アガサ・クリスティー,麻田実 訳「ブラック・コーヒー」早川書房 (クリスティー文庫 2004/1).図書館で借用.
クリスティーは他人の脚本による「アクロイド殺人事件」の舞台化に不満で,1929 年にこの戯曲「ブラック・コーヒー」を書き下ろしたのだそうだ.
Wikipedia のあらすじ*****科学者のクロード・エイモリー卿は、家族を前にして、探偵のエルキュール・ポアロを家に呼んだと言った。彼は、研究していた原子爆発の方程式が盗まれたと言い、部屋を真っ暗にしておく間に、方程式が入った封筒を返すように勧めた。その後、電気がつき、封筒が机に置かれていたが、クロードは死んでおり、封筒はからだった。*****
方程式を書いた紙っぺらが巨万の富をもたらすという想定があまりにクラシカル.「これといって特徴のない28歳」と紹介された男性が犯人.ポアロが毒殺されそうになるが,こちらには毒殺されないと分かっているので茶番である...というわけで,ミステリとしては凡作.
著者の死後 1997 年に小説にリライトされ,翻訳も出ているが,まったく場面が変わらない小説なんてどんなもんだろう.
もう一編,1958 年の戯曲「評決」も収録されている.亡命歴史学者とその病弱な妻が世話役の従妹と住む家に,お節介な家政婦や,美人の教え子,学生などが出入りし,激情に目が眩んだ殺人劇に発展する.舞台で毒殺が行われるから,ミステリではない.上演されたが興行的には失敗だったが,しかし著者のお気に入り入りの作品ではあるそうだ.
クリスティーのミステリにはたいてい人間ドラマ的な部分があるが,「評決」は人間ドラマだけ.逆に「ブラック...」は人間ドラマが希薄.16 トンはどちらかと言えば「評決」を評価する.
Youtube 動画はクリスティーとは何の関係もありません.