ジェスミン・ウォード,石川由美子訳,作品社(2020/03).
Amazon,紀伊国屋書店サイトなどの内容説明*****
アメリカ南部で困難を生き抜く家族の絆の物語であり、臓腑に響く力強いロードノヴェルでありながら、生者ならぬものが跳梁するマジックリアリズム的手法がちりばめられた、壮大で美しく澄みわたる叙事詩。現代アメリカ文学を代表する、傑作長篇小説。全米図書賞受賞作!*****
主人公は13歳の混血少年ジョジョ.その母レオニ,幼い妹ケイラなどと釈放される白人の父を迎えに行く道中を詳しく描いているのでロードノヴェルなのだろう.レオニとジョジョとの関係は悪く,ジョジョとケイラは祖父母を父・母と呼んでいる.祖父が刑務所で虐待された時代がバックにある.全15章はそれぞれ,ジョジョ,レオニ,リッチーの一人称で語られる.最後のリッチーは「葬られぬ者たち」の一人で,日本流に言えば成仏できないままでいる.彼は亡霊として登場するのだが,彼が見える血筋と見えない血筋がいる.リッチーとジョジョの祖父との因縁がひとつの鍵だが,祖父にはリッチーが見えない.
ヤギの解体という暴力シーンが幕開けで,麻薬でハイになる描写もある.道中でケイラはゲロばかりしている.次はレオニが警官に捕まりそうになって持っていた麻薬を丸呑みし,その後ゲロゲロする.こういう小説を読むのは楽ではない,と言うよりやりきれない.しかし最終的には読んでよかったと思った.
訳者あとがきには「青木耕平氏が素晴らしい解説を寄せてくださった」とあるが,その解説は挟み込み.それによればこの小説はふたつの雑誌,タイムとエンターテインメント・ウイークリーがそれぞれ独立に選んだ「2010 年代最高の小説 10 冊」の1冊に選ばれているそうだ.