Sixteen Tones

音律と音階・ヴァイブ・ジャズ・ガラス絵・ミステリ.....

太宰治「右大臣実朝」

2022-10-03 09:04:15 | 読書
太宰治「右大臣実朝 他一編」岩波書店 (文庫 2022/8).
初出は錦城出版社 (1943).
図書館で借用.

岩波書店の HP より
*****『右大臣実朝』は、戦時下に書かれた太宰治(1909-48)の歴史小説。破滅に突き進む同時代への想いは、中世の動乱期に悲劇的な最期を遂げた歌人にして為政者・源実朝の生涯を通して語られる。歴史文献『吾妻鏡』と幽美な文を交錯させて語られる。本作創作の経緯と同時代批判を伝える随想「鉄面皮」を併載(解説=安藤宏)。*****

太宰治がこんな本を書いているとは知らなかった.彼の小説では一番長いそうだが,力作と言えそう.夫人によれば太宰は実朝に入れ込み,憑依された状態になった時代があったらしい.
「吾妻鏡」の短い引用と,太宰の文章が交互に現れる.後者は実朝の近習の一人称で語られるが,まったく改行がない.改行のチャンスは実朝のセリフと和歌だけだが,ここは漢字混じりのカタカナ文が使われる.実朝さんは外人扱い ?

ストーリーを導く吾妻鏡は読みにくいが,斜め読みしても筋がわからなくなるわけではない.クライマックスを期待した暗殺場面は「承久軍物語」の引用でかわされた.最後の1行は「増鏡」の引用.
解説 (安藤宏) によれば,これら古典の引用に太宰が改変を加えていると言うことである.

語り手の近習は実朝に惚れ込んでいて,言うことも贔屓の引き倒し的だが,それでも破滅的結末を匂わせる.最後の20ページちょっと前に公暁すなわち実朝の暗殺犯が現れ,太宰の小説らしくなる.彼が蟹を捕らえて焼いてしゃぶりながら,近習と会話する3ページには普通に引用カッコも改行もある.
ミステリみたいに「主要人物一覧」があって役に立つ.

他一編の随筆「鉄面皮」は,太宰が「右大臣実朝」執筆の経緯を語ったもの.自分の小説の宣伝を恥ずかしがってのタイトルだろう.
この出版は 大河ドラマ「鎌倉殿の 13 人」に当てたものかな.
「右大臣実朝」だけなら青空文庫でタダで読める.でも岩波版の解説は読み出がある.
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