一昨日の早朝、30年の付き合いがある、若い親友が癌で亡くなった。この31日で53歳になるはずの若さで。その夜の仮通夜で死に顔を見た時は、泣けて仕方なかった。いろんな特技、能力があって、周囲の人のために良い人生を送られたお人だったと思う。そんな気持ちもあって今日は、同じ同人誌の仲間の随筆を一つ、ご紹介したい。血液の癌を患っている、5歳ほど上の先輩の作品だ。
『 人生設計 S・N
これまで、十年をおおよその区切りにして何か身につけるように努めてきた。退職してからも、六十歳代ではエッセーを書き始め、七十歳代では淡彩スケッチを楽しんでいる。
ところが、がんを患ってからそんな長期間の人生設計ができなくなった。いまでは、だいたい六カ月の予定しかたてられない。それ以上は無理。生きられる確信がない。たとえば、春になって花を見ると〈秋には紅葉がみられるかな〉と思う。心臓に持病をもつ親しい友だちは、もっと短くて、三カ月くらいらしい。だから、春がきても、今年の夏は越せる、という自信はないとか。
もう四十年くらい前になるだろうか、お盆に帰省し四国へ帰るとき、おじいさんが「もう会えないかも……」そういって涙を流した。その気持ちが、いまやっと理解できる。
もう短期間の人生設計しかできなくなった。が、その反面、いいこともある。やりたいことがあれば、すぐやるので、これまでよりも毎日が充実している。悔いがない。以前は、いい万年筆が欲しいな、と考えていた。それがいまは、たとえ手にいれたとしても〈使いきれない〉そんな思いがして、買う気がしない。欲も失せた。古人もいっている。「今日は最良の一日、いまは無二の好機」と。一日、一日が、いとおしい。』