ザック・ディフェンスの解説
前置き・守備に脚光を!
先回は、アルゼンチン戦、韓国戦を完封したセンターバック2人の記事を書いた。日本のサッカーマスコミが点取り屋や司令塔以外をクローズアップし始めたのが好もしかったからだ。そして今回は、この2戦のディフェンス構造の解説をやってみたい。折良く最新号のサッカーダイジェスト誌が100人の識者によって大小の実に細かい分析を行っているので、そのいくつかを種本にして。最も参考になったのは、「イタリアのサッカー戦術アナリスト」と肩書きがあったマッシモ・ルッケージによる、アルゼンチン戦守備分析。これは、秀逸だと思った。
前置きの一つとして、例えば最近ずっと本田圭佑が点を取れなくなっていたことについての私見を書くが、僕は相手守備側の対応変化を想像する。彼は「とにかく自分でシュートを打ちたい」人だと分かってきたのだから、本田周囲の人間へのマークを多少手薄にしても本田に詰めればよいのだ、と。すると、一人で無理をして、失敗してくれるのである。こういう人物はチームから嫌われ、監督の命令がない限り良いパスも来なくなる。ちなみに、南ア大会デンマーク戦だったかに岡崎へのアシストがあったが、あれは例外的な状況だったと思う。あの前に自身が得点していたということと、あの時は自分の目前にはキーパーが詰めていたが、直ぐ隣で岡崎がドフリーだったのだから。あそこでは本田のパスは当然のこと、詰めていた岡崎が偉いのである。因みにザックは、本田のような人物を好まない。「特別な選手を作らない」という人だった。そういうやり方が、3つのイタリアビッグクラブでよく反発を招いたのは、有名な話である。有名選手を押し出せと言う商業主義に、合わないのだろう。
「点を取る奴が一番偉い」という単純極まりない本田のサッカー哲学は、こういう哲学用の守備戦術によって敗北を運命づけられていると言える。「本田は、ゴール前でも見方にパスするようになった」と改めて見直されるのでなければ、得点はますます難しくなるだけだろう。
ある守備分析
さて、ルッケージの分析を、僕流に要約してみる。
①通常の陣形4-2-3-1が、完全防御体制では4-4-1-1へと変わる。サイドアタッカーの岡崎、香川がボランチの位置近くまで下りてくることと、岡田ジャパンよりも4-4の位置が高いこととが、重要ポイントだ。
②この岡崎または香川がボランチやサイドバックと連携して、敵ボール保持者をサイドに追い込んでいく。その際、もう一方のサイドなど他選手は、自分のマーク相手がパスを受けられないように厳密な警戒態勢を取る。
③敵ボール保持者は、ドリブルなどで中央に流れるか、苦し紛れにロングボールを蹴ることになる。これに対しては、中央ではDFとボランチとが接近しあった2本のラインの網に引っかかることになり、他サイドへのロングボールはやはり3人ほどの網に引っかかる。
④こうして敵ボールを絡め取る場所が比較的高い位置で、8人が密集した地域だから、スムーズなショートパス攻撃に移りやすい。この論文とは別に、こんな資料もあった。この2ゲームの1ゲーム当たり総パス数もショートパス数も、南ア大会に比べて5割以上増え、成功率もかなり上がっている。前方に構え、ボールキープ力のある本田にボールを当ててなだれ込む攻撃も前と同様に多かった。
この守備の諸結果数字など
さて、上記②③のように両サイドに押し込まれた敵は別の資料によれば、それぞれボール喪失総数の内の45%近くを両サイドで失った。逃れ道は各々、こうだった。アルゼンチンは中央に流れ、韓国はロングボールに逃れた。アルゼンチンがショートパス攻撃を得意とし、韓国は近年こういうロングボールで体力勝負を挑んで日本を苦しめてきたからである。この結果は、こうだ。アルゼンチンは中央突破ができず、韓国はこのロングボールを日本に取られた。栗原、今野、長谷部たちに。韓国戦の日本が実に59%のボール保持率だったのは、このせいである。近年珍しいことだと思う。
アルゼンチンのメディアは、活躍選手を実にきちんと見ていたようで、三つのメディアの選手採点表の記事が別にあったが、岡崎と香川がダントツなのである。上記ルッケージと同様に「攻『防』に最もよく働いた」と褒めていた。あれだけ頻繁に下りてくる日本人らしい勤勉さを評価したわけだが、岡崎はもちろん、香川も走れるのだろう。
韓国戦については編集部の採点表があったが、長谷部と本田が最高点だった。韓国が挑んだ体力勝負に堂々と応えて、中盤では長谷部が、前戦では本田が勝っていたということに違いない。韓国は、二人が引っ張った日本のこの激変に驚いていたようだ。
攻撃陣で、前田遼一を書く予告
以上は、岡田ジャパンが目指したような組織的守備の修正、前進ということなのだが、ここに表れているザックの才能は、大したものだと思う。流石「1対0が理想」のイタリア人!
攻撃についてはまた別に書くが、前田遼一に目を見張ったという人々が内外ともに多くて、嬉しかったこと! 韓国マスコミと清水のヨンセンなどが、いずれも激賞していた。日本FWでは、ザック・システムのワントップに最も嵌りやすいタレントだと思う。高さはあるし、裏にも抜けられるし、本田と違って良い位置にいる味方には必ずパスを出すし、代表のメッシやテベスと違って守備もちゃんとやるという、優れた万能選手にして去年久々の日本人Jリーグ得点王なのである。岡田武史氏が何故彼を使わなかったかが、僕にはさっぱり分からない。また、日本相手には守備を固めてくるアジア杯には、最適の選手だと、推薦しておきたい。今の前田に岡崎が組めば、アジアでは楽勝だと思える。