エーリヒ・ケストナー, 酒寄 進一 訳「独裁者の学校」岩波書店 (文庫 2024/2)
ケストナー 1956 年の戯曲だが,構想したのは 1936 年で,この年彼は当局に睨まれた結果著作をドイツ国内で販売できなくなった.
戯曲では独裁者であった大統領はすでに暗殺されていて,替え玉がその役を務めている.この大統領の替え玉養成所が「独裁者の学校」である.替え玉大統領の生殺与奪,すなわち替え玉を交代させる権利は大臣達と大統領夫人が握っている.替え玉達のひとりが反体制派のリーダーで,クーデターを起こす.
子ども向きの作品と異なり,もやもやした結末.「学校」がハレムみたいだったり,大統領夫人に若いツバメとか.全9場 (幕) ですぐに気分がリセットされるのはいいが,上演は楽ではないと思う.
著者の構想の時点では独裁者・イコール・ヒトラーだったろうが,完成された作品ではヒトラー臭は希薄.著者もテーマを一般化することが念頭にあったのだろう.
16 トンはプーチンがすでに替え玉だったら...と,想像した.だとすれば,黒幕は誰だろう,なんて.解説によれば,ドイツでも本作は今日的なテーマゆえに再認識されているそうだ.
岩波文庫のカバーのイストレータは,あの人とすぐにわかった.ケストナーのほとんどの児童書「飛ぶ教室」「エミールと探偵たち」「ふたりのロッテ」「動物会議」「五月三十五日」等々の さしえ画家ワルター・トリヤー (トリアー Walter Trier) である.イラストのタイトルは Die Standarte des Präsidenten.大統領 Präsidenten がロボットめいているが,本文にそう言う記述はない.
子供でも動物でもない へんなおっさんの絵からも画家を同定できてしまうところが,すごい.
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