪
 あぁ、アップテンポでこの軽やかに飛翔していく雰囲気の良さは、唯一無二でしょうねぇ~♪ ロリンズやコルトレーンなんて、どこの国の人!?
 なぁ~んて、そんな不遜な事が頭を過った次の瞬間、ズバッと炸裂するのがアート・ブレイキーの魂のドラムソロ! アフロでラテンでハードバップがゴッタ煮となった強烈なグルーヴには歓喜悶絶させられます。

A-3 Dig Dis
 前曲の興奮が冷めやらぬ中、グッと重心の低いウイントン・ケリーのピアノがグルーヴィなイントロを弾きながら、実に良い雰囲気を作り出す短いアドリブ♪♪~♪ もうここだけで絶頂感がいっぱい♪♪~♪
 続くハンク・モブレーも、シンプルにして真っ黒なブルースリフを吹きながら、ジワジワともうひとつの絶頂へ向けてのお膳立てなんですから、グッと気持ちが高揚していきます。
 もちろんアドリブパートがミディアムテンポのゴスペルムードになるのは、美しき「お約束」でしょう。タメとモタレの芸術を聞かせてくれるハンク・モブレー万歳! 続くウイントン・ケリーのダークなファンキーフィーリングも、誰の真似でもない至芸だと思います。
 そして粘っこいフレーズの隙間を埋めていくポール・チェンバースのウォーキングベースも、実に味わい深いと思います。

B-1 Split Feein's
 これまたハンク・モブレーの優れた作曲能力が実証された素敵なテーマメロディとアンサンブル♪♪~♪ 軽いラテンビートとヘヴィな4ビートが交錯するあたりは、明らかに新時代のハードバップを志向しているようです。それを支えるアート・ブレイキーも流石!
 そしてアドリブパートの活きの良さは絶品です。アップテンポの4ビートに煽られながら、決して自分の個性を見失わないハンク・モブレーの魅力が存分に楽しめると思いますが、やはりハンク・モブレーにはアート・ブレイキーのドラミングがジャストミートですねぇ~~~♪ 同時期に所属していたマイルス・デイビスのレギュラーバンドでの不当評価をブッ飛ばすのは、つまりそこでのドラマーだったジミー・コブとの相性の悪さだったと思うのですが、いかがなもんでしょう。ハンク・モブレーのような内側からの自己表現を得意とするプレイヤーには、ジミー・コブのようなクールビートよりも、アート・ブレイキーの燃え上がるような煽りが最適だと、私は常々感じております。

B-2 Soul Station
 そのあたりの感をさらに強くするのが、このミディアムスローなファンキー演奏で、リズム隊のゴスペルグルーヴを上手く使いこなしたハンク・モブレーの決定的なスタイルが、徹頭徹尾、楽しめます。
 あぁ、この重心の低さ、そこからグイグイ、ジワジワと盛り上げていこうとしてファンキーな泥沼でもがき、味わいを濃くしていくハンク・モブレーのアドリブは、全く独自の境地でしょうねぇ~♪ マイルドな音色、ソフトで真っ黒なフレーズ展開の妙、十八番のタメとモタレ♪♪~♪ こういうスタイルは1960年代後半からは、完全なる時代遅れの象徴となったわけですが、しかしこれこそがモダンジャズのひとつの真実として、時代性という束縛から逃れた現代では、かけがえのない宝物だと確信出来ます!
 それはウイントン・ケリーにしても同様ですが、この人の場合、スタイルに汎用性があった所為でしょうか、比較的ストレートにその魅力が長続きしたのは幸いでしたから、ここでも良い味を出しまくりですよ。ファ~ン、キ~~~♪

B-3 If I Should Lose You
 オーラスは、再び穏やかなスタンダード曲のハードバップ的な展開、その典型が楽しめます。ハンク・モブレーが中心となった、まずはストレートなテーマメロディの吹奏が良い感じ♪♪~♪
 そしてアドリブが、これまた「モブレー節」の「歌」で満たされています♪♪~♪
 このあたりは、アルバム全体の中では当たり前すぎる感じも強いのですが、こういう安心感こそがモブレーマニアの求めるところであり、全てのモダンジャズファンを納得させるものじゃないでしょうか?
 それはウイントン・ケリーのリラックスしたアドリブにも同様の味わいが強く、尽きることのない「ケリー節」の典型が楽しめるのでした。

ということで、やはり人気盤の魅力は絶大という感想しかありません。もちろんハンク・モブレーには、他に多くの傑作がありますから、決してこれが一番ではないでしょう。

しかしリラックスした中にも確かに感じられる新しい息吹、そしてセッション全体の雰囲気の良さ、バンドメンバー間の気の合い方が素晴らしいのは間違いないところだと思います。特にアート・ブレイキーは常日頃はリーダーとしての活動が多い中、以前の子分の為に一肌脱いだというような懐の深いサポートが存在感抜群! ここぞで炸裂させるナイアガラロールの強靭なアクセント、ハイハットでの強いバックピート、シンバルとリムショットも冴えまくりながら、実は控え目なところがシブイという流石の親分だと思います。

ちなみにこのアルバムは、1970年代後半から再発が当然となり、CD時代に入っても早い時期から店頭に並んでいましたが、近年になって世に出たヴァン・ゲルダーのリマスター盤は???

これは紙ジャケット仕様ということもあり、即ゲットしてみましたが、モノラルに近いミックスもアート・ブレイキーのドラムスが引っ込み、ハンク・モブレーのテナーサックスも硬い音にされていたのは、なんだかなぁ……。

もちろんオリジナル盤は持っていないので、比較は出来ませんし、アナログ時代に度々再発された日本盤も所有しておりませんので、またまた独断と偏見ではありますが、この心霊ジャケット盤の音は、ハンク・モブレーのマイルドなテナーサックスの音色、そして強く全面に出ているアート・ブレイキーのドラムスゆえに、ステレオミックスとはいえ、私は愛着が深いのです。

そして何時か願いが叶うなら、オリジナル盤を入手して、聴き比べてみたいものです。

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ラグナビーチの思い出

2009-04-15 11:32:56 | Jazz

Lighthouse At Laguna (Contemporary)

如何にも1950年代、アメリカが一番良かった時期がモロという美女水着ジャケットが有名な1枚♪♪~♪ それは同時に白人ジャズ絶頂期を楽しめるライブの名盤でもあります。

と、ノッケからまたまた独断と偏見ではありますが、これを聴きたくなったのは、このセッションンで大活躍のバド・シャンクの訃報に接したからです。どうも4月2日に亡くなられたとか……。

それなら本来はバド・シャンクのリーダー盤かもしれませんが、サイケおやじは、このアルバムでバド・シャンクに魅了されたのですから、そこはご理解願いたいところです。

内容は、ロスから車で2時間ほど郊外のラグナビーチにある野外公会堂で行われたコンサートから、名演ばかりを抜粋したものですが、上手く拍手を編集したりして、おそらくは別個のパフォーマンスであった様々なバンドの演奏が、ひとつの流れで楽しめます。

録音は1956年6月20日、参加メンバーはハワード・ラムゼイ(b) 率いるライトハウスオールスタアズとしてフランク・ロソリーノ(tb)、バド・シャンク(as,fl)、ボブ・クーパー(ts)、クロード・ウィリアムソン(p)、スタン・レヴィー(ds) という魅惑の面々♪♪~♪ そしてゲストとしてバーニー・ケッセル(g)、さらにハンプトン・ホーズ(p)、レッド・ミッチェル(b)、シェリー・マン(ds) という強力ピアノトリオも出演しています。

A-1 Witch Doctor No.2 / Lighthoues All-Stars
 いきなり快調なスタン・レヴィーのドラムスが、なかなか柔軟なラテンビートを叩き出し、しかし全体は真っ当なモダンジャズという素晴らしさ! 纏まりの良いテーマアンサンブルからフランク・ロソリーノの高速スライドが冴えわたりのアドリブへ突入していく瞬間の高揚がたまりません。
 そして続くバド・シャンクがエキゾチック風味なフルートで高得点♪♪~♪ このあたりのムードはアメコミ系アニメとして我が国でも放映さていた「ジョニー・クエスト」のアメリカ版テーマ曲のようで、本当にワクワクさせられますねぇ~♪ 若き日のサイケおやじは、このパートで一発KOでした。
 さらにクロード・ウィリムスソンのピアノが、これまた琴線に触れまくり♪♪~♪ トドメに炸裂するスタン・レヴィーのラテンなドラムソロは、山本リンダの「どうにもとまらない」を歌いたくなりますよっ!

A-2 'Round About Midnight / Barney Kessel
 そして一転、あまりにも有名なモダンジャズの大名曲が、バーニー・ケッセルのギターを主役に演じられます。もちろん、ゆたったりしたノリとふくよかなハーモニーでバックアップするオールスタアズの趣味の良さは言わずもがな♪♪~♪
 ですからバーニー・ケッセルも相当に思い切ったアドリブフレーズと構成を妙を聞かせてくれますが、予定調和をきちんと演じているのは賛否両論でしょうか。
 このあたりはサイケおやじにしても、若い頃はツマラナイなぁ、なんて贅沢な我儘をタレていましたが、今では流石と思わざるをえません。
 ズバリ、出来すぎ!?

A-3 Mood For Lighthouse / Lighthoues All-Stars
 これが如何にも西海岸ジャズらしい、お気楽グルーヴが実に楽しい快演です。このミディアム・テンポの弾んだ雰囲気こそが、白人ジャズの極みかもしれませんねぇ。
 そしてアドリブパートではフランク・ロソリーノの些か散漫なアドリブが結果オーライでしょう。呑気に何も考えていないようなボブ・クーパーのテナーサックスも良い感じ♪♪~♪

A-4 Walkin' / Hampto Hawes' Trio
 そしてこれがA面のハイライト!
 グルーヴィで真っ黒なハードパップ! 完全にそれまでのフワフワしたムードを一掃する大名演のピアノトリオが、ここに記録されています。
 曲はお馴染みブルースとはいえ、この粘っこさとファンキーで明快なフレーズの積み重ねには歓喜悶絶させられますよっ! ハンプトン・ホーズにしても畢生でしょう。データ的には、このコンサートの数日後に名盤「Vol.1」を録音してしまうのが納得されます。
 脇を固めるレッド・ミッチェルとシェリー・マンは2人とも白人ですが、十分にハードバップのキモを掴んだサポートですから、聴いているうちに気持ちがグングンと高揚していくのでした。

B-1 Blind Man's Bluff / Lighthoues All-Stars
 クロード・ウィリアムソンが書いた西海岸ハードバップの典型のような、実にスマートで痛快な名曲名演です。もちろん作者のファンキーなピアノが伴奏とアドリブ、その両面で冴えまくり♪♪~♪
 そしてボブ・クーパーの懸命なテナーサックス、猛烈な勢いが見事なフランク・ロソリーノのトロンボーン、フワフワと浮遊しながらツッコミも鋭いバド・シャンクのアルトサックスも大熱演の連続です。特にバド・シャンクは同時代にアート・ペッパーという超天才が存在していた為に、どうしても比較されての不当評価は免れませんが、個人的にはこのアルバムで好きになったと、愛の告白をしておきます。

B-2 Lady Jeane / Lighthoues All-Stars
 フランク・ロソリーノのオリジナルという愛らしいメロディが、もちろん作者の独り舞台で演じられます。あぁ、このホノボノとして明朗な性格が滲んでいるようなトロンボーンの味わい深さ♪♪~♪
 もちろん本人の人柄は知る由もありませんが、この演奏を聴いてると、なんか「良い人」のような気がしますねぇ。
 地味ながらハワード・ラムゼイの的確なペースワークも気になるところです。

B-3 The Champ / Hampto Hawes' Trio
 そして一転、ハンプトン・ホーズがまたまたカッ飛ばした大ホームラン! ガンガンに突進するハードバップピアノの真髄が徹頭徹尾に楽しめます。
 曲はディジー・ガレスピーが書いたモダンジャズの真相を秘めたブルースですが、ここまで熱く演じられたら、免許皆伝でしょうねぇ~♪ とにかく猛烈なアップテンポで十八番の「ホーズ節」を乱れ打ちいうピアノの痛快さは、まさに空前絶後!
 シェリー・マンのブラシは、白人らしいシャープな感性とビバップのエキセントリックなアクセントを見事に融合させていますから、白熱しすぎて火傷しそうです。
 また骨太で明快な4ビートを支えるレッド・ミッチェルのペースも侮れませんねっ♪
 もちろん観客は大興奮の拍手喝采!

B-4 Casa De Luz / Lighthoues All-Stars
 これはバド・シャンクが自己のリーダーセッションで度々演じている十八番ですから、ここでも爽やかにしてグルーヴィな、如何にもライブという楽しさに満ちています。
 もちろんアドリブ先発はバド・シャンクのアルトサックスが実に爽快に歌いまくりですよ。そして続くフランク・ロソリーノが浮かれた調子のトロンボーン♪♪~♪ このあたりは西海岸派の魅力が存分に満喫出来ると思います。
 またレスター派の面目を保つボブ・クーパーのテナーサックス、気取らないクロード・ウィリアムソンのピアノも滋味豊かだと思います。

ということで、バド・シャンクが良い味出しまくりのライブ盤です。

そしてハンプトン・ホーズの決定的な瞬間を記録した1枚としても、決して忘れられないでしょう。

実は告白すると、私はハンプトン・ホーズが聴きたくてジャズ喫茶でリクエストしたのが、このアルバムとの出会いでした。そして当然ながらハンプトン・ホーズの凄い名演にシビレましたが、同時にバド・シャンクというマルチリードの名手にも邂逅し、またウエストコーストジャズの明朗な魅力の虜にもなったのです。

それはサイケおやじが十代だった1974年のことでしたが、その直後、私はある幸運によりアメリカへと旅立つことになりました。そしてこのライブ興業が行われたラグナビーチへも行くことが出来たのは、今となっては嬉しい思い出です。

それゆえにお土産として買ったのも、このアルバム♪♪~♪

本日は、そんな我田引水で失礼致しました。

そして最後にはなりましたが、バド・シャンクの御冥福を衷心よりお祈り致します。

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ニューヨークの秋はクリフォードの思い出

2009-04-14 12:45:53 | Jazz

Clifford Brown All Stars (EmArcy)


厳密に言えばクリフォード・ブラウンのリーダーセッションではありませんが、天才トランペッターの悲劇的な死後、残されていたスタジオジャムセッションから作られた、やはり人気盤のひとつだろうと思います。

録音は1954年8月11日、メンバーはクリフォード・ブラウン(tp)、ジョー・マイニ(as)、ハーブ・ゲラー(as)、ウォルター・ベントン(ts)、ケニー・ドリュー(p)、カーティス・カウンス(b)、マックス・ローチ(ds) という、文字通りのオールスタアズ! ブラウン&ローチ以外の面々にしても、当時の西海岸ハードバップを支えていた熱き心の持ち主ばかりです。

A-1 Caravan
 デューク・エリントン楽団というよりも、これまで度々述べてきたように、私の世代ではエレキインストのベンチャーズが十八番のヒット曲として馴染んでいるのではないでしょうか?
 それゆえにアップテンポでその場を牽引していくマック・ローチのドラミングが、当然ながらベンチャーズではメル・テイラーが敲き出すビートと同じグルーヴを持っていることに快感を覚えてしまいます。
 それは演奏ド頭から炸裂するマックス・ローチの熱血ドラミング、それに続くテーマアンサンブルからホーン奏者各人のブレイク、そして突入していくアドリブパートの烈火の競い合いに繋がるのです。
 先発で飛び出すアルトサックスはジョー・マイニですが、チャーリー・パーカー直系のフレーズを用いながら、その鋭角的なアプローチの魅力は絶大! 続くウォルター・ペントンの些かタレ流し気味のテナーサックスも、今となってはエキサイティングでしょう。
 また次に熱演を披露するハーブ・ゲラーのアルトサックスは、猛烈なアップテンポを逆にリードするが如き勢いが素晴らしく、この人はチャーリー・パーカー以前のスタイルも薬籠中のフレーズに変換する名手として、やはり流石だと思います。
 そしてついに登場するのが、クリフォード・ブラウンというわけですが、この肩に力が入りまくった激演には溜飲が下がります。というよりも、些細なミスを恐れない突進と素晴らしい楽器コントロールには本当に熱くさせられますし、リズムへのアプローチがマックス・ローチと一心同体の潔さ! 自分の持ちパート全体の構成なんか、全くの後回し的な即興の醍醐味! これがハードバップだと痛感させられます。
 またケニー・ドリューの突進力、カーティス・カウンスの骨太ウォーキングも、まさに黒人ジャズの真髄でしょうねぇ~♪ ですから終盤でマックス・ローチが演じる、長い長いドラムソロも退屈しないで聴けるのかもしれません。つまりここまで続いてきたビートの快感が、全く損なわれていないんですねぇ。これは驚異的じゃないでしょうか。
 全体的には「その場しのぎ」の連続かもしれませんが、それだってジャズという瞬間芸の為せるワザというか、素直に楽しまないとバチがあたるような感じがしています。

B-1 Autumn In New York
 そしてこれが、クリフォード・ブラウンならではという畢生の名演♪♪~♪
 曲はお馴染み、一抹のせつなさ、そして哀感が滲むスローなスタンダード曲ですが、それにしても初っ端からテーマメロディを見事にフェイクしていくクリフォード・ブラウンのトランペットが最高すぎます! いきなりのベースとのデュオ、そして地味~に入ってくるドラムスのシブイ存在感、さらに的確な伴奏に務めるピアノの上手さ♪♪~♪
 演奏はそのまま、クリフォード・ブラウンの全てが「歌」というアドリブに繋がりますが、これを聴いてハッとさせられるのは、ベニー・ゴルソンがクリフォード・ブラウンの悲劇の死を悼んで作曲した「I Remember Clifford」の元ネタが、これかもしれないと思うことです。
 実際、この演奏が世に出たのはクリフォード・ブラウンの死後ですし、ベニー・ゴルソンが件の名曲を書いたのが何時頃の事かは判然としませんから、そんな推察は虚しいかもしれません。しかし「I Remember Clifford」の決定的なバージョンとなったリー・モーガンのブルーノート吹き込み「Vol.3」におけるアドリブフレーズの幾つかは、間違いなくこの演奏でクリフォード・ブラウンが聞かせてくれるものと共通しています。
 あぁ、本当に素晴らしいですねぇ~~~♪
 そしてスローな展開でありながらグイノリの力強いビートを提供するリズム隊がしぶとい存在感で、特にケニー・ドリューのアドリブが味わい深いです。それに触発されたサックス奏者各人も、神妙にして熱の入ったプレイですから、なかなかに感度良好でしょう。

ということで、片面1曲ずつという長時間演奏集ですが、特にB面の「Autumn In New York」は全く飽きることない名演だと思います。

あぁ、「I Remember Clifford」が聴きたくなってきました。

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朝イチに聴くジェフ・ベック

2009-04-13 09:26:44 | Rock Jazz

哀しみの恋人達 / Jeff Beck (Epic)

ある日突然に聴きたくなる曲っていうのは、誰にでもあることかと思います。

で、本日のサイケおやじは、何故か目覚めた瞬間から、このメロディが聴きたくて♪♪~♪

ご存じ、ジェフ・ペックが生涯最高のヒット曲!

と、ファンならば誰しもが認めざるをえない名曲にして名演なのは言わずもがなでしょう。原曲名は「Cause We've Endes As Lovers」ですが、これはやっぱり、些か面映ゆい邦題がぴったりの泣きメロが、実にせつないですねぇ。

ちなみに当時は、これがスティーヴー・ワンダーの書き下ろし曲だっというのも話題になりましたが、それにしても最初から最後まで、ジェフ・ペックならではのギターインストですからねぇ、何度聴いても、たまらんですよ♪♪~♪

発表されたのは1975年ということで、時代はフュージョン全盛期でしたから、こういうスタイルの演奏も流行の真っ只中とはいえ、ジェフ・ベックのギターはロックサイドからの明確な挑戦でもありました。それゆえにジャズ系のファンからは聞かず嫌いでバカにする傾向もありました。

しかしこんなに鋭くて、しかもせつない「歌」をギターで表現出来るギタリストは、他に存在しないでしょう。それは現在でも同じだと思います。

この曲は途中で一瞬だけ、ギターの音色が変わるところからも、実は考え抜かれたフレーズ構成だったかもしれませんが、ジェフ・ベックの本質は感覚主義というか、野生の奔放さと繊細にして豪胆な音楽的な心が、最高に個性的なテクニックで表現されるところじゃないでしょうか?

イントロのボリューム奏法、思わせぶりな表現から急速フレーズを鮮やかに披露するキメ、そして泣きまくりのチョーキングやピッキングハーモニクスの使い方も絶妙です。

バックを務めるマックス・ミドルトン(key)、フィル・チェン(b)、リチャード・ベイリー(ds) の面々もジャズやソウル、そして王道ロックを幅広く吸収してきた名手ばかりですから、安定感があって、しかも鋭いツッコミも的確!

ちなみにプロデュースはビートルズでお馴染みのジョージ・マーテインというもの話題でしたねぇ。

しかしこの曲を収録したアルバム「Blow By Blow」は曲間が無く、LP片面がブッ続け状態でしたから、この曲だけきちんとカセットに入れようとするのは不可能に近く、それゆえに私はシングル盤を買って、お気に入りの選曲カセットを作っていたのも懐かしい思い出です♪♪~♪ う~ん、それも聴きたくなってきましたよ、とこかに片付けた記憶が……。

掲載したのは「来日記念盤」ということで、確か二度目の来日だったでしょうか? そういえば最近も来日し、エリック・クラプトンとのジョイントもやってしまったジェフ・ベックは、生涯ギタリストとして道を定めたように思います。う~ん、ブート買おうかなぁ……。

そんなこんなを様々に思うのが本日の朝でした。

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抜け出せないウイントン・ケリーの魅力

2009-04-12 08:36:21 | Jazz

Wynton Kelly (Vee Jay)

ウイントン・ケリーが嫌いなジャズ者って、いるのかなぁ~?

なんて戯言をタレるまでもなく、歯切れが良くて粘っこい、颯爽としてグルーヴィなウイントン・ケリーのピアノは最高ですよねぇ~♪

本日ご紹介のアルバムも名盤にして人気盤の1枚てすから、何時までも聴き飽きない魅力がぎっしり詰まっています。

録音は1961年7月20&21日、メンバーはウイントン・ケリー(p)、ポール・チェンバース(b)、ジミー・コブ(ds) という、当時のマイルス・デイビスのバンドでは鉄壁のリズム隊! つまりウイントン・ケリーが全盛期の演奏というわけです。

しかしこのアルバムには昔っからひとつの疑問点がつきまとい、それはジャケットに記載された、もうひとりの参加者たるサム・ジョーンズ(b) が、いったいどの曲で弾いているのか? ということです。そのあたりについてはジャズ喫茶でも論争が絶えないという、今では懐かしい思い出もあるほどですが、個人的には独断と偏見とはいえ、少しは聞き分けが出来るように思います。

A-1 Come Rain Or Come Shine
 本来はスローバラードのスタンダード曲ですが、ウイントン・ケリーは得意のミディアムグルーヴが全開の粘っこい歌心を存分に披露した名演を聞かせてくれます。
 硬質でシャープなジミー・コブのシンバルワークゆえに、それが新しいハードパップのひとつの道筋という感じですが、気になるペースはサム・ジョーンズだと推察しております。というか、この曲と続く他の演奏を比べると、明らかにベースの音色とノリが違うんですねぇ。所謂グイノリが強い、「先ノリ」のウォーキングとギシギシ歪む指弾きの音が特徴的です。それは短いながらも一瞬だけ演じられるペースソロでも明確じゃないでしょうか?
 しかしそんな事に気をとられることも出来ないほど、ウイントン・ケリーのピアノは快適ですよ♪♪~♪

A-2 Make The Man Love Me
 そしてこれが、淡く、せつないメロディのスローや演奏♪♪~♪
 クレジットではウイントン・ケリーの作曲とされていますが、これって、スタンダード曲じゃないでしょうか? まあ、どちらしても、素敵なメロディに変わりはありません。
 一般的にウイントン・ケリーはスロー曲がイマイチとか言われますが、この演奏を聴けば、それは一蹴されるでしょう。このメロディフェイクの上手さ、小粋なアドリブフレーズと絶妙のスイング感は絶対です♪♪~♪
 あぁ、泣けてきますねぇ~♪

A-3 Autumn Leaves / 枯葉
 これまたウイントン・ケリーの代名詞的な名曲名演! おそらくはマイルス・デイビスのバンドに入ってから十八番にしたのかもしれませんが、一説にはウイントン・ケリーの演奏を聴いてから、マイルス・デイビスがレコーディングしたという噂もあるほど!?
 ですから、ここでのウイントン・ケリーは薬籠中の快演で、小気味よいアドリブフレーズの連なりや飛び跳ねて、さらに粘っこい絶妙の「ケリー節」が存分に披露されます。
 ちなみにベースはポール・チェンバースでしょう。その柔軟なペースワークは、まさにこのトリオの要として、秀逸なアドリブと微妙に「後ノリ」の4ビートが実に心地良いと思います。

A-4 Surrey Wiht The Fringe On Top
 これもマイルス・デイビスの名演が残されている小粋なスタンダード曲ということで、アントン・ケリーはテーマ部分の演奏から、少しばかり趣を異にしたアレンジが新鮮です。
 そしてミディアムテンポのアドリブに入っては、ファンキーな味わいも強い、これぞの「ケリー節」が大サービスされるのです。
 淡々としてジャストなジミー・コブのドラミングが粘っこいペースとピアノをがっちりと支えることによって生み出される、このトリオならではグルーヴは本当に最高ですねっ♪♪~♪

B-1 Joe's Avenue
 ウイントン・ケリーが書いた変則的なブルースで、こういうテーマ部分の2ビートの絡みからして、ベースはポール・チェンバースでしょう。それに続く4ビートのウォーキングが、所謂「後ノリ」になっているのも特徴的です。
 肝心のウイントン・ケリーは颯爽としてグルーヴィな魅力が全開!

B-2 Sassy
 これもウイントン・ケリーのオリジナルで、前曲よりもグッと粘っこいテンポで演じられるグルーヴィなブルースです。そして明らかに異なる雰囲気のペースは、サム・ジョーンズじゃないでしょうか?
 幾分ツッコミ気味のペースにジャストなドラムス、そして粘っこく飛び跳ねるピアノという、実にハードバップの真髄を体現したこのトリオも、なかなかに魅力的だと思います。

B-3 Love I've Found You
 これは地味なスタンダード曲のスローな演奏ですが、おそらくはウイントン・ケリーのお気に入りだったのでしょう。同時期に録音されたマイルス・デイビスのライブ名盤「At The Blackhawk Vol.1 (Columbia)」でも、バンドチェンジの幕間に短く聞かせてくれましたですね♪♪~♪
 ここでも同様の雰囲気で、そのシブイとしか言えないメロディフェイクは、ウイントン・ケリーの別の顔を見たという感じでしょうか、私は好きです。

B-4 Gone With The Wind
 そしてオーラスは、まさにウイントン・ケリー・トリオの真骨頂という、アップテンポの大快演! シンプルなシンバルワークにビシッと炸裂する強烈なアクセントが最高というジミー・コブのドラミングも冴えわたりですから、ピアノとベースの強靭なコンビネーションも殊更に気持ち良いですねぇ~♪
 スインギーに転がりまくるウイントン・ケリーのピアノは、こちらがイメージするとおりのフレーズ展開を存分に聞かせてくれるのでした。

ということで、人気盤はやっばり良いなぁ~♪

ベーシストの問題は「Come Rain Or Come Shine」と「Sassy」だけが明確にサム・ジョーンズの参加として良いと思いますが、これはあくまでもサイケおやじの独断とお断りしておきます。

まあ、それよりもピアノトリオの快演盤として素直に楽しむのが得策でしょう。聴いているうちに自然にそうなってしまう魅力が、このアルバムには確かにあるのです。

近年は大量の別テイクを入れたCDも出回っているようですから、そっちも欲しいのが本音ではありますが、このアナログ盤には曲の流れとか構成の妙に不思議な愛着が感じられ、おそらく私は死ぬまで愛聴する予感がしています。

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なにがなんでもズート・シムズ

2009-04-11 09:54:40 | Jazz

Choice / Zoot Sims (Pacific Jazz)

音楽の世界には海賊盤というジャンルがあって、それは非公式レコーディングを第三者が勝手に発売して利益を得ている違法なブツですが、もちろんファンにはとっては「お宝」ですから、一概に否定する気にはなれません。実際、サイケおやじは、そんな音源にも手を出しては一喜一憂しています。

そして中には詐欺まがいのブツも確かにあるんですが、そのあたりは立派な表舞台のレコード会社にだってあるわけで、例えば本日ご紹介のアルバムなんか、その最たるもんだと一時は憤慨しつつ、実は存分に楽しめる1枚だと思います。

まずA面はジェリー・マリガンの名盤「California Concerts」と同じ時の録音、またB面には女性歌手のアーニー・ロスが1959年に吹き込んだ歌伴セッションから、そのバンドだけの演奏を収録していますが、結論から言えば元々の録音を編集したり、再収録したりという些かあざとい部分が目立ちます。

しかしアドリブプレイヤーとしてのズート・シムズの実力と名演は存分に楽しめるという、まさにタイトルどおりのチョイスが面映ゆいのです。

ちなみに参加メンバーはズート・シムズ(ts)、ジェリー・マリガン(bs,p)、ボブ・ブルック・マイヤー(v-tb,p)、ジョー・アードレイ(tp)、レッド・ミッチェル(b)、ラリー・バンカー(ds) というセクステットのA面が1954年12月のライブレコーティング♪♪~♪ またB面は1959年3月の録音でズート・シムズ(ts)、ジム・ホール(g)、ラス・フリーマン(p)、モンティ・バドウィグ(b)、メル・ルイス(ds)、ビリー・ビーン(g) という凄い面々ですが、曲毎のバンド編成は原盤裏ジャケットに明記されています。

A-1 I'll Remember April
 既に述べたようにA面は「California Concerts」には未採用となったアウトテイクとはいえ、流石は名盤誕生時の充実度という、これも劣らぬ快演だと思います。
 曲はお馴染みのスタンダードですから、良く知られたメロディがズート・シムズの素晴らしいフェイクとアドリブによって、まさに桃源郷のモダンジャズ♪♪~♪ ちなみに弾みまくったピアノはボブ・ブルックマイヤーで、ジェリー・マリガンとジョー・アードレイが抜けたワンホーン演奏というのも高得点です。
 あぁ、このスイング感と豊かな歌心ばっかりのアドリブフレーズ♪♪~♪ これがズート・シムズの真骨頂でしょうねぇ~♪ グイノリのペースと気持ちの良いビートを刻むドラムスも良い感じで、実はちょいと感じられるテープ編集の疑念も晴れるでしょう。

A-2 Flamingo
 しかしこれは、詐欺じゃねぇ~のかっ!?
 と、思わず絶叫したくなるトラックです。
 演奏に参加しているのは前述の6人組なんですが、せっかくズート・シムズが夢みるようにテーマメロディを吹奏してくれるのに、それだけしか無いんですよ……。
 つまりテーマが終わったところで、残酷にもテープをバッサリと切り捨て、拍手を被せたという無慈悲な編集が??? う~ん……。
 ただし、それゆえにズート・シムズのテーマ演奏が尚更に眩いといえば、自分に言い聞かせる言い訳のようなせつなさです。

A-3 There Will Never Be Another You
 そういうモヤモヤした気分を晴らしてくれるのが、このスタンダード曲のスイングしまくった快演! ここではジョー・アードレイが抜けたクインテットで、ピアノはジェリー・マリガンが弾いていますが、まずはボブ・ブルックマイヤーのバルブトロンボーンがリードするテーマメロディに絡んでいくズート・シムズという素敵な構図、さらに明快にドライブしていくリズムコンビの素晴らしさにシビレます♪♪~♪
 もちろんアドリブパートは歌心がいっぱい♪♪~♪ 特にズート・シムズは全く尽きることのない千変万化のフレーズを乱れ打ちですよ。ノリの良さも抜群ですが、それにしてもラリー・バンカーのブラシの気持ち良さ、そしてレッド・メッチェルの骨太4ビートは、ウエストコーストジャズが最高の瞬間だと思います。
 ちなみにここでもテープの編集が施されているようですが、それほど気にはならないでしょう。

A-4 Red Door
 しかし、またまたこれも詐欺的なトラックで、なんと前述した名盤「」からの再収録という演奏なんですねぇ。まあ、名演には違いないのですが、なんだかなぁ……。
 という苦言や嘆きは一先ず棚上げにして、ズート・シムズのテナーサックスとジェリー・マリガンのバリトンサックスが、まさに歌心の競演、というよりも饗宴と書くべきでしょうか、そのアドリブの最高な雰囲気はジャズを聴く喜びに他になりません♪♪~♪
 浮かれたリズムとビートの楽しさも天下逸品です。

B-1 You're Driving Me Crazy
 ここからのB面は既に述べたように、アーニー・ロスの歌伴セッションて集まったバンドだけによる演奏で、基本はズート・シムズのワンホーンですから、歌心と快適なジャズビートは言わずもがな♪♪~♪
 まず、この曲にだけ参加したギタリストのビリー・ビーンがイブシ銀のイントロから、ズート・シムズが名人芸のメロディフェイクというテーマ部分だけで、気分がジャズにどっぶり惹きこまれます。ラス・フリーマンのピアノとビリー・ビーンのリズムギターのコンビネーションも絶妙の素晴らしさですし、ドラムスとベースのリラックスしたスイング感も最高の極みじゃないでしょうか。
 そしてズート・シムズのアドリブが絶品の歌を演じれば、ラス・フリーマンがファンキー味をヒタ隠しというピアノで、憎めません♪♪~♪
 いゃ~、ジャズって、本当にイカシていますねぇ~♪

B-2 Brushes
 タイトルどおり、メル・ルイスの素晴らしいブラシをメインにしたミディアムテンポのブルースということで、全員のリラックスした至芸がたまりません。ちなみにここでのギターはジム・ホールが弾いています。
 気になるズート・シムズは思わせぶりなスタートからブルースな味わいが深く、またラス・フリーマンのピアノがファンキー道を歩んで行きますから、ジワジワと黒っぽさが滲む演奏になっています。
 そして主役のメル・ルイスがブラシによるドラムソロ♪♪~♪ これが地味ながら滋味豊という、ほとんど洒落になっていない生真面目な雰囲気です。つまり賛否両論だと思うのですが、しかしジャズの王道には違いないと思います。
 
B-3 Choice Blues
 オーラスは、これも即興的なブルースのハードにドライヴしたモダンスイングの大快演! 初っ端から快調にブッ飛ばすズート・シムズのテナーサックスからは、こちらが望むフレーズとノリが連続射出され、またラス・フリーマンの白人ファンキーなピアノが全開です。明瞭にして懐の深い、実におおらかに4ビートを作り出すバンド全体の雰囲気も楽しいですねぇ。
 ちなみにギターは原盤解説によればジム・ホールになっていますが、アドリブソロのペラペラな音色は??? 何時もの膨らみのある個性が聞かれませんが、これ如何に!?

ということで、些かの苦言や我儘も書いてしまいましたが、ズート・シムズの素晴らしい個性を楽しむには最適のアルバムかもしれません。実はこんな内部事情を書いてしまったことを後悔するほどです。何も知らずに初めて聴けば、ズート・シムズというテナーサックス奏者の魅力に完全KOされること請け合いだと思います。

そして、こういう窮余の一策っぽいアルバムを作ってまでもズート・シムズを自社のカタログに入れたかった制作者側の熱意といっていいのでしょうか? そういう心意気も強く感じるところです。

それがジャズの魅力のひとつかもしれませんね。

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