Sixteen Tones

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小沼丹推理短編集 古い画の家

2022-10-30 09:04:21 | 読書
「小沼丹推理短編集 古い画の家」中央公論新社 (中公文庫 2022/10).

小沼丹 (1918-1996) は英文学者にして純文学作家.井伏鱒二を師と仰いだのだそうだ.でもぼくが読んだのは「黒いハンカチ」 三笠書房 (1958) の文庫版 (創元推理文庫 2003) だけである.「黒い...」では女子校のニシ・アズマ先生が鋭い観察眼と明晰な頭脳で日常の謎を解き明かす.多少のツッコミどころはあるとしても,本格推理短編の名作と思う.

本書は9篇プラス附編2編.9篇が本書のテーマである推理短編らしい.ただし いわゆる推理小説を期待するとはぐらかされる.
三上 延の解説の文章を借りれば,「物語が進むにつれて主人公たちをより深刻な危機に陥らせ,サスペンスを高まらせるのが定石なのだが,山場でも節度を保ったユーモアにくるんで結末までもっていく.」「行き違いを増幅させて騒動をもりあげるようなあけすけさはない.」「今ここで事件が起こっている,と読者に錯覚させるような臨場感に筆を振るわない.」
解説によれば,これらの推理短編は著者の純文学的短編と五十歩百歩というところらしい.

われわれの日常では,事件性がありそうなことも,何となくうやむやに終わってしまうことが多い.それを考えるとこれらの短編には妙なリアリティが感じられる.
トップの短編「古い画の家」の主人公は中学生で,その頃の自分をなんだか はっきりと思い出させた.

「黒い...」のような論理的な展開はない.共通するのは登場人物の名前がカタカナ表記されるくらい.例外は「赤と黒と白」で赤井は白浜を,黒田は赤井を,白浜は赤井を殺したい.「王様」と「リャン王の明察」は架空の国が舞台.これら「赤と...」以下の3編にはおふざけもあり,ストーリーはふつうの推理小説に近い.

でもぼくのベストは,附編「海辺の墓地」.

カバー装画 Ema Kawanago.
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