Sixteen Tones

音律と音階・ヴァイブ・ジャズ・ガラス絵・ミステリ.....

寺田寅彦と現代

2017-06-12 08:02:28 | 読書
池内了「寺田寅彦と現代――等身大の科学をもとめて」みすず書房(2005/1).カバーイラストはダ・ヴインチ「水の運動」.
みすず書房らしい本.2013 年に電子書籍化されている.

目次は,
第1章 「二十世紀の予言」と現代 / 第2章 寺田寅彦が提唱した新しい科学 / 第3章 技術と戦争を巡って / 第4章 科学・科学者・科学教育 / 第5章 自然災害の科学 / 第6章 科学と芸術 /第7章 寅彦と宇吉郎、そして現代.

第7章を除き,長い著者の文章がせいぜい数行までの寺田寅彦の文章を引用する形式.寺田の文章をじっくり読み,著者の文章は悪いけれど斜め読みした.

寺田の時代以後,物理学の潮流は素粒子論よりになったが,現在は複雑系の問題も脚光を浴びている.著者は第2章で,寺田は半世紀も前に複雑系を意識していたと力説する.第4章では著者は今後の方向として「等身大の物理学」と「新しい博物学」を提案し,これらは寺田も構想していたことであろうと推測している.
第3章・第5章を読むと,われわれが現在感じている不安を寺田も感じていたことがわかる.しかし自分を省り見ると,定年を迎えて初めてこうした問題を考えるようになった.彼は 57 で没しているので,若い時から年寄りっぽかったのか.もっとも当時は 40 歳 50 歳は御隠居様だったかもしれない.
さらに省みると,自分が寺田の文章をちゃんと読んだのも定年後=隠居後だ.

第6章に音楽を柱にした記述を期待したが外れた.しかし「バイオリンを弾く物理学者」という本が意外につまらなかったので,このテーマを外したのは懸命だったかもしれない.寺田が現代に生きていたらミステリーや SF に関心を示したかもしれないと思うと,少し残念.

第7章では寺田の「門下生」として中谷宇吉郎がクローズアップされるが,坪井忠二や平田森三に寺田の影響が大きいと思う.寺田の影響はわからないが,伏見康治・有馬朗人あたりも文人科学者っぽい.しかしこの2人は政治・権力志向がちらつくのが難.
この章は「科学の終焉」で終わる.

☆☆☆★
コメント
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reading

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