マーセル・セロー,村上春樹 中公文庫(2020/01).単行本の刊行は2012/04.
Amazon の紹介*****
極限の孤絶状態に陥り、 酷寒の迷宮に足を踏み入れた私の行く手に 待ち受けるものは――
最初の1ページを読み始めたら、決して後戻りはできない。 予断を揺るがし、世界の行く末を見透かす、 強靱なサバイバルの物語。
この危機は、人類の未来図なのか。 村上春樹が紹介した英国発の話題作、いよいよ文庫化。*****
文庫本で 400 ページ強.読めば満腹できる.しかし訳者あとがきが 3.11 とこじつけているような,上等な小説ではなく,ページをめくるたびに状況が変わる冒険小説.終盤,過去の因縁に絡んだ新事実が一挙に現れるところはミステリみたい.村上の小説より面白い !?
舞台は人類が絶滅に瀕した近未来.でもそれは温暖化のせいか,ウイルスのせいなのか,いまいち分からない.一人称の「私」が女性であることが,30ページくらい読み進んだところでやっとわかる.「私」に分からないことは読者にも分からない.例えば,世界の全体像が見えてこないのはちょっと歯痒い.核反応を思わせる光るフラスコの正体もわからないままに終わる.反面,雪の上に小便をし,その匂いにつられて集まってくるカリブたちを生捕りにするといった,具体的な記述が面白い.
全体に暗鬱なトーンに支配されているが,最後に希望が見えるようでもある.
巻末の地図は不必要.ビル・エヴァンスという名前の人物が登場する.カバー絵 高山裕子.